第2話
「マ、マスター……?」
「はい、私を召喚なされた貴方様は誰がどう見てもマスターでしょう。まさか、召喚して早々に育児放棄をなさるつもりなのでしょうか。だとすれば、サーバント虐待、略してサバ虐です」
「いや……そういうつもりでは無かったんだ」
単純に本当に現れて驚いているというか……。
日本ではこんな事をできる人はいなかったからな。手品とかなら種があるだろうし……白煙とかも何も無くいきなり登場は誰もできないだろ。それを目の前にして頭がコンガラガラガラガラない人間なんていないよな。
と、そんな事はおいておいても……。
「ジーッと見つめられてどうかしましたか」
「綺麗な顔をしているなと思っただけだよ。お人形さんみたいというか、頭巾とかを被ったら顔の美しさだけで戦う事になるのに一目見ただけで眼を奪われてしまいそうなくらい可愛いなと」
「ま、まじまじとそんな事を言わないでください!」
え、いってぇ! なんで叩かれたの!?
だって、事実は事実だろ。透き通った白い肌と百六十センチくらいの身長なのに八頭身、いや、九頭身はあるように見えるくらい顔が小さい。加えて垂れた大きな目が優しそうな雰囲気を醸し出していて……。
「うん、本当に可愛いな」
「あの……はい……ありがとうございます」
「こんなに可愛い子を見た事が無かったからさ。召喚できて本当に嬉しいよ」
これに関しては本心からの言葉だ。
可愛い子は見ているだけで癒しになるし、誰も味方がいない世界で俺の手助けをしてくれる存在がいるなんてどれだけ幸福か。リヒト君には申し訳ないけど今からは俺が彼の人生を歩むんだ。この幸せを噛み締めながら楽しんで生きないといけない。
「と、少し疑問に思っていたんだけど……その猟銃みたいな武器は何?」
「これは私の心器『
「心……器……?」
「その人の心に合った武器、言わば魂の分身とも言えるペルソナですね」
本当に聞き慣れない言葉だな。
亮太の知識の中にも無いし、リヒトが持っている記憶や知識の中にももちろん無い。もっと言えば赤ずきんのような人型の従魔なんて魔物から進化した魔族くらいだし……そこら辺でリヒトが知らない事があってもおかしくは無いか。
「ごめん、やっぱり、何も分からないや。もしかしたら、赤ずきんがいた世界は俺が生きてきた世界とは違うのかもしれないね」
「なるほど……まぁ、それならそれでいいです。あの世界にいたところで狼を殺すだけの生活でしたから。殺しても殺しても生まれてくるような存在を狩るのには疲れてしまいました」
「そっか……でも、いいの。召喚した手前、こんな事を言うのもあれだが、俺の従魔となったままだと不満も多いでしょ」
今の俺はどっからどう見ても要介護必須の可哀想な男の子だ。ステータスも低ければ才能も無いせいで他人に虐められるような存在、その人の従魔となれば幸せとは程遠い生活になると不安になるのも不思議じゃない。
「私達はマスターの魂の一部のようなものです。マスターが死ねば私達も死に、逆に私達はマスターの魔力を頂く事で食事も必要とせず、死んだとしても時間が経てば生き返ります。そのようなメリットがあるからこそ、多少の不満であれば何も思いませんよ」
「……それが無かったら俺を殺していたのかな」
「いえ、有り得ませんね。他の従魔がどうかは知りませんが、私はマスターに対して強い好意があります。ええ、それはもう今既に襲いたいくらいには強い好意がありますので殺すなんて詰まらない事はせずに私と二人っきりの空間に閉じ込めて一生を」
「わ、分かった。変な質問をしたね。謝るよ」
舌なめずりしながら言う事では無いな。
よく分からないが……メイジーは過去のマスターという存在をとても愛していたらしい。そんな子が俺のために動いてくれるとなれば心強さはあるけど怖くもあるな。事実、記憶が無いせいで俺が本当にマスターなのかも分からないし。
「であれば、私の事はメイジーとお呼びしてください。そうして頂けるのであれば謝罪を受け入れましょう」
「分かったよ、メイジーさん」
「メイジーです」
「メ、メイジー」
こ、こわぁ……そんなに寄らなくても……。
でも、何故だろう……メイジーと言う名前を聞いて少しだけ安心してしまった。本当に過去の俺はメイジーと関わりがあったのかもしれないな。記憶が無いから肯定できはしないけど……。
