第19話

「では、野兎に命令をする。四人は俺達が適当に魔物討伐をしていたと主に伝えろ。加えて怪しまれない程度に情報を抜き取り、お前達が持つ情報と共に夜間にメイジーと合流をして話すように。それからの行動は彼女の命令に従え」

「わ、私ですか!?」

「ああ、メイジーなら情報を精査して必要な部分だけを伝えられると思ったからな。さっき言っただろ、適材適所で動く必要があるってさ」


 事実を言えば体のいい他人任せだ。

 だってさ、情報の統括とか確実に面倒じゃん。それに俺を通して二人、ないしはこれから増えていく従魔全員に伝えるのはダル過ぎる。なら、仕事がどうとかで拗ね気味だったメイジーに任せた方がウィン・ウィンの関係でいられるだろ。


「これはメイジーにしか任せられない重要な頼み事なんだ。それこそ、アリスにだって任せられないような難しい任務でもある。断るのなら俺がやるからいいけど」

「やります! いえ! やらせてください!」

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ、野兎を放つ。いいか……俺達を探ってきたんだ。その行動を悔やませないといけないよな」


 二人は満面の笑みを浮かべて首肯した。

 そうだ、これは俺にとっての困難であり、探ってきた奴らの困難でもある。打開する能力が高い方が勝利を得られる盤上外での戦いでもあるから、最後の最後まで楽しまないといけない。


 そう言えば……殺す事に躊躇が無かったな。

 もしかして、本来の俺って人殺しだったのか。まぁ、地球の知識があるだけで生まれは別だったとしても何もおかしくは無いからな。それこそ、元々は地球で生まれたけど異世界に転移して、とかも無くはない。


 ああ、いいねいいね。面白くなってきた。

 この興奮が冷めない相手であって欲しいよ。まぁ、監視の時点で今はまだ殺しに来る気は無さそうだけどな。……なら、その考えが変わる前にコチラはコチラで準備を整えておこうか。






 ◇◇◇






「おお! 今日は帰って来れたみたいだな!」

「あはは……死んで欲しかったんですか」

「そんなわけねぇだろ。これも喜び方の一つだぜ。なんせ、魔物と戦う奴らっていうのは毎日一人や二人は確実に死ぬもんだ」


 笑いながら言う事では無い気がするけど。

 それにステータスが上がったはずなのに背を叩く力は強いし……実はドリンってものすごく強いんじゃないのか。いや、だとしたら、とっくに兵士としても上の地位に就いているはずだから違うな。


「朝、話をした奴が三日四日後に遺体となって帰ってくる。本当に衛兵っていうのは精神がやられる仕事だぜ。だから、リヒトが帰ってきてくれて本当に嬉しく思っている」

「そんなものなんですね」

「おうよ、冒険者っていうのは本当に命の軽い仕事なんだ。冒険者を殺すのは何も依頼対象となる魔物だけでは無い。盗賊だったり、守るべき村人だったり、後は同じ冒険者の時だってある」


 それは……冒険者になる俺への脅しか。

 死んで欲しくないって気持ちが本当にある事はリヒトとドリンの関係から分かっている。それの延長線上だとはいえ、本気で死んで欲しくないから今のうちに意識の改善を測りたいのだろう。そうじゃなければ、冒険者に限定して話をする必要も無いからな。


「リヒト、本当に強くなったな」

「……そうですね」


 育った子供を見るような目をしないでくれ。

 俺、もとい、リヒトはこんな目をされるために頑張っていた訳では無い。むしろ、生き残りたいから強くなろうとしていたのであって、今だって従魔二人がいなければ俺なんて雑魚も雑魚だ。強くなったなんて口が裂けても言えない。


「と、そういえばドリンさんに紹介したい人がいるんですよ」

「それは……そこの美少女さんか」

「ええ、強くて美しい俺の二人目の師匠のような方なのですが少しばかり込み入った話があって……」

「……分かった。そっちの兵舎で話を聞く」


 珍しく真面目な顔をしてくれたな。

 いや、込み入った話と言って「今日のご飯についてですが」みたいな阿呆な話はしないけどさ。そういう風に真面目になれるのならいつもしていて欲しいよ。とりあえずドリンの先導に従って門横にある交番のような建物に入った。


 中には二つの個室に繋がる扉があり、その片方へと進む。空いた扉から見た感じは両方とも取調室のようになっているみたいだ。大きめの横長な机の周りに五つ程のパイプ椅子がある。


 その中から二つだけ開いて片方に座った。

 メイジーは無言で俺の横に座り、ドリンは対面に座って小さく溜め息を吐く。そんなに精神に来るような事を言ったつもりは無いが……まぁ、仕事から来る心労は少なく無いだろう。気にするだけ無駄だよな。


