第2話 上杉景勝

 弘治元年(1555年)11月27日に生まれ、元和9年(1623年)3月20日に死去。享年69歳。幼名を卯松といった。彼は上杉輝虎の異母姉の綾(この時期は出家していたので仙洞院)とその夫、長尾政景の次男だ。長男は早世したらしくすぐに彼が跡継ぎとして育てられている。長尾政景が1564年に不運の死を遂げるとまだ指揮を取るには幼い卯松を上杉輝虎は姉である綾とその子供たちを引き取ったそうだ。



 わたしが産まれるまでは卯松、元服し、名を改めた長尾顕景は上杉輝虎の後継者、第1候補だったそうだ。ただ、わたしが生まれたことによりちょっとズレたがわたしに誰か婿入れをすれば簡単に上杉家を乗っ取ることが出来る。これを危惧した上杉謙信の姉の綾はわたしと長尾顕景を婚約することで顕景が正式な上杉謙信の後継者であることを家臣らに知らしめたのだ。上杉謙信の後継者として養子入りした長尾顕景が上杉景勝に改名したのは私が生まれてわずか1年にも満たなかった1567年のことである。そのため、改名した時期は史実より数年ほど早い。



 顕景こそが後継者である。この事実は今後も影響してくると考えられた。この婚約をする上での利点は上田長尾家と山内上杉家との結び付きが強くなることだ。元々上杉輝虎の姉の綾が上田長尾家の当主、長尾政景の婚姻により強かったが当の長尾政景が亡くなると縁が薄くなってしまったそこで上杉輝虎の娘であるわたしと長尾政景の嫡男の顕景が結ばれることによりより強固になる。それにあの悲劇の戦い、御館の乱がなくなるかもしれない。いや、これに関してはなんとも言えないけど……とにかく色々と変化があるというわけだ。



 わたしはまだ数えで1つにも満たなかった。そんな歳で婚姻するにはまだ幼さすぎるので許嫁という形だ。わたしが数えで14か15になる頃に正式に婚姻をするそうだ。



「虎姫様はまたここにいたのですか」



「うん。ちちうえにごほんをよんでもらってるの。というかわたしのおっとになるんだしけいしょうとけいごはいらないよ。きへいじ」



「そういうわけにはいきませんよ」



「わたしだってよびすてでけいごなしなのに?」



「う、それは……わかったよ。虎」



「やった。ありがとう。きへいじ」



 わたしは喜平次の様子を見て思わずはにかんだ。へへ。それでいいのだよ。喜平次に抱きつきに行こうとしたら首根っこを掴まれた。それが誰かと言うと父上だ。



「こほんっ。仲良いのはいい事だが、して、喜平次ここに来た要件は?」



「ああ、実はですね、景家殿がお呼びですよ」



「景家がか?わかった。直ぐに向かおう。……悪いな。虎。続きはまた今度になりそうだ」



「いえ。ちちうえのやくわりはこまっているひとをたすけることなのです。ほんなどいつでもよめますよ」



「そうか。虎はいい子じゃな……喜平次、ここで虎と一緒にいておいてくれぬか?」



「わかりました」



 父上が部屋から出ると喜平次とわたしの2人っきりになった。喜平次とわたしはだいたい10歳差だ。現代からすれば、結構歳が離れているが、史実で景勝の正室の武田信玄の娘の菊とはわたしたち以上に離れていたというのだからまだマシだと思う。



「きへいじはさいきんなにかよんていたりするの?」



「最近は三国志を読んでいるよ」



「さんごくし?」



「ああ。遠い昔この日ノ本の隣の国、唐の国にあった出来後を物語風にまとめた書だよ。読んでみるか?」



 知っていますとも。高校では世界史選択をしたので人よりかは詳しい方だ。



「よみたい!」



「わかった。じゃあ、今度持ってくるよ」



 わたしが年相応に無邪気に話しかけると喜平次は微かにだが口角が上がっているように思えた。わたしとの会話が楽しいって思っててくれてるのかな?



「景勝様……あ、虎姫様とご一緒でしたか」



「構わぬぞ。与六」



「わたしももんだいはないよ。よろく」



「ありがとうございます」



 喜平次とお話をしていると突然部屋に入ってきたのは喜平次の子飼いの与六こと後の直江兼続だ。彼と喜平次繋がりで仲良くさせてもらっている。そのため父上はわたしにも彼を子飼いとしてつけたそうだ。まあ、基本的には喜平次の方が大変そうなのでそっち優先してもらっている。暇そうなら時々遊び相手にもなってもらっている。



「それで与六は何の用だ?」



「あ、はい。実は景勝様のことを御館様がお呼びです」



「叔父上が?わかった。今行く。……虎、お前は母上のところに行くか?」



「うん。おばうえのところにむかう」



「わかった。与六、虎を連れて行ってくれぬか?」



「は。かしこまりました」



 わたしの伯母上というのはさっき話した上杉謙信の姉の綾のことだ。

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