第11話
ぶっちゃけ、アリスは兎も角としてメイジーはあまり召喚したく無い。だってさ、イリアと話し始めてからずっと「召喚しろ召喚しろ」と煩いからな。それに学園の教員をぶっ飛ばした時には大歓声をあげ、挙句の果てには他教員に怒られていた時に勝手に出ようとする始末。
耳に聞こえたり、脳内に語りかけたりとかをしてくるわけではない。ただ「出せ出せ出せ出せ」と呪怨のような雰囲気が思考の片隅にあるだけだ。だからこそ、耳を塞いで聞こえない振りなんて出来やしないし、メイジーの思考を無理やり抑えるしかない。
召喚したら何と言われるか……ええい、ままよ!
「遅いです!」
「ご、ごめんね。まさか、人目の届く場所で召喚するわけにもいかなくてさ」
「それでイリアとかいう女とイチャついていたんですか!」
あの掛け合いを見てイチャイチャ、ね。
アレは世を楽に渡るための交渉みたいなものであって、お近付きになるためのものでは無い。冗談で言っている……にしてはかなりイラついているようにも見えるし、下手な事を言うべきでは無さそうだ。
「あの人とこれ以上、深く関わる気は無いよ。アレは一種の社交辞令みたいなものだ。メイジーを相手にするような深い関わりを持つためのものでは無い」
「マスターはそのつもりかもしれませんがイリアとかいう女は違いました。アレはマスターに興味を持って深く関わろうとするメスの目でした。絶対に許すべき相手では無いです」
「……頼むから殺そうとしないでくれよ。俺はあの人に対して好意を持っていないんだ。それに深く関わりたいとも思っていない。殺す選択を取る方が確実に面倒な事になる」
今のメイジーのイラつきからして確実に殺しに行ってしまう。仮に上手くいったとしても失敗したとしても俺にとっての利益にはならないんだ。本当にやめて欲しいものだ。
確かに興味はあるけどさ、それは好きとかそういうものでの興味ではない。どちらかというと面白そうが近いかな。こういう事をしたらどんな反応をするだろうかっていう純粋な興味が一番、適している気がする。まぁ、興味を持つ事すらもメイジーは許したくないのだろうけど。
だが……これはこれで少しだけ気分が悪いな。
愛の重さゆえ、そう言ってしまえば聞こえは良いかもしれないけど、実際はただの俺の行動を抑圧するものでしかない。遊びに行きたい、でも、それを付き合っている彼女は許してくれない……その行動と何の違いがある。
「それに俺が誰と関係を持とうがメイジーには関係の無い事だろう。俺の不利益にならない範囲でメイジーが動きたいというのであれば許しているし注意もしない。それなのにメイジーは少しの俺の自由さえも許しはしないんだな」
「そ、それは……」
「社交辞令如きで取り乱すなんて、可愛いとは思うけど束縛していい理由にはならない。頭の良いメイジーなら分からないわけが無いよな」
今は小さな束縛なのかもしれない。
だが、それを許してしまえば範囲が少しずつ拡がっていく。これが最悪は「全て私がしますのでマスターはゆっくり休んでいてください」みたいな完全な自由を失う結果に繋がるんだ。そうなれば確実に俺はメイジーを嫌いになる。そして何もできない自分を嫌いながら一人で死ぬんだ。ああ、きっとそうだ。
「……私とあのメスのどちらが好みですか」
「メイジーだ。そんな事、考える必要も無い。イリアは俺の傍に居なくとも何も問題は無いが、メイジーが俺の傍からいなくなるだけで何も出来ない無能に逆戻りしてしまう。それに見た目や性格からしてもメイジーの方が愛らしくて良い、そこら辺を踏まえれば答えは簡単だろ」
「では、仕方がありませんね。あのメスは許してあげる事にしましょう。ええ、別にマスターから愛の言葉を頂けたから許すわけではありません。寛大なマスターのお心を鑑みた結果、許す判断をした迄です」
おう、頬を真っ赤にしているあたり喜んでいるみたいだ。まぁ、嘘を口にしたわけではないからべつにどうでもいいが……そこまで良い反応をされてしまうと言ったコッチが恥ずかしくなるな。
「……アリスとだったらどっちー?」
