第3章 グラスの優しさ
第9話 沢山の種族と
シビルちゃんを初めて村に連れて来てから、食料集めをする日とエイリーク君と一緒に過ごす日を決めるようになって、日ごとにシビルちゃんは色々な事を覚えていきましたあ。最近では料理のお手伝いもするようになってきて、わたしもシビルちゃんも出来る事が少しずつ増えて行きましたあ。
「シビルちゃんの切った野菜で作ったサラダ、美味しかったですう」
「そうか?食べられればそれでいいと思って適当にやってたが」
「見た目よりも、気持ちがこもっていればいいんですよお」
「ああそう……」
朝食を食べた後、今日の予定を確認しましたあ。今日のシビルちゃんはエイリーク君の家で過ごす事になってますう。
「エイリーク君と仲良くするのですよお」
「分かってるって」
バサアッ!
今日もアルブル村へと出発しましたあ。
* * * * * * *
シビルちゃんをエイリーク君の所に預けた後、いつものようにみんなのお手伝いに行きますう。
「皆さん、おはようございますう」
「おお、グラスか。今日も店内の客はお祭りの話題で持ち切りだよ」
先日から、アルブル村のパン屋さんに貼られていたチラシには、もうすぐお祭りを開催すると書いてありましたあ。
「今日はこの荷物を届けておくれ」
「今日もお仕事頑張りますう」
いつものように仕事をしていると、色々な所にもお祭りのチラシは貼ってありましたあ。しかもそのチラシはよく見ると、屋台を出してくれる人も募集中とも書かれていましたあ。
「わたしも何かお店を出してみたいですう。後でシビルちゃんにも相談してみますう」
仕事を終えて、家に帰ると、シビルちゃんと夕飯を食べながら話し合ってみましたあ。
「わたしも、今度のお祭りで、なにかみんなにご馳走してみたいと思うのですがあ、シビルちゃんにも何か良い考えはあるのでしょうかあ」
「いきなり言われてもな……お前の好きな凍った魚でも出すか?」
「それじゃあ冷たすぎますう!もっとみんなが食べれそうなのがいいですう!」
「でもお前、熱い料理は苦手なんだよな」
「そうなんですよお……シビルちゃんも祭りの日までに考えてちょうだいねえ」
「やるだけやるよ」
お祭りが始まるまであと一週間ほど。何を食べさせれば喜んでもらえるのでしょうかあ。
* * * * * * *
次の日、本当は森で食材集めの予定だったが、外は生憎の雨だったので、俺はエイリークの家で過ごす事になった。それにしてもグラスは雨の中でも平気で飛べるのがすごいよな。ちゃんと荷物も防水の箱に入れて運ぶし、雨に濡れたら風邪ひいちまう人間よりも強いんだよな。なんて思ってると、エイリークが一冊の本を持って俺に見せてくる。
「なあシビル、これ一緒に読んでみるか?」
「何それ」
「色々な地域の文化が沢山書かれている本。いつか色々な所を冒険するためにも、これを読んで勉強しているんだ!」
「でも、俺は字もまだあんまり分からないし……」
「これも読み書きのためだと思って一緒に見ようぜ!俺が出来る限り教えてやるからさ!」
「ああ、分かったよ」
エイリークの開いた本には、色々な土地の文化が絵と文字で紹介されていて、字の分からない俺はエイリークの案内で理解しようとした。すると、あるページが目に止まる。
「見ろよ!削って雪みたいになった氷に甘い果汁のシロップをかけて食べてるぜ!」
「そんな食べ方もあるのか……おい待て、これはグラスに教えるべき事だ!」
「え?グラスに教えるって?」
「このページを何か別の紙に書けるか?」
「分かった、やってみるよ!」
エイリークは俺の前でページの書き写しをした。これもグラスと一緒に誰かの役に立つためだ。グラスの仕事が終わると、俺はそのページを大切に持って家に戻った。そんでもって、俺はグラスに見せてやった。
「なあグラス、エイリークがこういうのを見せてくれたんだ」
「わあ、何でしょうかあ」
「これだ。氷を削って雪みたいになったものに果汁をかけて食べるんだ」
「ええっ!こんな食べ方もあるのですかあ!?」
「これは『かき氷』というらしい。今、作れるか?」
「や、やってみますう!」
するとグラスは汲んだ湧き水を凍らせて、両手に付いた黄色い爪で氷を何度も引っ掻いた。
シャリシャリシャリシャリ……
俺は削って出来た雪の上に、握り潰したイチゴをかけて食べてみた。本当は果物を砂糖漬けにして『シロップ』というのをかけるんだが、お試しの意味ですぐ食べれる方を選んだ。
「こ……これは美味えっ!!!グラスも食べてみな」
「まあ……とっても美味しいですう!!!これならきっとお祭りに出したらみんなが喜んでくれるですう!!!」
いつも以上にはしゃぎすぎた俺とグラスは、勢いに任せてかき氷の味を楽しんでいた。家にある果実は一通り試した。なんだかんだでイチゴが一番美味い気がする。後でエイリークから教えてもらった事だが、果実を砂糖漬けにするとシロップが出来るという。これをかけるとすごく美味いんだとか。
次の日、俺とグラスは祭りの実行委員にこのかき氷を見せると、屋台を出す許可をもらったのであった。
「当日は沢山作れるといいですねえ」
「俺も手伝える事ならやってやるからな」
そうこうしている内に、いよいよお祭りの日がやってきた。
* * * * * * *
お祭りの日。わたしとシビルは屋台を用意して、後ろにはあらかじめ用意した大きな氷と、イチゴやブドウやメロンなどを砂糖漬けにしたシロップの瓶が置いてありますう。これもシビルちゃんがエイリーク君から作り方を教わって作ったのですう。
「これもみんなの役に立つため、シビルちゃん、準備はいいですかあ?」
「やるだけやるよ。あのエイリークが教えた事をこういう感じで出来るんだからな」
いよいよ、お祭りが始まりましたあ。屋台には沢山の人達が集まって来ますう。
「かき氷、ひとつくれるかな」
「はいですう!」
シャキシャキシャキィ!!!
