第17話
「ふーん、君だけは別格みたいだね。ステータスだけで言えば三千まで行きそうだ」
「それを躱している奴が何を言う!」
「ああ、これは遊んでいないからだよ。言わば少しも手を抜いていない本気の状態。それで躱せないのなら最初から戦っていない」
本当は視界の有利があるから大丈夫なだけ。
これで視界までも取れていた場合、確実に俺は負けている。まぁ、それも剣という道具のみで戦っているから負けるだけだ。実際は森の中という特性も踏まえれば遠距離戦闘に持ち込めば負けの可能性は一気に減っていた。
いいか、使えない武器だからこそ、頭を使え。
思考回路を止めた瞬間に死ぬ、それでいい。俺は元の俺を超えると公言したんだ。その歩みを止める必要は無いな。この世界で俺を慕ってくれる美少女達がいるんだ。それに見合うだけの能力が無いと共に居られないだろう。
寿命を縮めてでも思考を巡らせるんだ。
ただ息をするだけの毎日に価値など無い。生きているの本当の意味は考えを止めずに前に進む事。どれだけ精神が殺されようと前に進んでいればどこかに到着できる。
「命の取り合いとはここまで楽しいものなのか。いやはや、君達の気持ちが少しだけ分かってきたよ。これは確かに他人を蹴落としてでも味わいたい空気だ」
「狂っているのかよ!」
「失礼だね、君達が襲いに来なければ狂う事も無かったんだよ。だからさ、責任を取れ」
こんな時にも主導権を奪おうとするか。
ふざけるなよ、そこで黙って指咥えて見ていろ。この体は俺のものであって、他に貸し与える気なんて無い。自分の過去を否定する気は無いが前へ進みたい今の俺にとっては邪魔でしか無いんだよ。
「ガッ……!?」
「もっと遊ぼうぜ。ここじゃ邪魔が入ってしまう」
頭を強く掴んで闇の壁へと叩き付ける。
そこから腹を強く蹴って距離を一気に取った。動いてみて思ったが……何をするにしてもイメージというのは重要らしい。今だってイメージに合わせて動いていたに過ぎないからな。影の分身だって同じくイメージしたら出来ただけ。
つまり、このまま壁に押し込めば……。
「君だけを闇から出す事だって出来る」
「ぐっ……分断か!」
闇の壁に穴を開けて敵を外へ出した。
もちろん、外へ出せば完全なる闇の効果は得られないが今はそれでいい。俺としては亀のように遅かろうと近付いてきているだろう魔法使いの援護が来る方が面倒だ。それに……姿が映らないような工夫はしてある。
アリスのように壁を作り出して全てを闇で埋め尽くすなんて芸当は不可能だが、縦横三十メートルの正方形を闇の壁で覆って擬似的な暗闇を作り出せはするからな。ただ、アリスのように完全に光を消し去った訳では無いから時期に慣れられるだろう。
だから……練習をしながら力を削いでいく。
このリーダー格の男だけは明確にステータスが高いからな。それに技術面でも付け焼き刃の俺とは比べ物にならない程のものを持っている。現に真っ暗闇の中で致死性の斬撃のみを回避していた。
その生き残るための嗅覚や流す技術などは評価するべきものだろう。それらを消す方法って何があるだろうか。まぁ、最初に思い付くのは剣で近接を行いながら拳銃を用いる事かな。でも、あまり現実的とは言えない。
ただでさえ、剣と剣での戦いであれば勝ち目が無いのに、片手に拳銃を持って打ち合えば間違いなく力負けしてしまう。未だに多少の視界という優位はあっても得られるメリットには限度がある。
だったら……いや、それだと遊びではないか。
だが、試す行為がイコール遊びだと言えるのならば、あながち間違ってはいないんじゃないか。一先ずは頭の中にあるイメージを構築させよう。何をどうしたいかを頭の中に叩き込んだ上で……距離を詰める。
「そこか!」
「正解」
拳銃を四発撃ち込んだせいで突撃はバレてしまっている。いや、バレる分には俺としても想定内だったからな。だけど、それに対しての返しが大きな横振りとなるとガードを取るしか無いか。
やっぱり、力の差で弾かれそうになるな。
でも、既に闇魔法で足を固定しているから力負けで飛んでいく事は無い。そして鍔迫り合いになった瞬間に周囲に闇を振り撒く。これで俺の様子などを晒さないようにして……ああ、そこで引いてしまうのか。
その手を取るのなら再度、突撃をして斬る。
鍔迫り合いを続けてくれれば楽だったというのに無駄に魔力を使ってしまったな。……不確定な行動を嫌う相手の性格を考えれば当然の選択か。こうやって一回の斬撃を喰らう方が下手に罠にかかるよりはマシだと思ったのだろう。
「その判断、正しいですよ」
「何を……!?」
闇魔法で相手の足を固定する。
時間にして三秒が限界か、ある程度の隙をついて放った魔法の拘束時間が三秒……ううん、割に合わない攻撃だよ。だけど、その三秒間が俺には欲しかったんだ。別に致命傷を与えたい訳でもないし。
「動けない的を狙うのは容易い」
「ぐっ……がァッ!」
先に撃ち込んでおいた三つの弾丸を俺のもとへと引っ張って敵を撃ち抜かせた。右肩と両足に一発ずつ撃ち込ませたおかげで狙い通り、両膝をついて地面に伏せてくれたよ。
「く、そが……!」
「なんだ、もう終わりなのか」
強い言葉を口にはしたが分かっている。
俺が油断した瞬間を突きたいんだろう。だからこそ、次に起こす行動は近付いたりする事では無い。相手がこうやって横になっていられない状況を作っていくだけ。……そうだな。
「最初から一対一で来ていた方が勝ち目はあっただろうに。足手まといに合わせているせいで傷を負ってしまっている」
「足手まといじゃ、ねぇ!」
「ああ、そう」
殺すつもりで大きく横に薙いだのだろう。
でも、感情に身を任せたせいで本来、取るべき行動をすっ飛ばしてしまっている。既に強化も解けている時点で勝ち目なんて無いだろうに。その程度の速度なら……。
「なっ!?」
「意外と難しくないんだな」
片膝をついて横振りを躱す。
ここら辺は俺が子供故の低身長だからこそ、問題無く躱せたって感じか。そりゃあ、張り合っている相手の身長が小さいとか考えないよな。ロングソードの剣先だって大人用と少しも違わないし。
でも、見えている大きな隙。
それをみすみす見逃すわけも無い。逆袈裟斬りにして敵の胸元に大きな一文字の傷を付けた。ここまで来てようやく敵の戦略も無くなるといったところだろう。そのまま拳銃を消して左手で頭を掴んで宙へ投げる。
そこから袈裟斬りにして少し距離を取った。
まぁ……本気で斬ったんだけどな。手を抜いていないのに致命傷になっていないだなんてさすがに自信が無くなってしまうよ。いや、その分だけメイジーの心器が優秀なだけか。片手剣モードはアリス曰く派生型らしいし、多少は弱体化していてもおかしくはない。さて……。
「どうして……だ……」
「うん?」
「どうしてここまで強いのに表に出さない! 分かっていれば俺達は手を出さなかった! なのに! なのに!」
何とも……自分勝手な言動だな。
強ければ表に出すのが普通だと……いや、それが必ずしも間違っているとは言わない。だが、表に出す事によって起きるマイナスな部分は見て見ぬふりか。本当に愚かというか、何と言うか。
……ああ、良い言葉を思い出したよ。
「俺の知っている言葉でこんなものがある」
「な、何を……!」
「In the middle of difficulty lies opportunity……困難の中に全ての機会が埋め込まれているという意味だ」
確か、アインシュタインの名言だったか。
この言葉が何故か強く記憶に残っていた。過去の俺が好んでいた言葉なのだろう。それが正しい事なのかは分からない。でも、無理やりに理由を作れと言われればコレが一番しっくり来るな。
目立ちたくは無い、だって、面倒だし。
じゃあ、強くなりたくないか……そんなもの強くなりたくないと思っているのなら戦いはしない。ユキムラと戦ったのだって、仲間にできるか試したのだってできる範囲を知りたいからだ。
当たり前だけど従魔という存在は作れれば作れる程に価値がある。俺自体はユキムラを含めて従魔という存在を雑に扱う気は無いが、見方を変えれば死んでも時間が経てば復活する最強の軍隊を作れるって事だ。それに育成方法によっては最弱が最強になる可能性だってある。
「そして、それに続けそうな言葉として、こんなものがある。Life is like riding a bicycle. To keep your balance, you must keep moving……俺は困難とは生きていれば勝手に振ってくるものだと解釈した。今回の戦いも俺が死を体験するための一つの困難だ」
「死を体験……狂ってやがる……!」
「狂っている……そうか、そうかもな。だが、強さを誇示すれば自分で困難を作り出せなくなってしまう。どれだけ強かろうが自分よりも圧倒的に強い存在を相手にすれば無意味だからな。だから、主導権が俺にある状態で困難を作りたいんだよ」
狂っている、大いに結構な話だ。
頭がイカれていようが俺に着いてきてくれる人がいるのならそれでいい。困難を乗り越え、その先にある道を共に歩んでくれる人がいるのなら些細な問題でしかない。少なくとも……何も考えずに金のために動く人よりはマシだな。
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次回、野兎戦終了です。ちなみに、もう少しだけ蛇足のような話を描く予定ですので、人によってはあまり面白く感じられないかもしれません。ただ書かないと後々、自分の首を絞める事になるので書く事にはなりますが……。
宿舎に戻ってから……が、恐らく一章の山場になると思います。大体、三話か四話後くらいですかね。お楽しみに!
次回も今週中には出しますので、期待なども込めてフォローや☆レビュー、いいね等をお願いします。
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