第8話 初めての村
わたしが引っ越してすぐにお世話になっている、山の麓のアルブル村。今日はその村に一緒に暮らしているシビルちゃんを連れて行く事になりましたあ。しかし、この間までわたし以外の生き物からは距離を置いていたシビルちゃんが、自らの意思で村に行こうと思うだなんて……。
「村の人達は、皆いい人だから安心してほしいですう」
「そうなのか。その言葉、信じていいんだな……」
「はいですう。わたしも毎日お世話になってますう」
朝食を食べながらこの会話を交わして、いよいよ出発の時間ですう。
「今日のシビルちゃんのお仕事は、村のみんなと仲良くする事ですう」
「もし村の人間が俺を攻撃するとしたらどうするんだ?」
「その時は、わたしが何とかして止めてあげますう!でも、わたしにもお仕事がありますから、厭だと思った事は周りの大人にちゃんと言ってあげるんですよお!」
バサアッ!
わたしとシビルちゃんは、家から飛び立って行きましたあ。
* * * * * * *
アルブル村に、着きましたあ。シビルちゃんと一緒に来るのは初めてですう。シビルちゃんは不安な表情をしてわたしの尻尾を掴みながら後ろを歩いていますう。
「このまま尻尾、掴んでていいか?」
「大丈夫ですう。しっかり掴まってて下さいねえ」
まずは村のみんなに慣れてもらうために、しばらく一緒に村を見回っていますう。すると誰かがわたしに話しかけて来ましたあ。
「おや、グラス君、後ろにいるその子供は誰だい?」
「ちょっと訳ありで一緒に暮らしているシビルという子ですう」
「シビルというのか。この辺じゃ見かけない雰囲気の子だね」
「今日は初めてここに来るから優しくしてほしいですう」
こんな感じで、道行く人達からも、後ろにいるシビルちゃんを珍しがるように話しかけられますう。
「確かに悪い感じはしないけどな……」
「そうでしょお?……あら、この間の木こりさん、おはようございますう」
先日、怪物に襲われて腕を怪我した木こりに会いましたあ。傷もすっかり治ってまた元気に仕事をしているみたいですう。
「やあ、グラス。あの怪物が現れなくなったと聞いて、今まで怯えて暮らしてたのがウソみたいだよ。っと、その後ろにいる子は誰だい?」
「この子はシビルといいますう。森で迷子になっていたので怪物に襲われる前に助けてあげましたあ」
「そうなのか。それにしても、この子は鋭い目つきをしてるな。まるでこの前見た怪ぶ……いや、考えすぎだ。こんな小さな子供が襲いかかって来る訳無いか……」
シビルちゃんを見て何かを感じていたようですが、木こりはすぐに雑念を振り払ってそのまま仕事へと向かいましたあ。
「何だったんだアイツは」
「この間まで噂になっていた怪物に襲われた人ですが、もう現れなくなったのでみんな安心して暮らしていますう」
「それは、良かったな……」
という事もあったけど、ひとまずシビルちゃんを預ける所に来ましたあ。それは、いつも冒険ごっこをしている、エイリーク君の家ですう。
「おはようございますう」
わたしが挨拶すると、エイリーク君と彼のお母さんが出迎えてくれましたあ。
「あら、グラスちゃんおはよう!今日は朝から冒険ごっこに行きたいのかい?」
「おっ!グラスおはよう!って、その後ろにいるのは誰だ?」
「一緒に暮らしているシビルといいますう。ほら、ちゃんと挨拶してくださいねえ」
「あれが、グラスが良く話してた奴か……俺はシビルだ」
「俺はエイリーク!よろしくな!」
二人が挨拶を交わすと、わたしはエイリーク君に言いましたあ。
「今日はエイリーク君にお願いがありますう。夕方までの間、このシビルちゃんと仲良くしてくれますかあ?」
「今日はこのシビルってのと冒険ごっこをすればいいんだな!」
「いや、この子はまだ冒険初心者なので、まずはこの村の案内をお願いしますう」
「ああ、分かった!よろしくな、シビル!」
「ん……ああ……」
エイリーク君はシビルちゃんと握手しましたあ。すると……
(何だコイツの手は……まるで、俺以上の冒険をこなしてきたかのような手だ……)
(コイツの手、暖かい……けど、厭な感じがしない)
二人共、なにかすごいものを手から感じだみたいですう……。
「だ、大丈夫ですかあ?」
「ああ!コイツとなら、仲良く出来そうだ!」
「今はコイツの事信じるよ」
「では、わたしはいつものお仕事へ行ってきますう!」
