第18話
「安心安全に、勝てる格上が来る程度だけ名前が売れていればいい。その中で都合良く来てくれたのが戦い方次第では俺を殺せた君達だった、というわけだ」
まぁ、あんな連携で俺に勝てるわけもないが。
ただ、戦い方を整えられれば本当に負けていた可能性があった。むしろ、ここまで圧勝できたのは他でもなく調子に乗った足手まとい達のせいとしか言いようが無い。
「だから、お前には糧になってもらう」
「クソ、がっ!」
「まだ炎が消えていないようで良かったよ。どうせなら最期の最期まで抗ってもらわないと困難になり得ないからな」
うん、速い……そして慣れてきたな。
会話を挟んだのは良くなかったか、その間に目が慣れでもしたか……もしくはもっと違う部分。それこそ、俺の放出する魔力を頼りに攻撃を行っている可能性もある。
剣の振りが先程よりも遅い。
遅くする代わりに俺の攻撃に対して反応ができるようにしている……は、あまりにも俺の都合が良すぎる考え方か。それでも完全に視界が慣れているようでは無さそうだな。俺でも反応できる速度だから大した事は無いというのに……はぁ……。
「うん、やっぱり、俺にロングソードの才能は無いみたいだ。振って見て思ったが切る力が弱過ぎる。ましてや、筋力が高くてこそ、上手く扱える武器でしかない」
「独り! 言か! 余裕そうだな!」
「ああ、単純に今の俺は弱いというだけだ。それがよく分かったからそれでいい。剣は扱えずとも他の得物は使えるからな」
体が対応出来ているとはいえ、反応速度が良いわけではない。一言で表せば対人に特化した打ち合いの仕方をされているからだろうか。だからこそ、ユキムラとは対等に戦えたがコイツを相手にすると、取り回しの難しさから不利へと追い込まれてしまっているんだ。
だから、ロングソードの練習は終わりだな。
ここからはメイジーの心器メインで戦う。どうせなら心器はメイジーのもので、使うスキルはアリスのものといった風に能力や心器の使い分けも可能なのかを知っておきたい。使えそうと使えるでは大きな違いがあるからな。
「こうだったか?」
「ガアッ!」
「ふーん、使おうと思えば使えるんだな」
足元から黒い棘を出してビリーを目の前に連れてくる。無理やり壁を突き抜けさせたからそれだけでも痛みはあるだろうに……そこから無数の茨が体を貫通して大きな血の水溜まりを作った。
別にやる必要は無かったがメインは大きな悲鳴。予定通り明確にコイツの表情から冷静さが消えた。こうなると本格的にメイジーの心器の方が光る場面へと変わってくれたからな。とはいえ……二回目は遠慮しておきたい。
今ので体内の血液が一気に消えてしまっている。強力無比な能力の代わりに人間には扱い難い、そんな能力といったところか。まぁ、アリスは吸血鬼だからな。能力が吸血鬼に沿ったものであっても何ら不思議では無い。それが扱えている俺が異常なだけだ。
この弱点が残り続けるようなら黒魔法の使用は避けた方が良さそうだな。いや、代わりに魔力の消費が少ないところを見るに……血液と魔力の消費の割合を変える事も可能なのか。
まぁ、奥の手は残しておこう。使わずとも残ったコイツからすれば同じ事をされるかもしれないという恐怖だけがついて回るはずだ。魔法の初動は見えていただろう。これでいい……コイツには強い恐怖が植え付けられたはずだ。
「予定通り一対一になったな」
「クソがッ!」
「はぁ……それは愚策だよ」
二丁拳銃に切り替えて男目掛けて発砲する。
反動は変わっていないはずだが……ステータスがかなり高くなったおかげか、ゼロに近いとすら思える程に弱い。だというのに、火力は未だ変わらずに高いとなればメイジーの心器がどれだけイカレているのかが分かるな。
「本当に策がないとは思ってもいなかったぞ」
「ぐっ……!」
「おいおい、怯えなくてもいいだろう。元はと言えば君達が依頼を受けたのが始まりだ。俺達は静かに楽しく生きたかっただけだというのに……邪魔をしたのは君達と主だろう」
怒り……よりは呆れが強いか。
どうせ、貴族関連で俺を狙うとすればギビルだろうからな。俺やメイジーに反撃されて反感から監視しに来たか。なんというか、本当に貴族って金の使い方が下手くそなんだな。
「知っているか、神というものはサイコロを振らないらしい。では、代わりに俺が賽を振ってやろう」
全てにおいて何かしらの数式が成り立つ。
