第3話
「メイジー、一つ質問があるんだけどさ」
「はい! 何でしょうか?」
「メイジーはどれだけ戦える。もし、それなりに強いのであればレベル上げでもしようと思っていたんだ。後、盗賊とかがいるのなら金稼ぎのためにも倒したいなって思っていて」
童話召喚、それ自体が初めて聞く存在だ。
普通の召喚士は魔物を使役してから召喚するという方法で戦う。そこから多少のステータス補正がかかるとなれば強いように思えるが普通は一人につき一体がセオリーだ。それに対してメイジーが言うように複数の従魔を得られるとすれば俺でも……。
「私は中、遠距離なら誰にも負けない程の強さがあると自負しています。そこにマスターの力が加われば敵無しでしょう」
「いや、俺は戦えないと思うよ。メイジーが強いのならステータスに補正がかかるだろうけど、それでも殺し合いに慣れた敵を倒せるだけの力は無いだろうからさ」
「マスターも心器を出せば良いだけです。マスターの心器は従魔全員の心器を使用できる能力がありますからね。そこからヘンゼルとかの剣を出せば良いだけです」
ヘンゼル……ヘンゼルとグレーテルか。
うーん、もし、仮にメイジーが言うように俺の魂がメイジーの言うマスターと同じだとしよう。それならばメイジーが魂の分身と称していた心器は出せるはずだ。これで出せなかった場合はマスターでは無いと否定されるのだろうか。
いやいや、彼女は俺の魂が同じだと言った。
そこに一縷の望みを抱いて賭けてみるしか無いだろ。メイジーの心器の性能がどうであれ、俺も銃火器での攻撃が可能になれば、もっと言えばヘンゼルという存在の心器を出せれば一気に戦力アップとなる。
「……出し方を教えて欲しい」
「うーん……自分の魂から武器を取り出すイメージをしながら出す、とかですかね。申し訳ありませんがあまり意識して出した事が無いので詳しく説明ができません」
「いや、それだけ分かれば十分だよ」
魂から……となれば、胸から武器を出すイメージだろうか。出すとしたら……剣だろうか、それともメイジーと同じく銃だろうか。いや、イメージを幾らしても何も出やしない。違うのか……もっとイメージをしないといけないのなら……。
「……出ないな」
「えーと……魂から出すイメージがしっかりなされていないから、ですかね」
「一応、最大限のイメージはしているつもりなんだけど……いや、諦めたらダメだよね。もう一回だ」
こういう事は何度も試してみて……それでも駄目なら他の事を試す方がいい。最初に判断するべきはイメージ能力の欠如……二回目も駄目か。それならイメージの仕方を変えてみるのも良さそうだね。
俺の魂を知覚するとか……武器を出すイメージに取り憑かれる事が良くないのかもしれない。魂と聞くとやはり心臓辺りか……そこをウネウネと波打つような不思議な存在……いやいや、そんなの無理ゲーに近いだろ。
やっぱり、感覚を知らないと出せないものなのかな。もしくは、本当に俺は心器を出せないような存在で、メイジーの言うマスターとは別の存在の可能性も……いや、悲観するのは他の手段を試してからか。
「……出せないな」
「イメージ能力が弱いから……いえ、本当にマスターはマスターに似ているだけの違う存在だからとかも……それなら私の目が誤魔化されるはずがないから可能性は限りなく」
ブツブツと言ってはいるがメイジーの目では俺の魂はマスターと同じらしい。なら……そこを信じるしかないよな。魂の知覚とかいう無理ゲーは後回しにするとしたら……過去に俺が出していた時の真似をするとかが良さそうか。
「……俺の心器ってどんな見た目か分かる?」
「マスターの心器は……そう言えば初めて私の召喚に成功した時には魔導書のような物を持っていたような気が……まさか、心器を出すためには元となる心器のイメージが必要になる。だったら、一部の従魔達が心器を出せなかったのにも納得がいく……」
魔導書……ああ、それは予想が付かないな。
もっと武器らしい何かが俺の心器だと思っていた。それこそ、メイジーのような銃火器であったり、剣であったり……でも、ヒントは確かにあったんだ。従魔全員の心器を使えるようにする能力が俺の心器の能力なら……。
「……ああ、本当に出た」
「こ、これです……という事は、本当に心器を出すためには心器の姿形まで理解していなければいけないのですね。さすがです! 多くの従魔が出せるようにするために研究していた謎を一瞬で解いてしまうなんて! さすがは私の旦那様です!」
「だ、旦那様では無いけど……まぁ、これでメイジーの言うように俺は本当にメイジー達のマスターだったと証明できたね。後は……」
予想通り、俺の心器こそがメイジーの語るマスターとしての能力だったらしい。中を軽く読んだだけではあったが……出せた時点である程度の心器の能力が頭に入ってきた。
「……なるほど、この魔導書は仲間にしている従魔の固有スキルや心器を使えるようにする能力があるのか。加えて本人達の現在のステータスなども見れるとなれば……使えるのはメイジーの能力だけ。いや、それでもメイジーの心器の能力が分かるから戦い方は幾らでもあるか」
「ど、どうかしましたか……?」
「ううん、メイジーが最初で良かったと思っていただけだよ。低いステータスの時に近接戦は少し怖いからさ。遠距離から撃てる武器だとかなり生存しやすくなるでしょ」
すごく喜んでいるけど……ごめん、嘘だ。
本当は何かと戦う事が怖いんだよ。それこそ、洞窟を出てすぐにいるかもしれない敵と面と向かうのが本当に怖い。リヒトもそうだった。弱くて強くなるために戦おうとしたけど怖くて何も出来なかったんだ。
それなら俺も同じ弱いままでいるのか。
いいや、そんなわけが無いよな。どうせなら最強を目指してやろうじゃないか。強いのに表では評価されていないような、そんな厨二病満載の存在とか面白くはないか。人生はゲーム、第一はどうであれコンテニューした第二のゲームを思う存分、楽しんでから死にたいよな。
メイジーの心器の情報が書かれていたページとスキルが書かれていたページを破る。確証は何一つとして無いけど本能がそうさせた。破いてすぐに空中で燃え尽きる二枚の紙……ああ、やっぱり、正しかったんだな。
二枚のページに書かれた情報が一気に頭の中に入ってきた。これだけ事細かに書かれているのであれば戦闘未経験者(曖昧)でも何とかなるように思えてきたよ。俺が使うのはそう……。
「スナイパーライフル、ですか」
「ああ、まずは当てるコツを知らないといけないだろうからさ。あまり強くない魔物を的にして練習していこうかなって」
「それは素晴らしいです! ですが、スナイパーライフルは反動が大きいので伏せ撃ちが必須ですからね!」
まずは戦闘に慣れていく事。
俺の過去が分からない時点で戦闘経験が人並み以上にあるとか、そんな楽観的な考えは捨てておいた方がいい。どちらかというと、どんな状況だったとしても俺の才能は底辺であるという、悲観的な考えをしておいた方がいい。
まぁ、そこら辺は……。
「そこはメイジーが教えてくれるんだろ。この武器はメイジーの心器であり、俺の心器でもあるのだからさ」
「了解です! 手取り足取り教えますね!」
メイジーは小さな手をグッと握って満面の笑顔を見せてくれる。そんな姿に一瞬だけ……心臓がドクンと跳ねた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます