第5話
「ふぅ、遅くなってごめんね」
「いえ、知人との談話を邪魔する程、無粋な女ではありませんから。将来の嫁として多少の矜恃は持っているつもりです」
「あー……ウン、アリガトウ」
頬を赤くしながら言う事じゃないね。
少しだけ怖くなってきたぞ。もしかして、他の従魔達もメイジーのような性格って事は無いよな。いや、好意は一種の忠誠心とも捉えられるから敵にならないと思えば気は楽か。でもさ……夜が怖いよ。絶対に同じベッドで寝ないようにしよう。
「それでは私達の愛の巣へと向かいましょう」
「うん、リヒトの住んでいた寮だね。俺達の愛の巣では決して無いよ」
「そうですよね、私達の愛の巣に変な輩も暮らしているなんて許していい事ではありませんもの」
何を言っても無意味だろうから無視しよ。
先に帰って……って、イヤンイヤンしながら横を歩くのは本当にやめて欲しいな。このまま路地裏から出たら確実に色々な人達から見られる事になる。えっと、俺に対して強い好意があるのなら話を聞かせるためには……。
「そこら辺は俺がメイジーについて詳しく知ってからだな。もしも、俺がメイジーを詳しく知って好きになった時に、メイジーも変わらずに俺が好きだったら愛の巣だって作るよ」
「……はい! 不変の愛を誓いましょう!」
「だから、気が早いって……」
軽く頭を撫でて本心を伝えてみる。
嫌いな奴から頭を撫でられたとしても良い気持ちにはならないだろうが、言葉通りの好意を抱いてくれているのなら気分は格別だろうな。とりあえず、腕を組んでくるまででやめてくれるようになったから良しとしようか。
「なに、あの子……」
「なんだよ……すげぇ可愛い……」
「隣のガキと付き合ってんのか……?」
うん、やっぱり、良い目は向けられないか。
メイジーには下卑た視線を、俺には敵対的な視線を向けてきている。一先ず、隣にいるメイジーに「気にしたら駄目だよ」と言って笑顔を向けておく。こうしないと敵対的な人を攻撃しかねないからな。
「な、なぁ、そこの子! 俺達と一緒に!」
「私に話しかけるな。殺すぞ」
「ひっ……!」
お、おう……止めておいて正解だった。
今の威圧、俺が止めてなかったら確実に殺していただろ。そう言えば見た目は可愛い女の子だとはいえ、従魔の扱いを受けているような存在だし、説明だって狼を狩り続けるような強さもあるんだよな。敵対的な存在には……。
「メイジー、俺は目立ちたくないんだ。これからは無視で頼む」
「はい……ですが、今ので殆どの馬鹿共は来る事を諦めたようですよ」
「他の奴らに目をつけられかねないだろ。弱い奴らではなく強い奴らがメイジーを奪いに来かねない」
メイジーは強いとはいえ、上には上がいる。
ソイツらが良い人とは言い切れないだろうし、メイジーの可愛らしさから奪おうってかんがえにならないとも言い切れない。メイジーの強さは目立たせるつもりだけど、それは今回のようなやり方では無いな。
「それは……私を奪われたくないという意味でよろしいですか」
「それ以外に意味があると思うか。メイジーがいなくなれば俺は何も出来ない雑魚になってしまうからな。それに自分に好意を抱いてくれる女の子を他の奴らに渡す気もない」
「それだけ聞ければ十分です。もう、好感度がググーンと伸びますよ。それはもう鰻登りです」
冗談っぽく言うのは照れ隠しかな。
はぁ……早く強くならないといけないね。まずは戦力強化のために二人目の解放、それに伴ってレベル上げか。召喚士のレベルは九に、俺のレベルは十一まで上がっているから……十辺りで解放されそうな気がするんだよな。
「はぁ……確実に怒られるだろうな」
「怒ってくるような人がいれば私がどうにかしますので気にする必要はありませんよ」
「頼むから敵対的な行動は取るなよ。メイジーは飽くまでも共に魔物から逃げてきた放浪者、それで身分の証明をするために俺の使用人となった存在でしかない」
詳しい事は戦闘訓練の間に伝えたから大丈夫だと信じたいけど……まぁ、一番に悪いのはリヒトを虐め倒して殺した奴らだからな。それの責任を俺が背負う事自体が普通では無いというのに。
「さてと、このまま」
「おい、お前!」
「怒られないといいな。さすがに三日間も空けてしまったら事情の一つや二つは聞かれてしまいそうだよ」
まずは寮まで行って入口の受け付けら辺にいる寮母さんと話をしないとね。まぁ、あの人自体は悪い人では無いしリヒトの状態については理解しているからアイツの話さえ出せば多少は納得してくれるだろう。では……。
「おい、無視するとはいい度胸じゃねぇか!」
「ああ、私に話しかけていたのですね。お前という名前では無かったので自分だとは思ってもいませんでしたよ」
「お前はお前でしかないだろ。それとも無能野郎って呼んだ方が良かったか」
首筋に剣を当てるとか阿呆なのかよ。
現にメイジーが動きそうになっているし……本当に運が悪いなぁ……こんなところで出会うなんて最悪な気分だよ。それとも出会っておく方が良い事に繋がったりするのか。そうじゃないと幸運が高い事の説明がつかない。
「街の中での殺人は禁止されていますよ。それとも二度目の殺人を行いたいのですか、ギビル・ヴァルトロさん」
「はっ、それも悪くないかもな。今度こそ、お前の首を落としてやるよ」
「よく言えたものですね。魔法を打ち込み続けて殺してしまったかと思って錯乱するような、そんな小物の言葉だとは到底、思えませんよ」
というか、こういう口調な時点で少しも疑ったりしないのかよ。普通は明らか十歳の話し方では無い時点で本当のリヒトか勘繰ると思ったんだけどなぁ。コイツの頭の悪さを理解していなかった俺の責任だ。
「この方がマスターの御学友なのですね」
「冗談でも御学友なんて言葉は使わないで欲しいよ。ギビルさんは俺を下に見たいがために虐める存在でしかない」
「であれば、殺しましょうか」
「な、貴様! 子爵家の次男に対して殺すなど!」
はぁ、遂に気が付いてしまったのか……。
いきなり目が下衆なものに変わった。メイジーの顔を見た瞬間だから一気に下卑た考えが頭を過ぎったんだろうな。本当は適当にはぐらかして逃げるつもりだったというのに……。
「おや……おい、無能野郎。気が変わった」
「渡さねぇよ、ゴミ野郎」
それ以上の言葉は続けさせる気も無い。
本音を言えば殺してしまいたいが……面倒事にならないのであれば目立たないようにしたい。仮に殺すとすれば動く事よりも動かない方が面倒事になりやすいと判断した場合のみだ。だから、今は本気で殴り飛ばすだけで我慢してやるよ。
「リヒト……てめぇ!」
「剣を抜いて殺しに来た奴を殴って何が悪いって言うんだ。殺さないだけ感謝して欲しいけどな」
「な……クソがァッッッ!」
今の感覚からして俺のステータスよりもギビルは弱い。俺がメイジーの補正込みで二百五十だから感覚的にギビルは百五十くらいか。年齢の割には高いだろうが仮に剣を持っていたとしても俺には……。
「お前如きがマスターに近付くな」
「ぷげっ……!」
「殺しは許されていませんので半殺しで済ませてあげますよ。マスターの寛大なお心に感謝して考えを改める事ですね」
メイジーが顔面をぶん殴ってしまった。
いや……俺でも目で追えなかったぞ。しかも、一撃で顔面がグチャグチャのノックアウト状態にさせるとか怖過ぎだろ。嬉しいけどさ、確実に面倒事に巻き込まれてしまいそうだ。
待てよ、逆に考えるんだ。
俺はギビルに虐められていた、それは周知の事実とも言える話。いきなり俺がギビルをぶっ飛ばしたと聞いて信じる人はどれだけいる。もっと言えばプライドの高いコイツが他の人に助けを求めたりするのか。
「何で一人だったのかは知らないけど直にお付きの人でも来るだろ。それまで痛みに耐えながら自分のしてきた事を悔やむんだな」
「では、さようなら。本物の無能君」
おおう、それは確実に効くだろ。
なんというか、メイジーは煽りも上手いんだな。あまり表立って戦うつもりは無いけど影で戦う事はあるだろう。その時にカッコ付けて煽れるようにしないとね。「ふん、その程度か」とか言ってみたいよ。
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