だから、神が賽を振らずとも全ての事象を説明出来るらしいが……それら全てを俺が定めていってやるよ。振られた賽が示す結果すらも俺が決めた数字にして、俺が定めた結果だけを事象として残してやろう。
「賽は投げられた。結果は死刑だそうだ」
「やめ! やめてくれ!」
「何をやめるんだ。殺しか、いや、無理だな。お前達だって金さえ貰えれば人を殺すと言っていたでは無いか。そんな奴らを殺さないという選択肢は俺に無い」
「嫌だ! 嫌ァァァ!」
死にたくないがために突撃を始めたか。
悪くない、全てを投げ出した本気の詰めだ。もう既に視界は取れているのだろうか……仮にそうだとしても全てを投げ捨てた突撃では優位性など欠けらも無い。
黒魔法で地面から黒い棘を生やして男を串刺しにしてやる。助かったよ、範囲を狭めれば大して血は使わないみたいだ。それにいいね、その絶望に染まった表情は優越感に浸れて悪い気はしない。金のために命を懸けて依頼を受けたんだ。死ぬ覚悟くらいは持ってきたはずだろう。
「死人に救いなど必要があるとは思ってもいないが可哀想に思える微かな情はある。少なくともお前達如きの糧にされた人達は他の何よりも可哀想な存在だからな」
「い……や……!」
「死ね。そして俺達の玩具となれ」
だから、死ぬ時だけはせめて苦しまずに……。
アリスの心器に切り替えて首を切り落とす。こういう時に最高の切れ味を持っている事を嬉しく思うよ。一言で表すなら殺すのに時間がかからないからすごく楽だ。
「さすがはマスター、その残酷で美しい姿は私が愛した存在そのものでした。今すぐにでもベッドへと向かいたいのですが」
「それは俺が大きくなってからだ。ましてや、今は四人をアリスに生き返らせて貰わないといけないからな」
「分かっているのー。マスターの命令を忠実に聞くゾンビにするのー。それでいて元の姿と大差ないようにしてっとー」
軽く指を噛んで血を流したかと思うと、そのままリーダーらしき男の死体へと落とした。普段の幼いアリスからは考えられないような妖艶な笑みを浮かべたかと思うと男の体と首がくっ付く。すぐに身体中の傷が癒えていったかと思うと……。
「どうなのー? 自信作なのー!」
「すごいよ、想像以上だ。見ただけでは生者とは見分けがつかないくらい完璧だな。さすがはアリスだよ」
「ふふん、これくらい朝飯前なのー」
どう見ても出会いたてと変わらない。
これで怪しまれたとなれば敵は相当の手練だと言っていいだろう。というか、心器とかいうリヒトが生まれた世界には無い物を十全に扱えるような存在だ。仮にバレたところで如何様にもできるだけの力があるだろうから不安は無い。
「それじゃあ、面倒だと思うけど他の三人もお願いするよ」
「任せるのー。マスターのお嫁さんとして最高の働きをするのー」
「うん、よろしく頼むよ」
アリスは笑顔で首を縦に振った。
そのまま黒い液体のような何かを地面に這わせてから一気に放出させる。それらが十数秒程度、這い続けたところでゴムのように一気に収束を始めた。その先にあったのは俺が殺した他の三人の遺体だ。
こうして見てみると戦いの中で一度も恐怖なんて感じなかったな。それに相手が想像よりも弱かったせいで危機的な状況にさえもならなかった。まぁ、その分だけ一対四の練習ができたかと聞かれれば微妙なところだけど。
「終わったのー」
「……本当に見事な手際だよ。アリスの能力が使えるとは言っても同じ事ができる自信が無いや」
「んー、それは場数の問題なのー。もっと言えばマスターは才能の塊のような存在、磨かないと上手く扱えないのは当然なのー」
お世辞……よりは本音に近そうだな。
確かに従魔の能力が全て扱えるようになるなんて才能の塊と言わずに何と呼ぶ。それを磨き切れるかどうかが、才能の保有者である俺の行動次第となれば……はぁ、プレッシャーが強過ぎて胃が痛くなってくるよ。
まぁ、考え過ぎても意味は無いよな。
「では、野兎に命令をする」
_______________________
次回辺りで投稿頻度が格段に落ちると思います。また軽く書き溜めが出来たら高い投稿頻度に戻りますのでご緩りとお待ちください。
次回は土曜日辺りに投稿する予定です。宜しければフォローや☆レビューのほど、お願いします。増えると嬉しいですし、減ると悲しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます