第14話

「マスターに仇なすゲスめ! 死ね! 死ね!」

「あーあ、ヒートアップしちゃったのー」

「アリスの予想通り、だな……」


 アレから魔物との戦闘に入ったが……。

 予想通りというか、格上であるオーガと戦うために中部に入った途端にメイジーが狂気に満ちた。いや、最初は剣で流したり躱したり……その練習をしていたんだよ。オークよりも素早く一撃が重い相手となればオーガが丁度良かったからさ。


 だけど……数回、剣で流していただけでメイジーが『マスターの御身に傷が付くなんて耐えられません』とか言って心器を撃ち始めたんだ。しかも、一発で殺し切ってしまうから本当にタチが悪い。


 それに……何が接近戦は苦手だよ。

 普通に心器でオーガを真っ二つにしているんだけど。狙撃銃という刃とかは一切、無い得物で切っているというのに両断するとかどれだけの魔力を使っているんだ。仮に俺がメイジーの心器を使って斬ろうとしたら半端な量だと殴打にしかならないぞ。


「……今ので三十体目だな」

「うーん、やっぱり、実践の練習にはならないと思うの。マスターの強さからしてオーガが実践の練習相手としてちょうどいいのに……」

「メイジーを戻した方が早いか」


 アリスは首を横に振って否定した。

 そうだよな、俺もしたところで意味が無いと思っていた。今だって暴走しているメイジーだ、戻したとして暴走し続けたままで何をしでかすかなんて想像もつかない。


「戻してもすぐに現れて暴れ始めるの。その時に止められなくなってしまうと……アリスでも命を賭ける必要があるの」

「なら……少しだけ荒療治と行くか」

「な、何をするつもりなの!」


 何ってメイジーからしたらやりたくない事だ。

 俺と対立的な状況に持ち込む。オーガを殺して走り始めたメイジーの前に立って敵と認識させる。そこから攻撃がすぐに来るだろうが……大丈夫、接近戦を意識しているせいで今のメイジーが持つ得物は二丁拳銃だからな。その弾速なら……どうにか、って!


「おいおい、止まれよ」

「マス、ター……?」

「今し方、吹き飛ばされたばかりでみっともない姿を晒してはいるが、確かにマスターではあるよ」


 銃弾は想定通り流す事はできた。

 問題はその後の心器での一振だ。すぐに心器を入れ替えて狙撃銃のフォルムでガードを取ったから大事には至らなかった。まぁ、その後に蹴りを入れられたせいで思いっ切り木に叩き付けられたけどな。


「も、申し訳ありません! 私とした事がマスターに刃を向けてしまうなんて!」

「刃というか、銃弾と蹴りもあったけどな。銃弾を流せたと思ったら追撃されるとか……本当に強過ぎるだろ」

「い、いえ! 私などマスターの足元にも!」

「謙遜はしなくていいよ。俺の嫁となった今、それがとても誇らしいんだ。素直な賛辞は受け取って欲しいんだけどな。そう、嫁として」


 実際、間髪入れずに二手、三手と先の手を考えて動いているのはさすがだ。そこに関しては本当に誇らしいと思うし、そんな人が俺にゾッコンなのは真面目に両手を叩きたい程に喜ばしい事ではある。


「嫁……はい! マスターの嫁として強くありたいと思います!」

「うん、それと同様に暴走しないようにね。周囲にいたオーガが殆ど倒されてしまったからさ。嫁が夫の邪魔をするのはどうなのかな」

「それは……マスターが傷付くのが見ていられなくて……」

「傷付かないために戦うんだろ。将来的にはお嫁さんを自分の手で守るために強くなるんだ。多少の傷は誇りだと思いたいけどね」


 ここまで言って暴走するのなら次は他の手を考えさせてもらう。例えばアリスと二人での行動とかかな。アリスとのデートのため、とかって言い訳を作れば否定はしてこないはずだ。


「いいかい、次もメイジーの攻撃を対処できるとは言い切れないんだ。もしかして、メイジーは俺やアリスを殺したいのかな」

「そんなわけがありません!」

「なら、冷静でいられるように精進してくれ。その暴走癖が続くようであれば行動を共にする時間が減るだろうし、最悪は敵対関係に陥る可能性もある。そんなのはメイジーにとっても嫌だろう」


 メイジーは静かに首を縦に振った。

 そうだよな、結婚できるって言われて喜ぶような存在が一緒にいたくないわけが無い。その好意を利用するのは少し申し訳なく思ってしまうが、それでも悪癖は悪癖だから治せるなら早めに治しておきたいんだよな。


 暴走してアリスでも止めるのが難しいとなれば俺が行くしかなくなってしまう。その時に死んでしまったらメイジーは確実に悔やみ続けるよな。もしかしたらアリスに責め立てられる可能性だってあるんだ。


「って事で、多少は練習させてくれ。危険かどうかの判断はメイジーではなくアリスに任せる。アリスが危険と言った時だけ助けてくれればいい」

「……分かりました」

「まぁ、見ていてくれよ。確かに素人レベルの戦い方しかできないが多少は戦えるはずだからさ」


 ここまで言って駄目ならさすがに戻す。

 誰かさんの一撃を受けたせいで軽いダメージはあるがオーガの一撃をモロに食らうよりは安く済んだからな。そう考えると自己回復力という面では才能があるのか。それとも痛みに対して強い耐性があるとかも……うん、後者の方がありえそうだ。


 この体は虐められていた子供のものだからな。

 そこで痛みや殴打に対する耐性があってもおかしくは無いだろう。いや、そういうスキルがあったわけではないから違うのか。仮にスキル以外で近しい能力があるのかもしれない……まぁ、今はどうでもいい話か。


「それに」

「ギィアァァァ!」

「おかげさまで一対一で戦える」


 メイジーのおかげで中部にいる数は数体まで減らしてもらえた。深部までいけば百や二百はいるだろうが群れをなすような存在だ。戦闘に慣れていない状況で数的優位を奪われない時点でとてもありがたい。


「メイジーとアリスは周囲の警戒。戦闘の邪魔になり得そうな者は徹底的に排除しろ。ただし、邪魔をしなさそうであれば無視でいい」

「了解しました」

「分かったの」


 ここは視界の悪い森の中。

 まぁ、強襲なんて簡単に行えるだろうな。オーガ程度なら大して知能も無いが深部にはより強い魔物だっている。探知できないレベルの強さを持つ魔物が近付いてきていたとしたら……そこは二人の出番になるだろうな。


「ギィィィ!」

「悪いな、無視をする気は無かったんだ」


 突っ込んできたが横に飛んで躱した。

 やはり、速度においては負けている……だが、それでも所詮はゴブリンの進化種。個体によってはより速度の遅いオークから進化したものだっているだろう。コイツは……どちらでもいいか。


「体勢の整えに十四秒、突撃はかなり大きな隙ができるみたいだな」

「ギィ!」

「ああ、そっちの方がいいと思うよ。折角の剣が置物になってしまっている」


 リスクの大きい突撃は無意味だ。

 そこを考えないのは魔物の知能の低さが原因だろうが、それ以外では脅威に思える部分は多くある。刃渡りからして七十センチはある長物を軽く振り続けられる体力……とはいえ、振る速度も大して早くは無いところからして避ける事も難しくは無い。


 アレ……これでBランクってどうしてだ?

 ランクからして上位の魔物なのに負ける要素が見当たらない。一撃は……やはり、重いか。攻撃力の高さからして受けに回るような盾役だと高ランクに位置している意味も分かるな。ただ……。


「不思議と体が動くんだよな。あーすれば、こーすればと次の一手のための行動が頭に浮かぶ前に動いてくれる」

「ギィ……?」

「ああ、こっちの話だ」


 流す技術と躱すタイミング、その両方は俺が測って行ってはいない。頭がこうしなければいけないと感じる前に体が動いている……それらを踏まえるとランクでの差を感じないのはそこか。いや、単純に武器による相性の差もあるかもしれない。


 これも俺の魂が戦い方を覚えているから……。

 となれば、考えるべきは俺が行う動きをよく理解する事、そこが技術を鍛える上で次に繋がる一手だろうか。構えからしてオーガの次の攻撃は縦振りによる一撃、躱すためなら横に飛べばいい……いや、そうはしなかったな。


「ギィ……!」

「ガラ空きだ」


 頭と肩に剣を付け、敵の攻撃を流してから蹴りを入れる。そこから剣を背後から斜め上へとめがけて斬り付ければ簡単に高いダメージを出せるな。うんうん、これは確かに簡単に……できるわけねぇだろうが。いや、仮に思い浮かんでいたとしてもやらねぇ。


 リスクがデカい分だけリターンも大きい択。

 そんなの弱い俺なら絶対に取りたくない選択だ。やるのであれば安全択、とはいえ、ステータスで大きく負けている相手となれば安全択で勝ち切れる程の優しさは無い。ジャイアントキリングしたいからこそ、技術で解決できる択は取るべき……。


 はぁ、そこら辺は俺の魂と俺の技術が重なり合ってからだな。どのような理由があるにしても今の動きで分かったが……確かに俺の体は普通の人とは違うようだ。日本人なのになぜ……ああ、そういう事は分からないうちに考えるべきでは無いか。




_______________________

かなり長い期間が空きましたが軽く先の話を書けましたので投稿再開です。恐らく二十話程度までは短い投稿頻度で出せると思います。


次回、不穏な影が迫る。

いつもと同じ言葉を繰り返しますが……面白いと思っていただければフォローや☆レビューのほど、よろしくお願いします。閲覧数とかも伸びると嬉しいので是非!

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