第7話
「起きてー。起きて欲しいのー」
軽く頭を撫でられる。でも、この柔らかさからはまだ離れたくない。それに陽射しだってそこまで強くないんだ。もう少しだけ、ゆっくりと惰眠を貪らせて……。
「起きないと朝食が食べられないのー。準備の時間も含めたらギリギリなのー」
「ああ……そっか、ごめん」
少しだけ焦っているような感じがする。
ここはさっさと起きてメイジーの不安を消してあげないといけないよな。それがマスターとしての彼女に見せられる態度というものだ。眠いけど目を擦ってメイジーの膝から頭を上げて……。
「はあぁぁぁ……というか、メイジー。アレだけ言ったのにずっと膝枕をしていてくれ……え、誰……?」
「おはようございますー。マスター」
「うん、おはよう」
えっと……どこからどう見てもメイジーではないよね。着ているのは白いゴスロリ服かな。大きな青い垂れ目に金色の肩までしかない短髪……例えるなら不思議の国のアリスみたいな感じだな。
「どうして、ここにいるのかな」
「夜遅くに召喚されちゃったからなのー。起こそうかと思ったけどマスター、お疲れ気味だったからアリスが膝枕していたのー」
はい、本当に童話のアリスでしたっと。
にしても、メイジーと同じで良い子そうで本当に助かったよ。……何で召喚されたとか、寝ている間にレベルが上がっている事とかは後でメイジーに聞いておくか。よくよく見たら俺の横で寝ていたから夜中に何かしていたんだろう。
「……詳しい話は後で聞くよ。俺は朝食を取っているからアリスはすやすや寝ているメイジーを守っていてくれないかな」
「うんー、任せて欲しいのー!」
「はは、頼りにしているよ」
全ステータスが三百五十も増加していた。
二百程がメイジーだとすればアリスが残りの百五十くらいだろう。召喚士のステータス補正は従魔のステータスの十分の一だったはずだから……軽く見積っても千五百程度のステータスがあるという事。
「お、今日は食い付きがいいな!」
「よく寝た後の食事が美味しくないわけないじゃないですか。さすがアンさんの作る朝食ですよ」
「ほ、褒めても何も出ねぇよ!」
うんうん、今日の朝食は本当に美味しいな。
少しだけメイジーに文句を言いたいけど、おかげでレベルが十八まで上がっているからね。俺のためにって言って動いているのがよく分かるから責めるのだけはやめておこう。実際、助かっているわけだし。
今日も卵焼きが二欠片多かったな。
やはり、寮母は褒め言葉に弱い、と。これからも心の底から褒めてサービスをしてもらおう。寮母が作ってくれる食事はどれも美味しいからね。増やしてもらって損は少しもない。
「ただいま」
「おかえりなのー」
「お、お帰りなさい。あの、私」
「ああ、起きていたんだね。別に怒らないからギリギリまで寝ていても良いんだよ」
ジャパニーズ土下座、そこまでする程か。
アレなのかな、過去の俺ってそんなに心が狭くて怖い人だったのかね。いや、確かに三メートルは身長があるって言っていたし、見た目で恐怖を抱いていたとしてもおかしくはないけどさ。
「ほらー、マスターもそう言っているんだから寝るのー。メイジー、そんなに寝ていないってアリスは知っているのー」
「それは……ですが、マスターと一緒にいられるとなれば話は別です!」
「はいはい、なら、メイジーはアリスと一緒に俺の中で休んでいてくれ。どちらにせよ、登校するとなればメイジーやアリスは連れて行けないからな」
え、アリスも嫌そうな顔をした、なぜ?
普通に考えて美少女を連れて登校できるわけもないだろう。ましてや、三日間も学校を空けたような男だ。変に絡まれないとは言えないし、確実に昨日の今日でギビルは絡んでくるだろう。だったら、俺一人の方が確実に動きやすいから楽だ。
「アリスは詳しく知らないし、メイジーは絡まれたら殺そうとするだろ。だから、学校にいる時は一人でいるって言っているの」
「で、ですが! マスターにもしもの事があった時には!」
「その時には事前に召喚しておくよ。もし、俺が気が付いていないのなら勝手に出てきてもいい。ただ、それ以外の時は一人でいる」
二人のおかげで足も速くなったからな。
最悪は走って逃げる。駄目なら召喚するができるようになった今、下手にリスクを取って動く気にはならない。学校が終わってからなら幾らでも自由に動けるようになるし。
「いいかい、これは命令。それが聞けないのなら無理やり俺の中に入れるだけだけど……それはさすがに嫌だろ」
「別にアリスは休めるのならそれでいいのー。でも、マスターが危なかったら絶対に呼んで欲しいのー。ソイツらに死を願わせる程の恐怖を与えてやるのー」
「はは、それは心強いよ。だけど、程々にね」
「程々に死を願わせてやるのー」
うん、この子もメイジーと同じだね。
多分だけどメイジーが人を殺そうとしても止めたりはしないと思う。まだ俺が言ったら止まりそうな感じがするだけマシだが……童話召喚で出てくる従魔は全員、過激な考えでもしているのかね。
「わ、私は……アリスに任せて休みます。今日の夜も少しだけやりたい事がありますから」
「分かったよ。ただ、無茶だけはしないでね」
「と、当然です! この体は全てマスターに捧げる供物です! それを私如きの愚考によって穢すつもりなど到底ありません!」
え、メイジーも考えが変わったの。
ここまでマスター命みたいな感じだったっけ。それとも本当はそんな感じだったけど、心器を出せるまでは完璧に信用し切れなかったとか……いやいや、一つだけ悩み事が増えたんだけどどうしようか。ここは一つ、しっかりと言っておくべき必要があるのかな。
「嬉しい話だけどメイジーの体はメイジーのものだよ。単純に死んで欲しくないから無茶をして欲しくないってだけさ。まぁ、俺の考える無茶はメイジーからしたら大した事が無いんだろうけど」
「そ、そんなわけがありません! ですが! 何と言われようと私は私を供物として捧げます! それが従魔として! いえ! 嫁としての矜恃です!」
「違うよ! ちょっと変な思想になってきているからやめて!」
だから、亭主関白かって!
というか、それよりも酷い関係になっているし。昨日までは助け合いの精神みたいな事を言っていたのに、一夜のうちに何があったんだ。もしかしてアリスの影響とか……は、さすがに無いな。となれば、メイジーの言うやりたい事が何か関係しているとかか。
「俺が築きたいのは奴隷と主みたいな関係じゃないの。従魔として命令は聞いてもらうけど、それは強制なんかじゃない」
「分かっています。ですが、その一段階、上となった嫁であれば」
「嫁なら尚更だろ。従魔と主の関係は上下関係のもとで成り立つけど、夫婦ともなれば助け合いの精神が全てを解決する世界だ。例え、メイジーがどれだけ万能だとしても全てを任せるのは絶対にしたくない」
というか、ダダ甘やかしは確実に俺の精神を壊す事になる。仮に今できる事をメイジーにやってもらったとして、それが少しづつ侵食した暁には全てを任せてしまうだろう。その時に現場に復帰しようとした俺は何ができる。
「で、ですが……私はマスターに楽を……!」
「メイジーが全てをしてしまうと俺の評価が下がってしまう事になるぞ。ほら、あの家の旦那さんは奥さんに全てを任せっきりらしくて、みたいにな」
「そんな話をする家を潰せばいいだけです!」
いや……発想と発言が過激過ぎなのよ。
尚更、任せっきりにしないようにしようって帯を締められたけどね。だって、メイジーなら本当にやりそうな事だし……あれ、最近お隣さんを見ていないけどどうかしたのかなって聞くの怖いよ。
「それを俺が望むと思って言っているのか」
「……いえ、すみませんでした。……ワガママが過ぎました」
「うん……俺は夫婦の関係って持ちつ持たれつが永遠に続くと思っているんだ。だから、俺ができる事は自分でやりたいかな。二人で仕事を分け合えば一緒にいられる時間もそれだけ増えるだろ」
「な……それは盲点でした! さすがです!」
良かった……ってか、それでいいんだ。
押して駄目なら引いてみろ……いや、押しても引いてもいないんだけどさ。ただ、こういうところを突けばメイジーが納得するっていうポイントは見付けられたな。良心を利用するようで悪いけど今後はそういう部分を使おう。
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