第25話 わたしと俺の成すべき事
俺はエイリーク・ブレイバル。幼馴染のシビルと一緒に北の山に登って、お土産を手に入れて下山しようとしたら、吹雪に見舞われて洞窟で休む事にした。するとあろうことか地震で出口が塞がり、俺達は発煙筒を岩の隙間に差し込み、仲間の救助を待つ事にした。
その夜、俺は寝袋を忘れたと告げると、シビルはデカい寝袋を出してくれて、一緒に寝る事になり、そこでこの後の事を話した。シビルはグラスの所を離れて、人間としてアルブル村で暮らすために、俺と結ばれたいと言ったんだ……。
もちろん、俺は彼女の願いを聞き入れた。彼女の本当の名前はシルビア。今はもう、俺の……妻だ。
こうして、吹雪の一夜は明けて、岩の隙間から朝日が射し込んだ。
「おはよう……朝になったな、エイリーク」
「おはよう、シビル……じゃなくてシルビア……」
「まだ慣れないか?でもまだこの事は村のみんなには内緒だからな。だからまだ、シビルでいいよ」
「そうだな……それにしてもここで何して過ごそうか……」
すると、シビルが洞窟の奥に何かを見つけた。
「一応グラスの所の風呂みたいな窪みはあるけど、水が湧く様子は無いな」
「……そんな時は、ここにあるヒビを軽く叩けば!」
俺はハンマーで怪しいヒビを叩いた。
カンッ!
すると……!
バシャーーーーッ!!!
「ほらっ!やっぱ水湧くじゃん!あとそこにまだ薪も少しあるし、この下に火をくべてやればお風呂になるじゃん!」
「やるじゃんエイリーク!それじゃあ俺も手伝うから……」
すると、出口の方から……
「なんか煙が出てるけど、そこに誰かいるのー?」
女性の声が聞こえた。
「……どうしたシビル?」
「風呂の仕度を進めててくれ、俺が行く」
シビルは岩で塞がった出口に向かって、声を出した。
「ああ!ここに二人の人間がうっかり閉じ込められたんだ!」
「あら、その声はグラスセンパイと一緒にいた人間ちゃんかしら?」
「人間ちゃんじゃねえ、シビルだ!お前この間グラスの鱗剥がしやがったヘイルだな!?」
「そうだけど?もしかして助けて欲しいってコトぉ?」
「ああ!もしお前に他の命を想う心があるのなら、俺達を助け出してみろよ!」
「ハァ……アタシにとってもここの洞窟はお気に入りの休憩所だし、無くなったら困るからその岩どかしたいけどねえ……」
「だったら……ここからまっすぐ南に行けばアルブル村がある!そこにあのグラスがいるはずだ!あのドラゴン族をここに連れて来い!そしたら、あの時の事とか赦してやるからよ!」
「うん……互いに利害は一致って言うわけね。それ以上の理由はもう要らないわ。アタシがグラスの事、呼んであげる!!!」
バサアッ……!
ヘイルの羽ばたく音が洞窟の中にも聞こえた。
「ハア……どこまでもイケスカネー奴だ……」
「こっちは風呂の用意が出来たぞ」
そんなわけで、俺とシビルは、自分達で沸かした風呂に入ったのであった。
「どうだシビル、良い湯か?」
「ああ、グラスの所の風呂にも劣らない」
「そういえば、シビルってずっと冷たい風呂入ってたから風邪ひいた事あったっけ」
「あの時も、グラスがいなかったらどうなってた事か……」
「これからは、俺達アルブル村の仲間達がお前の事守ってやるからな……な……う……」
「どうしたエイリーク……?」
急に、気分がクラクラしてきた……。
「なんか……頭がボーッとしてきた……疲れたのかな……おれ……」
「エイリーク……おいっ!大丈夫か!?」
朦朧する俺の意識。シビルはすぐさま俺を風呂から引っ張り出し、寝袋に入れて身体を暖めた。
「暗くなる前に、きっとグラスは来る!アルブル村に着くまでは気をしっかり持て!」
「ああ……分かった……」
俺の中の熱はだんだん上がっていくのを感じた……シビルはこんな俺をしっかり看病してくれた……。
* * * * * * *
一方、わたし達がいるアルブル村では、登山から帰還したシビルとエイリークを迎える準備を進めていましたあ。
「シビルとエイリーク、無事帰って来てくれるといいですねえ」
「あの二人だからきっと大丈夫だろう」
「……待って、上から何か近付いて来る……氷の魔力……!」
バサアッ!!!
するとわたしと両親の目の前に、あのヘイルが姿を現しましたあ。
「グラスセンパイ……今すぐあの山に来て……!」
「えっ……何ですかいきなり……」
「あのドラゴンは……今回はどの面下げて来たんだ?」
「一体何の用なの……?」
狼狽えるわたしと、怒りをあらわにする両親。でも、ヘイルの表情は真剣でしたあ。
「センパイの友達の人間……シビルともう一人があの山の洞窟に閉じ込められた……!」
「なんですってえ!?!?」
「ウソじゃない!さっき休憩しようと山の中腹の洞窟に入ろうとしたら、入口が岩で塞がってて、その隙間から煙がモクモク出てたのよ!」
「それって、事前に持たせた発煙筒じゃあ……」
「それで本当に向こうから話してたからさ、今すぐグラスを呼んで来いって言ったのよ!」
返事はただひとつですう。
「……それじゃあ、わたし、行きますよお!」
「グラス、ヘイル、お前達だけじゃ心許ない。だから俺達もいくぞ」
「私も、サクスムの妻として役目を果たします!」
「お父さん、お母さん……っ!」
わたしは他の仲間にこれからシビル達を助けに行く事を伝えましたあ。
「これからわたし達、シビルとエイリークを迎えに行くですう!皆さんは引き続き、二人を受け入れる準備を続けて欲しいですう!」
すると仲間を代表するように、ヴェーチェルさんが来てこう言いましたあ。
「仲間の危機に、生まれも種族も関係無いのは、あの日から始まって、今や確固たるものだ。グラスよ、行って来るが良い」
「はい!では……行ってきますう!!!」
他のみんなも返事をしましたあ。
「 「 「いってらっしゃい!!!」 」 」
わたしと、サクスムと、リヴィエールと、ヘイルは、北の方角を向きましたあ。
「では、行きますよお」
「俺の腕力、まだまだ現役よ」
「今回も、私が指示しますからね」
「グラスは良い両親と友達に恵まれたものね……さて、飛ぶよ!!!」
バサアッ!バサアッ!バサアッ!バサアッ!
四人のドラゴン族はまっすぐにシビルとエイリークのいる山まで飛んでいきましたあ!!!!
森を越えて、川を超えて、目の前に山が見えてきましたあ。
「山の中腹にある入口が崩れた洞窟だよ!」
「ここに、二人はいるんですねえ……!」
「何だか、あの時に状況が似てるよな……」
「サクスム……今こそあの日の続きをしましょ!」
隙間から煙が出ている崩れた岩。リヴィエールは早速指示を出しましたあ。
「グラスとヘイルは、崩れたら困る部分に氷の魔力を放って頑丈にして!」
「はいですう!」
「やってやるわよ!」
ヒュオオオオオ!!!
まずは周囲の岩を凍らせて補強したら……!
「サクスム!あの岩に一撃お見舞いしてやって!」
「合点承知!!!」
ドガアアアッ!!!
サクスムの拳は岩を粉々にする程の衝撃を与えますう。
「これは……おいエイリーク!助けが来たぞ!」
「そうなんだ……良かった……!」
ズガアアアッ!!!
ついに出入りが出来るぐらいの穴が出来ましたあ!わたしはすぐ中に入ってシビルと合流しましたあ!
「シビル!」
「グラス!まずはエイリークの事を頼む!」
「はいですう!」
わたしは焚き火の前で寝袋に包まって苦しそうにするエイリークを抱えて、外のサクスムに持たせましたあ。
「お父さん、お願いしますう!」
「分かった!なるべく早く村まで運ぶ!」
バサアッ!
サクスムはエイリークを抱えたままアルブル村まで飛んでいきましたあ。
「ヘイルさんとお母さんは二人の荷物をお願いしますう!」
「分かったわよ」
「これね……」
バサアッ!バサアッ!
ヘイルとリヴィエールは二人の荷物を持ってアルブル村へ飛びましたあ。
「さあ、後はシビルと一緒に帰りますう!」
「グラス……いつも通り、アルブル村まで頼むぜ!」
バサアッ!!!
最後はわたしが、シビルを抱えて山の洞窟から飛び立って行きましたあ!!!
一生懸命、飛びましたあ……!!!
アルブル村に辿り着くと、エイリークは村の診察所で手当を受けてましたあ。医師のグリューさんは言いましたあ。
「エイリークの事を軽く診たけど、これはかなりマズイ事になってるねぇ……!」
「グリューさん……」
「だったら、あの時俺を助けた薬を!」
「この村にあるサンプルを使ってみようと思ったけど、彼の病はあの薬じゃ治るどころか余計ひどくなるかもだよ~!」
「なんですってえ!?」
「じゃあ、このまま見過ごすってのか!?」
「もし助かる道があるとすれば、グラスのとは成分が違う竜毒でもあればねぇ……!」
すると、シビルはわたしの隣りにいるヘイルに目をつけましたあ。
「おい、そこのロン毛。その尻尾を貸せ」
「ロン毛って何よ、アタシはヘイルよ」
「いいからこのビンに尻尾を入れろ!」
シビルは半ば強引にヘイルの尻尾を空のビンに入れましたあ。すると……!
「おおりゃあああああああああ!!!!!!」
ギュウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
「いたああああああああああい!!!!!!」
ピチャッ!ピチャッ!
シビルはヘイルの尻尾を強烈に握りましたあ……!二本の棘がある尻尾の先端からは、わたしのと同じように無色透明の竜毒が分泌されていきますう……!それで、あまりの握力の強さに、ヘイルは悶絶していますう……そして……!
パキッ……!
ヘイルの二本の棘の片方が、折れて竜毒の入ったビンの中に落ちましたあ。
「グリュー、早くこれでなんとかするんだ!」
「は、はいい〜ちょっとお待ちを〜!」
グリューさんはすぐさまヘイルの竜毒を解析しましたあ。数時間の解析の後、グリューさんはわたし達に言いましたあ。
「この竜毒の成分はグラスのとほとんど違うものだったよぉ〜これに、グラスの竜毒を組み合わせれば、きっとエイリークを治す特効薬が出来そうな気がするよぉ〜!」
調合は急速に行われ、わたしの竜毒とヘイルの竜毒を組み合わせた薬が出来ましたあ。
「人事は尽くしたつもりだよぉ〜あとは彼の体力と天命に任せるだけだよぉ〜!!!」
「では、よろしくお願いしますう!!!」
グリューさんは、エイリークに、その薬を投与しましたあ。すると……!
「ぐ……ぐわああああああああ!!!!!!」
薄められているとはいえ、竜毒はあらゆる生物の命を奪うほど強烈なもの……シビルの時と比べられないぐらい、エイリークは苦しみもがきガタガタと震えましたあ……!
「ぐうううわああああああああ!!!!!!」
「頑張って下さいい!エイリークう!!!」
「生きて男を見せやがれえ!!!!!!」
わたしとシビルも声をかけますう!!!
そして……!
「うああ…………すう……すう……」
グリューさんはエイリークの容態を調べますう。
「確認するよ〜……エイリークの脈拍、落ち着いてきたよ……今回も、治療は大成功だよお〜〜!!!」
わたしの竜毒とヘイルの竜毒を組み合わせた薬は、こうしてまた、人の命を救ったのですう!!!