「それにしても私達って言った? 俺はメイジー達の事は何も知らないよ?」
「恐らく記憶を失っているのでしょう。私達、いえ、私はマスターである亮太様をよく知っております。身長や体重、年齢や性別など全ての事を理解しているつもりです」
「な、何だって! お願いだ! 教えて欲しい!」
あ、え……すごく柔かぁい……。
って、そうじゃないな。危うく甘美な香りと触り心地の良さから顔を埋めたいと思ってしまったけど……我慢だ我慢。今はそれよりも……この赤く染った林檎のようなメイジーに言い訳を……。
「あ、あの……少し大胆だとは思いませんか。人目が付かないような洞窟だとはいえ、ここは野外であり昼間です。そんな時間から襲ってくるなんて私としては嬉しい限りですが初めてはもう少しロマンチックな方が嬉しいと」
「違う違う違ーう! メイジーを押し倒すつもりは無かったし! 肩を掴んだのだって俺について教えて欲しかったからなんだ!」
「そ、そうでしたか……では、初めてはもっとロマンチックなやり方でして頂けるのですね!」
「うん! まずはそこから離れようか!」
確かに初めてならロマンチックな方が良いのは男も女も変わらないからな。そこに関しては少しも否定する気はって、そんな事を考えたくてメイジーに言い訳をしようとしたわけではない。メイジーが良いというのなら後々は……って、それも違う!
「ごほん……えーと、佐々木亮太様ですが年齢は三十四歳の男性で、身長は三メートル五十センチ、体重は二百五十キロ、巨人族の生き残りであり人類への復讐を誓って」
「待て待て待て! 記憶は無いけどさすがに嘘だって分かるよ! 本当の事を話してくれ!」
「え……私の説明に間違いは無かったはずです。私達が共に生きてきたマスターは確かに今伝えたような存在で合っているはずです」
巨人族って……地球の知識には無い存在だ。
というか、俺が知っている限りだと都市伝説ものの存在していたかも分からない存在……申し訳ないけど知識からして俺がその末裔だなんて信じられるわけもない。
「……それなら人違いだと思う。俺の知っている世界では巨人族なんていなかったし、その説明に当たる人もいない。だから、同姓同名の違う人だと思うよ」
「いえ、それはありません! 私が知っているマスターと魂の形が同じです! 見た目は幾らでも変えられますが魂の形は誰であろうと変える事ができない不変のものですから!」
「でも……いや……うん……」
魂の形……それは俺にはよく分からない。
でも、確かに俺の記憶が無い手前、過去に関しても不明な事が多いのは事実だ。肯定できはしないが否定もできない状況で断定的な言葉は使いたくは無い。
「分かったよ。一先ず、俺の事については気にしたところで思い出せないだろうし忘れる。代わりに他の事でも考えよう。例えば」
「私達の将来についてですね!」
「間違ってはいないけど合ってもいないかな。先に考えたいのは俺がどうやって生きていくかだ」
メイジーは言っては悪いが俺がいなくても好きなように生きていける。逆に俺はどれだけ頑張っても一人で生きていけるような力強さは持ち合わせていない。だから、メイジーより先に俺が自立できるようにしないといけないからね。
「……詳しい事は分かりませんが見た目からして転生でもなされたのでしょう。加えて血塗れでボロボロの制服からして殺された後でしょうか」
「そうだね……殺されてから腐敗する前に転生したとなれば遅くても二日以内とかかな。まぁ、殺した相手も知っているし、どうにでもできるんだけど」
「はい、そのような下賎な輩はさっさと殺してしまいましょう。いえ、すぐに殺してはいけませんね。ゆっくりと痛め付けながらマスターの体となった存在を殺した罪を実感させながら」
「そういうのは必要性が無かったらする気は無いよ。この体、リヒトという存在は俺であって俺では無いからね。俺が何かをされたのならまだしも過去の事で殺す気にはならないかな」
目立つ気は少しも無い……それこそ、メイジーのような普通とは明らかにかけ離れた存在がいる時点で叶わない願いかもしれないな。でも、回避できる戦いの火種はどうにかしておく。何も相手と同じ土俵に立つ理由も無いし。
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