第16話

「アリス、仮にコイツらを殺したとして情報を抜き取る方法はあるか」

「問題ないのー。死霊操術は大得意なのー」

「そうか、なら……今度は一体四の戦いでもしようか。これも一つの練習だ。同格以上が相手ではあるものの数的不利な状況、それを味わえる数少ないチャンスだからな」


 アリスに聞いたのは吸血鬼という種族故だ。

 吸血鬼は人を操る事ができると聞く。でも、目に見えて操ったところで勘の鋭い奴からは簡単に見抜かれるだろうからな。ならば、情報が聞けるかどうかだけに重点を置けばいい。敵にバレたところで大きな問題にはならないし。


「アリス、敵の拘束を解いてくれ。そして逃げられないようにしろ。メイジーは他に敵がいないかの警戒。……頼むから俺の邪魔はするなよ」

「ッ……はい!」

「わ、わかったの!」


 何をそんなに戸惑っているんだ?

 単純に俺は二人に邪魔をしないように伝えているだけでしかない。変な言い方でもしたか……いやいや、それで従ってくれるのなら別にいいか。命令通り男達の解放もしてくれたようだしな。


「君達には俺と戦ってもらう。俺を殺せれば君達を生かして逃がすと約束しよう。そこにいる二人にもそう約束させるよ」

「……本当にいいんだな」

「ああ、代わりに……命懸けろよ。殺してもいいと分かった以上は君達の命に価値は無い」


 コイツらに殺される程、俺は弱くない。

 コイツらは俺が無能なリヒトであると誤認しているはずだ。オーガとの戦いを見ていたとしても対応していた事くらいしか遠目では見れないだろうし。それにどれだけかき消したつもりでも侮りという感情は簡単に捨て去れはしない。


 それに蔦を壊せない時点で多少の能力は測れる。ましてや、記憶が正しければCランク冒険者ではオーガを倒せないはすだからな。それに最悪はメイジーの心器を使えばいいだけの事だ。大きな約束事をしたところで大した問題は無い。それに二人は手を出せないようにしただけだからな。


 この闇の中という状況に対しては何も言っていない。アリスの特性を持ってしても前が見えにくい状況下で普通の冒険者達が対等に戦えるか。普通に考えれば俺の方が圧倒的に有利だろう。ただ、それで油断するつもりも無い。


 魔導書を出して二枚の紙を破り捨てる。

 蒼白い炎が暗闇を一瞬だけ照らしたかと思うと即座に消えてしまう。我ながら本当に美しい光景だと思うよ。でも、それは一瞬で消え去ってしまうから美しく思えるんだ。




「じゃあ、始めようか」


 右手に持った剣を左下へと流して構える。

 ここから先は……そうだな、魂に従わずに体を動かしてみようか。先程の体の動かし方からして目新しさがあるようにも思えなかったし、それにロングソードの練習では無いからメイジーの心器だって使える。


 もっと言えば有利状況で遊ばない意味は無い。

 俺がやりたいのは練習なんだ。圧勝でも、何も考えずに得る勝利でも無い。それなりに苦しい思いをしながら戦えてこそ、俺にとっての利になってくれる。言ってしまえばユキムラよりランクの低い相手への慈悲みたいなものだ。


ライトッ!」

「各員! ビリーを囲いながら四方の警戒! 接近させるな!」

「分かっている!」

「ビリー! 絶対に油断するなよ!」


 なるほど、ビリーと呼ばれた男は魔法使い系統のジョブを持っているらしい。『灯』も生活魔法の一つで光の玉を作り出して視界を取れるようにする魔法。でも、それだけでは闇の一部分しか晴らす事はできない。


 俺から攻める分には囲むのは良い手だ。

 だけど、俺が圧倒的に有利な状況で近接戦を行おうとなんてしない。視界が奪われないようにするのは結構だが少しだけ考えが甘いな。……とはいえ、このままでは練習なんて出来なしないか。


「……はぁ?」

「守りに徹していても勝てはしないぞ」

「くそ……遠距離も強いのかよ……!」


 メイジーの心器による射撃。

 わざと威力の低い拳銃にしたし、殺さないようにリーダー格の肩を撃ち抜いている。まぁ、拳銃を選んだのは殺さないというよりも、発砲で俺の位置が分かりづらいようにしたいっていう方が大きいからだけど。


「ドールはビリーの護衛! 俺とバンで遠距離攻撃の阻害! やるぞ!」

「悪くは無い……でもさ」


 視界の有利は変わらず俺のままだ。

 それに『灯』を付けるという事は近くにいる自分達の存在を晒し続けるという事でもある。そこを少しも改善しないままで俺に向かってくるとは、いやはや見ていてヒヤヒヤするよ。


