第5話 虎姫様
ある日の夕刻。僕はいつも通り寺でほかの家臣の子供たちと一緒に勉強をしていた。終わった後はいつも通り家に帰ると何故か知らない男の子が僕の家の食卓場で鎮座していた。僕が驚いて話しかけると彼はこういった。
「一緒に夕餉を取らないかと繁長様に誘われたのです。ダメでしたでしょうか?」
なるほど。父上が誘ったのか。一体どういう繋がりかは全く検討皆無だが、きっと父上のことだ。誰かの武将の子供が1人だからという理由で誘ったのかもしれない。なんて今は春日山城で評定に参加している父上のことを思い浮かべた。
「父上の意向なら断る理由はないよ。ところで君の名前は?あ、こういうのは僕が先に名乗るんだったね。僕は千代丸。本庄繁長の息子だよ」
「ああ、名乗るのを忘れてましたね。それがしは樋口兼豊が息、与六と申します」
樋口兼豊という人物も与六も残念ながら僕は知らないが父上が誘ったということならさぞ有名人なのかもしれない。
「そうか。わざわざ寒い中家に来てくれてありがとうな。与六」
「いえ。誘っていただけただけで嬉しい限りです」
一緒にご飯を食べながら世間話をした。普段はどこで暮らしているのかやなんの勉強が得意かなど話していた。段々話しているうちに仲良くなり与六は敬語が外れた。またいつか話したいなと与六を見送った。そんなくだらない願いが叶うとは思いもよらなかった。
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数日後ー
ある日父上と共に登城をすることになった。まさか何かやらかしたのかと慌てたが父上は何故かすごく落ち着いていた。一体何があるというのやら。
「さむいなかごくろう。ちよまる」
その幼げな声に僕の緊張はすぐに打ち砕かれた。この子は一体誰だ?
「虎、その言い方だとよく分からないだろう?とりあえず千代丸はここに座ってくれ。状況は説明するからな」
2人ともなんだか高貴そうだ。父上からはなにも説明がないままここに放り込まれた。ただ「失礼のないように」としつこく言われていたのでとりあえず習い始めたばかりの礼儀を行った。
「了解しました」
正しく正座し直すと隣の元服前後の男の子が言った。彼の言葉は理解できるがだとしたら隣のまだ年端もいかない彼女はなぜここにいるのだろうか。
「実はな、ここにいる虎にお前は仕えることになったんだ」
「え?」
「きへいじ、しゅごぬけすぎ。とりあえずなまえをさきになのるのがじょうしきだよ。まずはわたしから。わたしはうえすぎてるとらのむすめのとらだよ」
「虎の言うことにも一理あるか……我が名は上杉喜平次景勝である」
上杉喜平次景勝というとこの上杉家の跡取りだ。それと隣にいるのは数年前くらいにお生まれになった御館様の娘の虎姫様のことだ。2人はまだ子供だが僕からすればだいぶ高貴な方たちだ。
「な、なぜ貴方たちのようなお人達が一家臣であるそれがしになんの用で?」
「ああ、先程も申したが、お主をこの、虎の側仕えとして仕えて欲しいんだ」
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