わたしはシビルとエイリークから離れて、いつも通り村の人達のお手伝いを始めましたあ。
「それじゃあシビル、俺がこの村を案内してやるよ!」
「……ああ」
「あんまり遠くには行かないでね。グラスちゃんも心配するわよ」
という訳で、俺はこのエイリークという奴とアルブル村を歩き回る事になった。
「このお店のパンがすっごく美味くてな!お、今日もグラスは飛んでるな!」
「いつもこんな風に、仕事してるんだな」
グラスが籠を持って遠くの家に向かって飛んでいくのを見た。あれがいつもの仕事なのか。俺にも何か手伝える事はあるのかな。
「次はアルブル村自慢の農場だ。俺の父ちゃんもここで働いているんだ」
「あっそ……」
こいつには父ちゃんと、母ちゃんがいるんだな……俺には……いや、考えちゃダメだ。
「あれがアルブル村一の高い木だ。俺の猫がこの前登って下りれなくなってた所を、グラスが助けてくれたんだ!」
「そうなのか」
「最近はあれで懲りたのかちょっと大人しくなってるな」
グラスは猫も助けるのか。お人好し、いや、おドラゴン好しとでも言うべきか……?
「さて、次は……っと、トイレ行きたくなった」
「トイレ?」
「シビル、せっかくだから一緒に連れションしようぜ!」
「おいっ!待てっ!」
俺は勢いに乗せられてエイリークに引っ張られて、そのままこいつの家のトイレまで連れて来られた。実は俺は何なのかを伝える前に……!
「どうしたんだシビル、我慢しないで出しちゃいなよ」
「い……いや、俺はまだ……大丈夫だし」
「遠慮しないで一緒にしようぜ!」
「あの……俺は……実は……!!!」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
その叫び声は、仕事中のわたしの耳に届きましたあ。すぐに仕事を一旦中止して、叫び声の方向に急いで飛びましたあ!!!
「良くない事が起きていなければいいのですがあ!!!」
そこはエイリーク君の家でしたあ。中に入ると、そこには顔を赤らめて動揺するシビルちゃんと、ショックで顔がまるで別人みたいになっちゃっているエイリーク君がいましたあ……!
「こいつが急にトイレに連れて来て……!」
「うそだろ……しビルはホントは……おんなのこっこっこ……コケーッコッコッコ!」
一体どのようなやり取りがあったのか、具体的には分かりませんが、これは事前にシビルちゃんが女の子だって言わなかったわたしにも責任がありますう……
「シビルちゃんは女の子だって先に教えておけば良かったですう……二人共、ごめんなさいですう……」
「ああ、でもこいつはしばらく呆然としてるだろうな……」
「……おんなのこ……おんなのこ……」
ひとまず、その場を鎮めた後、仕事に戻ったのでしたあ……。
* * * * * * *
お仕事が終わると、シビル達に今日のお詫びがしたくて、お店で一番美味しいパンを買って持っていきましたあ。
「シビルちゃんとエイリーク君の分も、美味しいパンを買ってきましたあ」
「お、ありがとう……今日は冒険ごっこより疲れたぜ……」
「まあ、コイツはそんなに厭な奴じゃないし、また一緒に遊んであげてもいいな」
「仲良く出来そうで良かったですう……明日も連れて行くので、シビルちゃんに冒険の楽しさを教えてくださいねえ」
「あ、ああ。今度は付き合い方も気を付けてあげなくっちゃな」
「今度変な事したら、グラスにお前をお仕置きするように言うからな」
みんなでパンを食べながら語った後、帰る支度をしましたあ。
「それでは、また明日もよろしくですう!」
「じゃあな!」
バサアッ!
わたしはシビルと共に、山へと帰って行きましたあ。その様子をエイリーク君は見つめていましたあ。
「シビルか……いい友達に、なってくれるかな……」
* * * * * * *
次の日の朝、わたしはシビルちゃんをエイリーク君の所に預けた後、いつものようにお仕事を手伝おうとパン屋さんに行くと……。
「あれ……何だか沢山の人が集まっていますう。どれどれえ……」
パン屋さんにチラシが貼ってありましたあ。そのチラシには、アルブル村祭り、近日開催と書いてありましたあ。
「お祭りをするのですねえ。楽しみですう」
第9話へ続く。
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