第7話 人助けをする理由

 わたしとシビルちゃんが一緒に暮らすようになって、一週間ぐらい経過しましたあ。わたしはわたしでいつものようにアルブル村の人達を手伝ってあげて、シビルちゃんは森で食料集めを頑張ってもらっていますう。


「今日も重い荷物が沢山で大変ですう……」


 わたしは今日も頼まれた物を運んだ時に、住民からこんなお話を聞きましたあ。


「グラスか。今日も仕事を頑張っているな」

「ええ、今日も頑張ってますう!」

「そういえば、この間まで噂になっていた怪物の事なんだが……」

「え、アレがどうかしたのですかあ?」


 先日まで人々を不安にさせた怪物の事で、彼はこう言いましたあ。


「あの怪物は、ある日を境に現れなくなり、パタリと噂を聞かなくなったんだ」

「え……じゃあ……」

「もう夜の森で誰も襲われなくなった。さぞ勇敢な戦士が森に赴いて、奴を退治してくれたに違いないな」

「そ、それは……良かったですねえ……」


 村の人達はもちろん、近隣に住む人達も、あの怪物に襲われる事は無くなったとの事ですう。これなら安心して森の中でお仕事が出来そうですう。それにしても、怪物を退治したのなら、その亡骸を村に見せるなりするはずなのですが、怪物の亡骸を誰も見ていないというのですう。きっと、手柄を独り占めしようとして見せなかったのかもしれないですう。


 それにしても、その、とは一体何者なのでしょうかあ……。さて、この後はエイリーク君と冒険ごっこを楽しみますう。


「エイリーク君、最近の冒険は楽しいでしょうかあ」

「ああ!怪我人が出る事も無くなって、怖い噂も聞かなくなったし!」

「それならもっと遠くへも冒険出来そうですうねえ」

「ああ!そうだな!……母ちゃんに怒られない範囲でな」


 今日もいつもの調子でみんなの仕事をお手伝いしてから、エイリーク君の冒険ごっこにも付き合って、日が暮れる前に帰る支度をして、シビルちゃんの待つ場所で今日の成果を見せ合ってから、家のある山へ帰るんですう。


「今日も沢山食べ物が貰えましたあ」

「こういうのも拾ったが、喰えそうか?」

「見た事ありませんが、これも食べれそうですねえ」


 食材を籠に入れたら、ぴゅーんと飛んでお家へ帰りますう。今夜のご飯は何を食べましょうかあ。そう思いながら飛んでいると……


「……あっ!」

「ん?どうしたグラス」

「……山道に誰かいますう」


 わたしの視線の先には、登山家が二人いましたあ。もう一人は怪我で動けなくて、もう一人は怪我の手当てをしていましたあ……。


「シビルちゃんは、この後少しだけお家で待ってて欲しいですう!」

「なんだ?アイツラも助けるつもりか?」

「そうですう!人間には無いチカラで、人間を助けてこそのドラゴン族なのですう!!!子供の頃、お父さんとお母さんが沢山の人間を救った話を何度も聞かされたのですう!!!」

「それなら……好きにしろよ!ただ、家には出来れば入れるなよ!」


 わたしは自宅にシビルと荷物を降ろすと、すぐさま遭難した登山家の所へと飛びましたあ。


「遭難者は、確かこの辺り……いましたあ!」


 視線の先には、先程の遭難者がまだいましたあ。早く助けなきゃですう。


「すまねぇ……俺がドジったばっかりに……」

「こんな状況じゃ救助も呼べない。どうするべきなんだ……」


 わたしは遭難者の前に降り立ちましたあ。


「お二人共、大丈夫ですかあ!?」

「おお、キミは……!」

「この山に住む、グラスといいますう!今すぐ助けてあげますう!」

「これが本物のドラゴン族か……初めて見るな……!」

「まずは怪我人から運びますう!それからもう一人も運びますう!悪いようにはしないから安心して欲しいですう!」

「分かった!今は誰でもいいから助けが欲しかった所だ!俺達の命、預けたぞ!」


 わたしは怪我人から先に両手て抱えて飛んで、お家の近くまで運びましたあ。大人の男性は、シビルよりも重たかったですう。その後すぐにもう一人も、彼らが持っていた荷物と一緒に運びましたあ。キャンプ用の荷物の重みもあって正直、かなり腕に来ましたあ……。


「これで何とか大丈夫そうですう。朝になったら下山出来ると思いますう」

「いやあ、危ない所を良くぞ助けて下さりました」

「このまま寒い中動けないかと思うと……怖い」

「今日はここにテントを張ってゆっくりしてると良いですよお。本当はわたしの小屋に入れてあげたいのですが、ちょっと訳がありましてえ……」

「いや、大丈夫だ……では、テントを張らせてもらうよ」


 その後、わたしは夕飯を作って、その一部を助けた登山家にも分けてあげましたあ。


「わたしの手料理ですう。良かったら、どうぞですう」

「いやあ、ありがたい。キミには世話になりすぎたな」

「他の種族には無いチカラを、みんなの役に立つために使うのが、ドラゴン族の新しい教えなのですう」

「そういえば、15年ぐらい前の鉱山事件でも、ドラゴン族が活躍したみたいだしな」

「えへへえ……」


「……グラスは誰にでも優しいんだな……」


 その様子を、シビルは窓から顔を半分出して覗いていましたけど、ちょっと不機嫌そうな表情をしていましたあ。


「しばらく、ゆっくりしててくださいねえ」

「ありがとうございます……料理も美味しかったです……」


 お家に戻ると、シビルは曇った表情でこう言いましたあ。


「なあ、アイツラもここで一緒に暮らすのか?」

「彼らは自力で帰れると思うのでそうはしませんよお」

「あっそ。じゃあ大丈夫だな。それにしても良く高い所から人を見つけられるな」

「飛べるようになってから、地上にあるものを探す訓練もしていたんですよお」

「俺にも、グラスみたいな翼があれば自由に飛んでいけるかな」


 わたしとシビルちゃんも、夕飯を食べてお風呂に入って寝ましたあ。お家の外では、登山家達が焚き火を点けていましたあ。


   * * * * * * *


 次の日の朝、わたしは登山家達を麓まで降ろしてあげましたあ。


「いやあ、まさかドラゴン族に助けられるとは思わなかったよ」

「このご恩は……いずれ目に見える形で返します……!」

「これでいいんですう。これからも二人が元気でいる事が、わたしにとってのご褒美なのですう!気を付けてお家へ帰って、元気な姿を家族に見せてあげて下さいねえ」

「「あ、ありがとうございますっ!!」」


 登山家達は深々と礼をして帰って行きましたあ。彼らを見送った後、家に戻ってシビルちゃんと一緒に朝ご飯を食べましたあ。


「アイツラは帰ったのか?」

「はいですう。後は無事に家に帰れたらもう大丈夫だと思いますう」

「……なあ、グラス」

「どうしましたかあ?」


 すると、シビルちゃんはわたしにこう言いましたあ。


「今度でいいから、俺を、その……いつも手伝ってる村に連れてってくれないか?」

「えっ、シビルちゃんは人間嫌いなんでしょお?」

「俺も俺で、人間って本当に悪い生き物なのかどうかを知りたくなったんだ。大丈夫だ、傷付けるようなマネはしない」

「そ、そうなのですかあ……そ、それじゃあ、その気持ちになったのなら、いつでも言って下さいねえ」

「ああ、今すぐって訳じゃねえからな」


 あれほど人間を嫌っていたシビルちゃんが、自分から人間の事を知りたくなるなんて、ちょっとビックリしちゃいましたあ。もしもアルブル村の人達とも仲良く出来たなら、思ったよりも早く、人間の暮らしに戻してあげられるかもしれないですう。


「さあ、今日も忙しくなるかもですう!シビルちゃんもしっかりお手伝いお願いしますう!」

「ああ、やってやるよ!」


 今日もわたしとシビルちゃんは空を飛びますう。ふたつの生命は手を取り合って、それぞれの生きる目的を果たすために頑張っていきますう!


 第8話へ続く。

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