「味はどれにする?」
「イチゴでお願いします」
わたしが氷を引っ掻いて作った雪の上にシビルちゃんはシロップをかけてお客さんに渡しましたあ。
「おおっ!これは美味しい!」
お客さんが喜んでくれて嬉しいですう。この後もお客さんが沢山来たので、わたしとシビルちゃんは大忙しですう!
「まさかこの時期に氷を美味しく食べれるとはな」
「本でしか見た事が無いものが本当に味わえるなんて」
「シロップ全部かけをお願いします〜」
思った以上の大盛況ぶりですう!すると今度はエイリーク君が両親と一緒に来てくれましたあ。
「これがグラスとシビルのかき氷屋さんか!父ちゃんと母ちゃんの分も頼むぜ!」
「はいですう!三人分も気合を込めますう!」
家族三人の分も作りましたあ。腕の疲れも、美味しい食べている所を見るとスーッと抜けていきますう。
「いやあ美味い。エイ坊も良い友達を持ったな」
「これからも仲良くしてやってちょうだいよね」
「今度の祭りでも、いや、祭りの日じゃなくてもかき氷作ってくれよな!」
「もちろんですう!」
お客さんは人間の他にも、獣の特徴を持つビースト族や翼を持ったバード族、水辺に住むマリーン族や昆虫の特徴を持つインセクト族といった色々な種族のお客さんもいますう。
「毛深かったり羽付いてたり鱗があったり。世の中には色んな奴がいるんだな」
「彼らは昔はそれほど盛んに交流してなかったのですが、あるドラゴン族の活躍で今のような交流が始まったのですう」
「そうなのか……って今度は何だこの客は」
次に屋台に来たのは、とても大きなビースト族のお客さんですう。わたしはこの人の事は知っていますう。
「グラス、商売は順調のようだな!」
「ヴォイテクさん、お久しぶりですう」
「何だこのデカブツ、知り合いか?」
「お父さんのお友達で、昔何度か一緒に遊んだ覚えもあるんですう」
「そうだな、身勝手なオヤジに振り回されて泣いてたお前をあやすのも大変だったからな。いつもおふくろにしばかれるオヤジも飽きるほど見てたよな」
「あの時は、何かとお世話になりましたあ。ところでご注文は……」
「そんじゃあ、イチゴとハチミツの三倍盛りをお願いするかな!!!」
「はっ……はいですう!!!」
「ハチミツはいつも携帯してるのを使うからな」
わたしは夢中になって三杯分のかき氷にイチゴを豪快にかけてヴォイテクさんに渡しましたあ。するとヴォイテクさんは自前のハチミツをたっぷりかけて食べましたあ。
「いやあ美味い!美味すぎる!誰とは言わないがさすがはアイツの子供だな!!!」
「え、えへへえ……」
ヴォイテクさんも気を遣って、わたしの両親の事は言わなかったですう。そんな彼に、わたしはこう言いましたあ。
「あのっ、ヴォイテクさん……」
「どうした?」
「わたしのお家、作ってくれてありがとうございますう!いつか会った時にお礼が言いたかったんですう!」
「このかき氷の味がお前の言いたかった事だろ!わざわざ言わなくても分かってるって!また何かあればいつでも言いな!」
「は、はいですう!」
「おっと、ちょっと空を見てみな」
ヒュウウン……ドドーーーーーン!!!
わたしとシビルちゃんが空を見上げると、綺麗な花火が上がっていましたあ。
「火の能力に長けたドラゴン族が着火して打ち上げているみたいだ。みんな、それぞれの特技を活かして毎日を楽しく面白く生きてるんだよな」
「わたしもこれから、この氷のチカラを沢山の人の役に立たせるために頑張っていきたいですう。ねえ、シビルちゃん」
「俺も、人間はもちろん、他種族も悪い奴ばっかじゃないって、グラスとかから教わったしな」
夜空を彩る花火はとてもキラキラしていましたあ。
やがてお祭りは終わって、かき氷の収益は、かなりの額となりましたあ。もう、三日ぐらいは休んでも大丈夫かなと思いましたあ。
「ハァハァ……腕を動かすだけでも……やっとですう……」
「今回は俺が籠に入ってやるからゆっくり飛びな」
「はいですう……すう……」
シビルちゃんを籠に入れて家に帰った後、そのまま寝ちゃったのでしたあ……
「わたし……次の日の朝……腕太くなってないか心配ですう……zzz……」
第10話へ続く。
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