第4話 雪遊び

 雪国に来て1番やりたいことといえばこれだよね!雪だるま作り!雪だるまは主に2段(もしくは3段)に雪を丸めた物にバケツやらマフラーやら鼻には人参、目玉代わりの豆、手の代わりの木の枝などのことを指す。



「これぐらいですか?虎姫様!」



「よろく、もうすこしおおきめに!よいしよっと……」



 わたしも与六とともに雪だるまの顔部分となる物を作った。



「わかりました!というかユキダルマってなんなんですか?」



 あれ?まだこの時代に雪だるまって存在してなかったっけ?



「わたしのからだはんぶんくらいのおおきさのゆきだまをたてにつんでかおをかいてあげるの!」



「なるほど……姫様、これくらいで問題ないですか?」



「もんだいないよ!よろくのほうもじゅうぶんなおおきさだし、そろそろいいんじゃないかな?」



 繁長が作った玉に与六の玉を載せてそこら辺の木の棒を真っ二つに刀で切ってもらって雪玉に刺して、マフラーや手袋は流石にこの時代には無いので清姉上や桃姉上に頼んで持ってきてもらった布の切れ端で代用した。そして雪だるまが見事完成した。



「お〜これは見事ですね」



「でも、かおがない……」



「ちょっと待っててください」



 顔がないのは少し寂しい気がすると思い呟いた言葉を拾ったのは繁長だった。与六と一緒に首を傾げながら待っているとしばらくして繁長が戻ってきた。



「あ、にんじんとまめ」



「ええ。姫様の話には鼻には人参、口や目には豆が着いていると言ってたので厩や台所で不要になったにんじんと豆を貰ってきたんです」



 繁長に抱えてもらいつつ雪玉に鼻と目、囗を着けた。



「完成……?」



「でけたよ!これでかんせいだよ!」



 うわ凄い。実際に見てみると圧巻である。2歳のわたしからしたらドデカすぎる。そして立派だ。もしこの時代に写真があればぜひ撮りたいな。……あれ、写真ってこの時代無かったけ?原理さえ覚えていればできるような気がする。それも江戸時代末期の頃のやつみたいなのはできるはず。作り方は全く知らないけど。



「てつだってくれてありがとうね。しげなが、よろく。あとでちちうえにおねがいしておれいあげる!」



「お礼を貰うまででもないですよ」



「それがしも雪玉を転がしただけに過ぎませぬ」



「いいの。わたしはほとんどみてるだけしかできなかったし。ほんとうにふたりともわたしのワガママにつきあってくれてありがとう」



 その後は雪合戦したりしていると夕餉の時間になったので伯母上がわたしたちを呼びに来てくれた。ここに繁長がいることには驚いていたがわたしが事情を説明すると伯母上も父上に口添えするらしい。そして雪だるまを褒めてくれた。



「見事ですね。これはなんというのですか?」



「ゆきだるまです」



「ゆき、だるまですか……随分と可愛らしい名前ですね」



「ですよね!」



 雪だるまって名前の響きが可愛いよね。その後伯母上の提案により繁長も今日の夕餉に混じることになった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なるほどな……して、恩賞は何がいい?」



 夕餉前、父上にも意気揚々とこの話をすると父上は険しい顔をうかべる。怒られるのかと思い慌てて弁明するとわたしの頭を撫でながら聞き返した。あれ、怒ってないの?



「いいのですか?」



「ああ。構わん。わしの娘の遊びに付き合ってくれたからな。それに娘と姉上にここまで言われたら叶わないからな」



「そう、ですか。なんでもいいのですか?」



「ワシが叶えられる限りなら構わん。1人ずつ聞こう。まずは与六から」



「それがしは虎姫様にお仕え出来るだけで十分です」



「あれ、それだけでいいの?ちちうえならもっといいのあげられるとおもうけど」



「ええ。構いませぬ」



 そういうものなの?父上にこっそり耳打ちした。



「そうか。とりあえず金はやろう」



「え?!そんな、悪いですよ」



「これも虎の提案だぞ。虎も何かしらの形でお礼はしたいらしいからな」



「うん。そこまでしてもらってなにもあたえないのはいやなの。だからうけとってくれるかな?」



「……は。かしこまりました」



 わたしがそう言うと与六は引き下がってくれた。良かった。



「次、繁長、お主は?何を望む?」



「はっ。それがしの愚息を姫様に支えさせたいに存じます」



「お主の息子と言うと千代丸か?」



「はい。姫様のお傍で近習か小姓として支えさせたいのです」



 千代丸というのは全く見当がつかないが、繁長の子供と言うと顕長だろうか。彼は確か御館の乱にて父とは違って景虎方に付いてその後勝った景勝側の手入れによって廃嫡されたという記憶ぐらいしかない。だから彼が実際どれくらい強かったのかは分からない。父・繁長と似た感じだろうか?



「……確かに大名の娘なのに側仕えが与六だけというのは物足りないな……だが、使えるのか?」



「恐れながら愚息ですが、賢いと存じます。ただ、与六殿程ではございませぬが使えるかと」



「……ふむ……虎はどうしたい?」



「ん〜」



 優しく撫でてくる父上の大きな手の温かみを感じながら考えた、わたしの前世の記憶を駆使しても情報量が足りなさすぎる。そもそもこの繁長は謀反人だ(父上に許されたけど)。正直信用はできない。遊んでくれた時は楽しかったけど……。



「よろくはどうおもうの?わたしだけのかんがえじゃまとまらないとおもうんだ」



「そうですね……では、まず会ってみてはいかがでしょうか?」



「あう?そんなすぐにあえるの?」



「姫様がもし望むのならば」



 なるほど。そういう手もあるか。それと小姓というか身の回りの世話をする人はわたしは姫なのでもちろん何人か侍女はいるが一応わたしは姫武将という謎の立場を手に入れている。その分小姓が必要なわけだ。だからこそ父上の意見には一理ある。そもそも与六は喜平次の近習だ。それにプラスしてわたしの近習を兼任していることになる。彼も今日みたいに常にわたしの傍にいることは出来ないだろう。そろそろもう1人くらい近習という名のわたしの遊び相手が欲しかった頃だ。



「んーとりあえずあってみようかな?おねがいできるかな?しげなが」



「かしこまりました。すぐに文を届けましょう」



 ここに来るまでの数日間喜平次や与六、伯母上などに相談しながら千代丸との面会の準備を進めることになる。

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