第15話

「さてと、地に膝をついてしまったみたいだがまだやる気はあるか」


 言葉が通じているのかは分からない。

 だが、剣を置いて瞳を閉じている辺り敵対する気は無いと取っていいのか。どこか人間らしいというか武人らしいというか……魔物だからこそ、本能に従って生死を見極めているのかね。俺に生殺与奪の権利を任せている……となれば……。


「ふーん……できそうではあるんだな」

「ギ……ィ……?」

「ああ、従魔にできるか試してみたんだ。この体では魔物を従えさせられないとばっかり、考えていたが……不可能では無いらしい」


 服従の紋を飛ばしても受け入れられた。

 従魔として迎え入れられるかどうかは、服従の紋を飛ばせるかで分かるらしいからな。リヒトの知識や記憶が正しいのであれば前はそもそも飛ばす事すらできなかった。最弱のゴブリン相手ならば飛ばせは出来たが弾かれているから……。


 従魔に加えられる条件ってなんだろうな。

 それこそ、従魔を作れないという制約ならばゴブリン相手に飛ばす事すら出来ないはず。となれば、より深い部分で従魔に出来る範囲が決まっているとかか。俺とリヒトの違いとしてありそうなのは魂とか……いや、今はそれはどうでもいい。


「お前に質問をする。死ぬか服従か、どちらを選びたい。もちろん、服従を選ぶのであればそれなりの幸せを与えてやるが」


 意味を理解しているとは思ってはいない。

 だけど、わざわざ口にする事によって従魔にできる可能性が高まるのならやっておく。戦って強いと感じはしないが召喚士として生きていくのなら表向きに出せる従魔はいた方がいいからな。まさか、メイジーやアリスが従魔だとは言えないし。


 いや、その点で言えばオーガなんて上位の魔物を出せるわけも無いか。後々でゴブリンを十や二十程度だけでいいから仲間に加えておこう。ただの魔物であればメイジー達に任せられない雑な仕事も任せられるからな。


「……呆気ないな。前世の俺がアレ程、苦労していた従魔を簡単に手に入れられるなんて」


 服従にも条件とかがあったか。

 やっぱり、可能性が高いのは魂側の問題、例えば転生して本来の従魔が解放できるようになった事で、服従自体が通常と同じように行えるようになったとかも有り得そうだな。考えれば理由なんて幾らでも思い付きそうではあるが……。


「とはいえ、服従してくれた事に感謝する。ある程度の強さを持つ魔物は欲しかったんだ。これからは俺の技術を鍛えるための練習として活躍してもらいたい」

『……ワカッタ』

「そんなに悲しそうな顔をするな。俺の従魔になったからには他の従魔達と肩を並べられる程の強さにしてやる。お前は……いや、お前だと可哀想か」


 お前お前と呼ぶなんて後で困りそうだし。

 名は体をあらわすとも言うから……できれば、勇猛果敢な名前が良い。それでいて俺を裏切らなさそうな名前にしたい……ともなれば戦国武将あたりから取るのが良さそうか。そこら辺で言うと……。




「ユキムラ、今日からユキムラと呼ぶ事にする。そしてユキムラには俺が強くなるための一つの要素となってもらいたい」

『オマエガ……ソレヨリモツヨク……?』

「目指す高みはより上の方が良いだろ。……と、詳しい話は後だ。その傷だと遅かれ早かれ死んでしまうからな。俺の中に戻って傷を癒していてくれ」


 武器がどうとかの手抜きはあったが出せるだけの力を使って戦ったのは事実だ。ステータスに差があるとはいえ、得物の差とかは確実に大きいからな。慣れていないロングソードでオーガと戦えたという事実だけで多少は安心出来る。


 後は召喚士の能力も試しておきたい。

 メイジー程の強さとなれば傷を負う機会が無いからな。魂の中に戻したとして時間経過で癒えるかとかの確認ができていない。それと召喚の際に童話召喚との違いがあるのかも見たいし。まぁ、一番の理由はそこではないけど……そこら辺は目の前の問題を解決してからか。


「さてと……盗み聞きは程々にした方が良いんじゃないか。やり過ぎると悪趣味だと嫌われるぞ」

「マスター、話しかけていいのー?」

「ああ、今の俺がオーガと戦えると知られるのは得策では無いからな。むしろ、捕らえてしまいたいところだが」

「分かったの!」


 アリスが笑顔で了承の言葉を口にしたかと思うと周囲が闇に満ちた。光などは少しも無い、それでも視界が取れているのはアリスが従魔として加わっているからだろう。そしてアリスが使用しているのは黒魔法と呼ばれる魔族が得意とする魔法。


 その中で現れたのは三十はある黒い蔦。

 それらが一気に伸びたかと思うと少し経ってから伸び切って縮まっていく。その先にいたのは四人の男達だった。探知で確認できていたのも同じく四人だったから全員を捕らえてくれたらしい。だが、それで油断するつもりも無いな。


「おい! これは何だ!」

「分からねぇ! だけど!」

「ヤベェって! これマジでヤバい奴!」

「ああ! 早く逃げねぇと!」


 地面に叩き付けられても尚、そうやってうるさく出来るのは本当にすごいよ。耐久面だけで言えば悪くは無いのかもしれない。……ただ、オーガのような威圧感は彼等から感じられない。


「助かるよ。逃げられたら面倒だったからさ」

「この程度なら造作もないのー」

「チッ……殺せだったら私にもできたのに……」

「適材適所、できない事はできる人に任せればいいんだよ。メイジーには他の部分で助けて貰っているからできない事に首を突っ込む必要は無いさ」


 できる事まで他の人に頼む気は無い。

 その代わりできない事を他の人に頼む気もないからな。できるようになりそうなら頼みはするかもしれないけど……今回は良い意味で頼んでもいないのにアリスが動いてくれただけだ。そもそも、できないのなら逃がすつもりでいた。


 ずっとコイツらは俺達をつけていたんだ。

 となると、誰かに雇われた冒険者や暗殺者などと考えた方がいい。それなら雇う側に関しても多少は思い当たる節があるし、雇えるとなれば金銭面に関しても問題は無いはず。そこら辺で情報が漏洩されるとも思ってはいなかった。ただ、その考えも良い意味で裏切られたわけだけど。


「さてさて、どうしてここにいたのかな」

「はっ! そんなの言うわけが!」

「あっそ」


 思いっ切り顔面を蹴り上げてやる。

 口を割らないのなら口を割るまで痛め付けてやるだけの事。蹴る時に多少は躊躇する気持ちが湧くかと思ったが意外と何も思わなかったからな。今の感情の揺れからして確かに俺は人族では無かったのかもしれないな。……であれば、躊躇はしない。


 人の心から来る躊躇は願望の妨げになる。

 通りたい道があるとして石があるのならどうするか。その時に俺は排除するのが一番に良い方法だと思っている。それはなぜか、簡単な話だ。もしも、俺の友達が道を通ろうとして目の前の石に気が付かず躓いたらどうする。それが嫌なだけだ。


「ガッ……!」

「早く吐いた方がいいよ。苦しみたくはないでしょ。それに目的くらいなら契約とかには引っかからないって。後、吐かないと俺よりも怖い女の子に全てを頼む事になるよ」

「吐かせてやるのー!」


 闇のせいで顔は見えないだろう……だけど、自分達の生殺与奪の権利を俺達が握っている事は分かっているはずだ。だから、逃げ道として契約という言葉を出しておいた。男達の雇い主が上位の立場にいるとしたら契約違反の罰則は作っているはずだからな。


 契約はかなり行動を制限させられて使い勝手の良いスキルだが……如何せん、コチラにはそれ以上に勝手の良い魔法があるんだ。それらを駆使すれば簡単に契約不履行など無視できる。


「か、顔を隠した男に頼まれたからだ。リヒトと呼ばれる子供の監視をしろ、とな」

「なるほど……で、どこから見ていた」

「そ、そこの女がオーガを殺し回っていたところからだ。も、もちろん、望むのなら偽の情報を流す事だってできる!」

「へぇ、それができる相手って事か」


 俺と話をしていた男が首を横に振った。

 うん、だと思っていたよ。わざわざ、顔を隠して接触してくるような人間だ。しかも、俺の調査とかいうピンポイントな依頼をしてくるあたり、思い当たるのは二人しかいない。どちらを取っても感覚からして早いとは思うが……それでも有り得そうなのは前者の方か。


「お、恐らく相手は貴族の従者だ。前金の多さと俺達の事を詳しく知っている当たり、普通の男ってわけでは決して無い」

「ふーん、君達の事ってどういう事?」

「俺達はCランク冒険者パーティー『野兎』という。今までだって金さえ貰えれば何でもしてきた。殺しも頼まれれば金次第では幾らでもしてきたからな」

「受けた事のある依頼を詳しく話されたって事か。……だったら、偽装なんて無理じゃないの」


 そう口にした途端に男達の口元が歪んだ。

 正直に話してくれるのは嬉しいが余計に生かしておく理由なんてなくなるんだよな。それに生かしたところで何か得になる事も無いだろうし……どちらかというとリスクの方が大き過ぎる。それならば、そうだな……。




_______________________

少しネタバレですが……次回『リヒトVS野兎』。

ステータスでは勝つ事ができない冒険者パーティを相手にリヒトは練習するために戦いを挑む。その先に待つのは何なのか……お楽しみに!


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