「ちっ!」

「阻害できるのならしてみろよ。口だけなら幾らでもできるからな」

「ああ! やってやらァッ!」

「ま、待て!」


 ふむふむ、バンと呼ばれた男が突撃してきた。

 確かに撃ち込んですぐに向かってくれば位置の特定は気にしなくていい。弾丸が飛んできた位置、声が聞こえた方向を鑑みれば突撃する選択も悪くは無さそうだ。いや……どちらかというと感情が先走って向かってきただけか。ただ、リーダー格の男が止める通りだ。


「斬ったッ……!」

「安直だな。そこに居続けるわけが無いだろ」

「はぁ……馬鹿が……!」


 背後からバンを袈裟斬りにしてやる。

 四対一となるからには一対一にはならないと思ったが……そこら辺は俺の動き次第で幾らでも作り出せるか。今だって影で作り出した分身で簡単に騙せてしまったからな。とはいえ、目の前の敵はCランクと言う割には簡単に策にハマりすぎだ。


「軽く切っただけだというのに……」

「あ、ああァァァッ!」

「クソがっ!」

「二対一……そうだな、折角の数の有利を潰す理由は少しも無いよな」


 バンに合わせてドールも来ていたみたいだ。

 だけど、如何せん早く倒されてしまったせいで来たのも無意味になってしまったみたいだが。いや、こうやって二対一に出来たという点では良い行動だったのかね。


 さてと……やりますかぁ。

 大丈夫、オーガとの戦いで体の動かし方は何となく学んでいる。それで同じだけの動きができるかと聞かれれば良くて一割程度だが……まぁ、敵の速度が一気に減少している分だけ対応は難しく無いはずだ。今だって俺の意思を汲んでか、体が勝手に動く事も無い。


 左右からの詰め、当然か……前から二人での連撃となれば冷静さと連携力が必須になる。今の二人を見ている感じ、合わせるという余裕は少しも無いだろう。ならば、この連撃に合わせて避けるだけ。まずは……。


「下がったところで意味は無いぞッ!」

「待て! ここは二人で!」

「息が合っていないなぁ」


 ドールとかいう人だけが追撃してきた。

 剣の振る速度からして俺よりも少しだけステータスが低い程度か。おかしいな、Cランクとなれば全ステータスが二千程度はあるはずなのだが……知識だけのせいで現場の事は分からないだけなのかね。


 後方に下がり続けながら剣を躱す。

 俺が狙っているのは反転攻勢、でも、それは二人の距離が離れてからだ。ドールは本気で追ってくるだけだし、もう片方は俺の罠を警戒して共に攻勢には転じれない。その認識の差と冷静の欠如を利用する。


 五メートル、その程度の距離でいいんだ。

 下がれ下がれ……闇の範囲はもう少しだけ続いている。背中が闇で作られた壁に付く少し前、その時に俺が逃げれないと判断した敵は油断をする。そして同時に俺との距離は五メートルを超えているんだ。それを灯の届かない範囲まで来た敵は気が付けない。


 では、終わらせようか。



「二人で来いよ。一人じゃ俺には勝てない」

「ギィ……!」


 ドールの片手剣ごと胴体を半分にした。

 今回は軽く振ったとかではなく本気だからな。それにどうせ殺してしまうのなら苦しませない方がいい。真っ二つにできたのは技術でも、ステータスの高さでも無いからやはり心器の強さからか。


「ドー……ル……?」

「ああ、今し方、死んだよ」

「はは……マジかよ……ああ、そうか……最初から俺達に勝ち目なんて……!」


 いや、勝ち目はたくさんあったと思うよ。

 それを選択しなかったのは他の誰でも無い、単独で攻めてきた二人だ。四対一ならどうにかなった可能性もあるし、今だって奥まで着いて来なければ魔法使い君の援護も受けられたはず。だから、返せるとしたらコレに限るだろう。


「本当に馬鹿なんだね。まぁ、馬鹿じゃなければ暗い仕事なんてしないか」

「クソ! クソクソクソ!」

「ああ、怒ってしまうのか。まぁ、いいや」


 振る速度はオーガ以上、いや、下手をすればメイジーレベルか。でも、それらは闇雲に振られただけの当たればラッキー程度の一撃でしかない。メイジーが相手なら確実に見えていなくても俺の位置を理解していたって根拠の無い自信があるから、それに比べれば格落ちも良いところだろう。



_______________________

戦闘シーンが後二話くらいは続く予定です。後この作品は主人公最強系の作品では無い事も念頭に入れておいて頂けると助かります。書く都合上、強い場面を描いておりますが強さとしては人よりも優秀な程度です。


次回もまた近いうちに出します。定期ではありますがフォローや☆レビューよろしくお願いします。して頂けるも書く励みになります。

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