「それで込み入った話についてだが……昨日のオーガが関係してくるとかか」

「そうですね……」


 やけに鋭いな。何か口を滑らせたか。

 いや、俺は込み入った話があるとしか伝えていないはず……逆に考えてみれば俺とドリンの中での込み入った話なんてオーガくらいしか無いな。バレてしまうのも当然の話か。


「そうか……あー、よかった」

「どうして分かったんですか」

「ああ、今朝方の調査で確かにオーガが六体、浅部にいてな。夕方頃に討伐隊を派遣する予定だったんだが……少し前の調査で全て狩られている事が確認されたんだ」


 軽くメイジーを睨んでおいた。

 口笛を吹こうとしているみたいだけど……おい、一瞬たりとも鳴っていないぞ。これは何というかすごく面倒くさい事になってしまった。確かに狩りつくしはしたがまだ調査隊の派遣なんて先だと思っていたんだ。バレてしまっているとなれば何かしらの言い訳は作らないといけない。


「まぁ、俺としては報告料が貰えるからいいが理由が分からなければ、明日にでも調査隊に派遣されて休みが無くなってしまっていた。それで聞いてみたんだが正解で本当に助かったぜ」


 どこまでが真意で、どこから探りだ。

 そこまで分かっていて何も疑わないとはいかないだろ。それに馬鹿なように見えてこうやって鋭いところがあるんだ。本物の馬鹿だったら調査隊がどうとかで聞いたりはしてこない。


「わざわざ代替の休みすら与えられないのに休日出勤とかやっていられねぇっつの。それに中部とか下手すれば俺でも死ねるって」

「……そうなんですか」

「おうよ、だから、本当に助かったぜ。いや、こういう時はそちらの嬢さんに感謝すべきか。まぁ、どちらでもいい」


 やっぱり、嘘をついているようには見えない。

 それだけ隠すのが上手いのか、それとも……いや、嘘があるとすれば隣にいるメイジーが静かにしているわけも無いな。嘘を見抜く力があるかは分からないけど、人を見抜く力くらいはあるだろうし。


「話を聞かせてくれ。別に嘘でもいいぞ。俺が納得出来る説明をしてくれれば適当に書類を作れるからな。いや、むしろ、解決したという功績として奨励金も……おい、リヒト、奢れる食い物のランクが一つ上がるぜ!」

「彼を疑わないんですね」

「ああ、リヒトがどんな扱いを受けているかなんて俺も知っているからな。その子が何かを成すために動こうとしているんだ。邪魔をしてどうする」




 ……カマかけをしたんだろうな。

 その結果として睨まれてしまったわけだが……それでもメイジーは満足そうだ。欲しかった返答が来たからなのか、或いはメイジー相手に睨み付けられる度胸を買ったのか。まぁ、殺し合いにならなければそれでいいや。


「良い殺気です。彼とあの女以外の人間にあまり好感は持っていませんでしたが、少しばかり興味が湧きましたよ」

「おいおい、俺は殺し合いなんてする気は無いからな。簡単な仕事をして、美味い酒と飯を食いたいだけなんだ。謝れと言われれば軽い頭くらいなら下げてやるから許してくれ」

「だそうだ。それ以上、俺の大切な知り合いを虐めないでやってくれ」

「畏まりました」


 手で静止をしてメイジーを座らせる。

 大切な知り合いというのは嘘では無い。リヒトという何の価値も無かった人間に対して優しく接し続け、その目を曇らせないようにしてくれた掛け替えのない存在なんだ。今更、関係を持とうとしてくるような輩とは天と地ほどの差がある。


「俺は貴方に嘘を付きたくは無い。だから、一部分は隠して伝える事になります。それでも良いのなら納得出来る話を教えます」

「おう、別に嘘八百を並べてもいいぞ。適当に付け足せばアホ上司共は騙せるからな」

「はは、それは俺の考えに違反します。大切に思える人が少ないからこそ、そう思えた人には誠意を持って接したい。その気持ちくらいは受け取ってくださいよ」


 昔のリヒトも同じ話し方をしていたからな。

 俺が素で話をし始めたからか、表情を一気に軟化させてくれた。本当にメイジーは先走る癖があるというか……もう少しだけ俺の事を考えて欲しいよ。兵士であり俺の味方でもある存在とか手放す方がおかしな話だろ。


「今から話す内容は出来れば内緒にしてください。彼女に関しての話は並べてもいいですが、俺の名前はあまり書いて欲しくは無いです」

「まぁ、オーガを無傷で倒せる存在と行動を共にしていた存在なんて馬鹿貴族共が許さねぇか。それに変に嗅ぎ回られても鬱陶しいだけだろうからな」

「ええ、その通りです。では───」




_______________________

本当は昨日出すつもりだったのですがどう頑張っても一話で纏められる内容では無いと思い、今日出す事にしました。もしかしたら区切りを考えて近いうちにもう一話だけ出すかもしれません。……あまり期待しないでお待ちください。


また書きためができれば投稿を再開しますので、それまではフォローや☆レビューなどをしてお待ちしていただけると助かります。投稿日時が極端に早くなるかもしれません。

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いずれ最強へと至る道〜底辺召喚士は『童話召喚』の力で成り上がる〜 張田ハリル@m9(^Д^)気分次第だぜ! @huury

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