「アリスの事は詳しく分からないけど……どっちとより仲良くしたいかだったらアリスだな。従魔っていうのもあるけど関わっていて気を負わなくて済みそうだし」
「ふふん、なら、アリスも許すー!」
ええと……貴方はまだ召喚していないのですが、という感想はさすがに言えやしないか。見た感じメイジーのような強いジェラシーは無さそうだけど多少は束縛したいという気持ちがあるのかね。だとしたら、早めに教えてあげないとメイジーのようになってしまう。
今既に勝手に出てきている時点で手遅れって感想は無しだ。きっとまだ間に合うはず。アリスは可愛らしい女の子、そう、メイジーのような子にはならないように修正がまだ効くはずなんだ。
「それでこの後の目的をお教えください。朝は少しばかり忙しかった手前、詳しい話は聞けていませんので」
「ああ……日の入りまでにやっておきたかった事は合わせて二つだ。一つ目にアリスがどれだけ戦えるかを知りたくて、二つ目に俺の剣術や体術を鍛える訓練をしたい、だな。二人なら確実に技術を教えられるだけの力はあると思っていたから」
「マスターは教えなくても戦えるのー。記憶は無くても魂が覚えているはずなのー」
体が勝手に動いた事を言いたいのか。
確かにあの時の強さは別格だった。その屈託の無い笑顔と天まで届きそうな胸の張り方を見れば多少は信頼もできる。メイジーの話し方からして最上位の強さがある事は知っていたよ。
たださ、アリスはアリスでメイジーと同じように過去の俺と重ねて話しているんだ。確かに戦えはするかもしれないが俺の考えで動くわけではないし、何よりそれだけでは何の面白みも感じない。
だって、二人が見ているのは俺であって俺では無い何かなんだ。そんなのムカつくし、俺という存在を知って欲しい気持ちにすらなる。何なら、その絶対的な感情を俺のものだけにしたい。
「……だとしても、意識的に技術を学ぶのと魂に従うのでは確実に意味が変わる。魂に従うだけなら過去の俺が限界のままで終わるからな」
「つまり、過去の自分を超える、と」
「記憶が無いというのは悪い意味だけでは無いからね。過去に縛られないという点では好きなだけなりたい自分に変われるって事だ。この世界では強さが正義だと言うのなら……正義が自分を好むようにするしかないだろ」
まさか、そんなドス黒い感情を説明するわけにはいかないからね。メイジー達がどう思っていようが従者に弱みを見せるわけにはいかないだろ。そこは俺なりの主としての線引きみたいなものだ。そして男としての線引きでもある。
「そのために……まずは剣術からだな。学園で生きていくとなればロングソードの扱いくらいは覚えておかないといけないだろう」
「言いたくは無いけど……マスターは剣が得意じゃなかったの。アリスの心器を使えばロングソードは出せるけど……きっと、そこまで上手くは扱えないと思うの」
なるほど、アリスの心器はロングソードか。
だが、まさか、俺に剣の才能が無いとはな。もしかしたらリヒトに才能が無かったのは俺のせいなのかもしれない。俺と住む世界が違うだけで他の面は俺と同じ鏡のような存在だとしたら……はぁ、申し訳なさは感じるが悩んでも時間の無駄なだけだ。
「人並みに扱えるように、 だったらできるか」
「……言葉で教えるのは苦手なの。打ち合いでよかったらできなくはないの」
「それなら頼む。人に見せられる程度まで行ければ他の武器を試せばいいからな」
メイジーを見て思ったが彼女達の言う才能があるとはトップクラスに到れる程の才能があるかという意味だ。確かに強くなりたいという気持ちはあるが今の俺には高すぎる目標、求めるのは人よりも多少は扱える程度でいい。
「マスター……一つだけ懇請させて欲しいの」
「内容による、かな」
「聞いてくれてありがとうなの。あのね、マスター……」
一瞬だけアリスの顔が大人びた気がした。
そう感じたかと思うとすぐに元通りになって、その後数回の深呼吸を行う。まるで、続きを話すのに躊躇いがあるようにも感じられたが程なくして顔から曇りが消えた。
「レベルを上げてヨシツネを解放して欲しいの!」
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