「やったですう!!!」
「俺、お前の事信じてたぜ!!!あとここにいるヘイルにも感謝しなよ!」
「これが……人を助けるって事なのね……なんか心が暖かくなってく心地よ」
「ヘイルさん、氷のチカラだって、使い方次第では誰かの心を暖める事が出来るんですよお」
「そ、そうなのね……今まで他人のためにこのチカラを使った事が無かったから……」
「これから、このチカラを誰かの役に立つために使ってみませんかあ?」
わたしは、ヘイルに笑顔で言ってみせましたあ。
「ハア……この勝負、どうやらアタシの負けのようね」
「負けじゃないですう、これはここにいるみんなの勝利ですう!ホラ!」
「こ、これは……!」
わたしとヘイルの周りには、今まで出会ってきた仲間達が沢山いますう。
「いやあ、若い頃を思い出してついつい泣いてしまったな……」
「これからの時代もこんな風に仲良く出来るといいわね」
わたしのお父さんとお母さん、サクスムとリヴィエール。
「本当は俺もあの場に居合わせてサクスムを手伝ってやりたかったが、それはまた次の機会にな」
力持ちのビースト族、ヴォイテク。
「竜毒の研究、今後も続けるからねぇ〜!」
竜毒を薬にした史上初の医師、グリューヴルム。
「誰よりも熱い友情に、俺の炎の熱さも追い付かないな!」
花火名人の熱血ドラゴン、ヒフキ。
「氷のチカラも人を暖める、勉強に、なりましたわ!」
「これから先も守り守られる仲であれ!」
高貴なマリーン族ペルルと、近衛騎士ベルウ。
「彼らの魂は、決して風化する事は無いだろう!」
風の行方を護るバード族、ヴェーチェル。
「エイ坊もシビルも無事で好かった!」
「元気になったら好きなもの沢山食べさせるからね!」
「みんな、良く頑張った!」
「山での土産話、沢山聞かせてくれよ!」
「それじゃあ後日、村を上げてのパーティーだ!!!」
あと、大勢の仲間達も……その景色をみたヘイルはわたしに言いましたあ。
「これも、長い間人助けをしていたセンパイ達のチカラってわけか……」
「ヘイルさんも、これから沢山の友達に恵まれるといいですねえ」
するとシビルが来て言いましたあ。
「なあヘイル、この折れた尻尾の棘、俺の首飾りに使っていいか?」
「ハア……今まで他人にしてた事がアタシにそっくり返って来たか……」
「そんなんじゃねえよ、俺の……大切な人を守ってくれたんだから、お守りとして大事にする」
「シビルも良い事思いつきますねえ♪」
「本当にこの二人には敵わないわね……」
「あっ、そうだ、ヘイルさん……最後にわたしと……」
「今度は何よ」
わたしはヘイルに言いましたあ。
「もう一度、わたしと決闘してくれませんかあ?」
「はえっ!?」
「もちろん、あの時の負けは悔しかったし、わたしは甘いって事を改めて知れたから……」
「……いいわよ、受けて立ってあげるわよ」
「ありがとうございますう!」
わたしとシビルとヘイルは、アルブル村の外で、二度目の決闘の構えを取りますう。
「この勝負、勝っても負けても、お互い生きたいように生きる事。それが今回の決闘の条件ですう」
「もちろん、アタシもそのつもりよ。ぶっちゃけ棘が折れた尻尾でも決闘だけなら出来るわよ」
「それじゃあシビル、今回も立ち会いよろしくですう!」
「ああ、分かった……では、始めっ!!!」
ゴオオオオオオオオッ!!!!!!
……
この後、どっちが勝ったかは、あえて言わないでおきますう。けど、お互い悔いは無く、満足の行く結果が得られたですう。
程なくして、エイリークも元気に立ち上がって、わたしもシビルも、仲間達みんなが喜んで、しばらく村はお祭り騒ぎになっていたのでしたあ。
* * * * * * *
それから数ヶ月が経過して……。
「おはようございますう」
「おはようグラス……と言いたい所だか、大事な話がある」
「大事な話って、一体なんでしょうかあ、シビル」
「…………グラス……」
シビルは、少し黙ってから、言いましたあ。
「もうすぐ、俺はグラスの家を去る」
最終話へ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます