第4話

「……うん、これなら戦えなくは無いと思う」

「ええ、さすがはマスターですね。一時間程度で扱いを理解するなんて驚きです」


 結果から言えば悪くは無い出来だった。

 メイジーの補助有りで倒した魔物の数は計十六体、そのどれもが最弱の魔物と言われているゴブリンなのが微妙だけど、それでも心器から放たれた弾丸はどこに当たっても敵を殺してくれたからな。


 一応、スナイパーライフルと拳銃の状態の心器は扱えるようになった。いや、どちらも完璧に扱えるようになったわけではないから……多少は戦えるようになったと言うべきかな。最悪は腰撃ちで適当に撃って当たるのをお祈りするしかない。


 まぁ、事実を話すとやってみたが体が吹き飛ばされて長い間、隙だらけになってしまうから本当に打つ手が無い時に限るけど。それに銃口が上手く相手に向かないから当たる可能性も低いしで、やるメリットは限りなくゼロに近い。


「それにしても……近距離も強いじゃないか」

「いえいえ、従魔の中では近距離は弱い方ですよ。それこそ、アリスとかヘンゼルとか……私の上にいる人は多くいますし」

「……なるほど、俺の従魔は化け物揃いみたいだね」


 それはそれは……早く召喚したいものだ。

 戦力強化もそうだけど彼等もずっと俺の中に入れられたままでは楽しめないだろう。俺と一緒にいたいというのなら仲間として、嫌だというのなら一人の友人として接するまでだよ。


「ちなみに、その心器の形状はどうすればいいの」

「ああ、剣の形状にする方法ですね。……うーん、魂の形を変えるみたいな感じなのですが本来の魂とは違う形になるので……」

「あー、心器が与えてくれるステータスの補正が無くなってしまうんだね。それなら今の俺にはやめておいた方がいいか。拳銃の状態なら多少は近距離も戦えるし」


 メイジーは笑顔で首を縦に振った。

 なるほど……確かに従魔の目線からすれば主である俺を弱いとは言い難いよな。ただ、メイジーが言う従魔達が全員、解放できたのなら確実に俺は無能でありながら最強の存在になれる。才能が無いという面がありながら、従魔達の力を全部、扱える化け物とか、本当に厨二心が疼いてしまうよ。


 現にメイジーはレベル五でありながら幸運以外の全ステータスは千五百を超えていて、固有スキルとして半径二百メートルまでのマップを知覚する事ができる……これだけで俺に与える恩恵はかなりのものだ。それがメイジーの言うアリスやヘンゼルとかも加わるとすれば……うーん、我ながら怖いね。


「他の従魔が解放されるまでは私が前線を張りますのでご安心ください。他の従魔達と比べると微妙ですが、この世界においてはそれなりの実力があるようですし」

「ああ、メイジーの心器は一定以上のダメージから火力が落ちる事は無いからな」


 ゲームとかであったのなら玄人武器になりそうな性能だな。徐々に火力が増加していくとかではなく下限が確実に決まっている代わりに、上限に関しては自身のステータスに比例して増加していくという……まぁ、今の俺にはピッタリだけど。


「と、ようやく着いたね」

「そうですね……こんなにも近いとは」


 メイジーが呆れるのも無理は無い。

 リヒトを殺した洞窟から数時間、歩いただけで彼等が暮らしている街に到着するんだ。そんな近距離で虐めて殺したとか……頭が悪いとしか言いようがないよな。まぁ、虐めてきていた人達が貴族の家系だからバレても問題は無いのだろうけど……。


「メイジー、申し訳ないけど俺の中で少しだけ休んでいてくれ」

「少しだけ……いえ、かなり不安ではありますが命に関わる事が起きるまでは表に出るつもりはありません」

「うん、街に入ったらすぐに召喚するから少しだけ我慢して欲しいな。メイジーがいたままだと面倒事に巻き込まれそうだからさ」


 人型の魔物……リヒトの記憶からして魔族と呼ばれる魔物の上位種しかいないはずだ。詳しくは知らないけど他の住民達の知識だってリヒトと同じくらいだろうから……まぁ、説明の時に目立って面倒事が起きてしまうのは目に見えている。


 通るのだって身分を証明する何かが必要だから簡単に衛兵が通してくれるとは思えないし。それにメイジーはリヒトのクラスメイトと比べても格段と可愛いから絶対に変な奴が出てくる。


「あ……!」

「あ、ごめん!」


 って、何で肩に触れただけで謝っているんだ。

 自分の中に戻すために触れなければいけないから変な声を出したメイジーが悪いだろ。……ま、まぁ、しっかりと俺の中へと戻ってくれたから何の問題も無いけどさ。一応、心器を懐に隠しておいてっと。


 さて……面倒事に巻き込まれないよう祈るよ。


「よぉ、リヒトじゃねぇか!」

「え、ええ……お久しぶりですね」

「おう、依頼を受けてから三日間くらい帰って来なかったからな。死んでしまったんじゃないかって心配していたんだぞ」


 大きな門まで行くと一人の衛兵に絡まれた。

 無精髭が特徴的な百八十センチ程度の大柄のオッサン。名前はドリンだっけか……虐められていたリヒトを気遣って優しく色々な事を教えていた良い人。でもさ……。


「い、痛いですよ!」

「俺を不安にさせた罰だぜ! 夕方までには戻るとか言っていた癖によ! こんなにボロボロの姿で帰ってきやがって!」

「あ、あはは……すみません。強い魔物と出会ってしまって隠れながら帰ってきていたんです」


 ここからは帰路の途中で作った言い訳だ。

 表情は少しだけ神妙そうなものにして、できる限りドリンが信用してくれるようにする。もちろん、嘘を吐くわけではなくて本当にいた魔物について教えるだけだ。……予想通り一気にドランの表情が歓喜から思案げなものにかわったな。


「おい、その話を詳しく教えろ」

「街の近くにオーガが二体いました。中部辺りから餌を探しに、浅部まで来ている可能性があります」

「オーガが二体か……そりゃあ、帰ってくるのに時間もかかるよな。いや、リヒトの強さからして生きて帰って来れただけ喜ぶ事か」


 オーガは一体で今のメイジーと同じくらいの強さがある。まぁ、心器がある手前、そして情報の有無からして戦えば勝つのはメイジーだろうけど、ドリンのような街を守る存在からすれば無視できる話では無いはずだ。


「どちらにせよ、情報提供に感謝する。お前のおかげで街の近くで事件が起こる前に対処ができるぜ」

「お力になれたのなら光栄です」

「おう、本当に助かったぜ! お前のおかげで俺が生きていられる時間が伸びた! それに夜に食う飯も少しだけ豪華になるってもんだぜ!」


 豪放磊落、ワイルドなオッサン。

 この背中を強く叩く癖だったり、感動した時に抱きしめてくる暑苦しさが無ければ本当に良い人なんだよな。それに変に物事を隠したりしないから腹の底から笑顔を見せられる……と、リヒトは感じていたみたいだ。


「今度、屋台でも奢ってください」

「ああ、未来の召喚士様のために幾らでも奢ってやるぜ。あ、上限は大銅貨一枚までな」

「大銅貨一枚なんてかなりじゃないですか。その時は死ぬ程お腹を減らしておきますね」


 この世界では銅貨、銀貨、金貨、ミスリル貨の順で価値が上がっていく。それらに小、中、大のサイズがあって価値も同様に増えていくんだ。銅貨なら小銅貨、銅貨、大銅貨みたいな感じか。そして、衛兵であるドリンの給料は月給で小銀貨二枚だったはずだから……。


「この情報が高値で売れる事を願っておきます」

「おう、じゃあ、また今度な!」

「はい」


 軽く手を振って門の中へと入っていく。

 リヒトには見慣れた光景、でも、今の俺には少しだけ不思議な気分にさせられる街並みだ。俺はこれからこの街でリヒトとして生きていく事になるから……本当に、やらなきゃいけない事が多くあるな。

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