第6話 千代丸

 面会すると言ってもただ話すだけでは不安だったので与六にお使いを頼むことにした。



「お使い、ですか?」



「うん。いそがしいところわるいんだけど、あうまえにあってきてほしいんだよ。ちよまるってこに」



「は、はぁ……」



 む、理解してないみたいだな。



「しけんはおこなうまえからはじまるもの。ちよまるのふだんのようす、みてきてほしいの」



「なるほど。つまり虎姫様は千代丸殿を試したいと」



「うん。ようやくするとそうなるね」



「なるほど……しかし、会うと言っても何をすれば?」



「なんかてきとうにおはなししてきてよ」



「お話し、ですか?」



「うん。なんでもいいから。せけんばなしでもなんでもいいから」



「はぁ……」



「でも、わたしにあうってことはかくしてね!きんちょうしちゃうかもだから」



 緊張は1番の大敵だからね。なんて考えていると与六は深いため息をついた。なんだかわたしが振り回し過ぎているせいなのか分からないけど段々と遠慮がなくなってきてる。酷い。一応わたしは主だぞ?まあ、別に気にしないけど。



「連絡もなしに会うとなれば逆に緊張してしまいそうですが……まあ、良いでしょう」



「あうにっていはしげながとあわせて。わたしはこれいこうはなにもくちだししないから」



 ここからは与六と千代丸の問題なので放置することにした。というか与六がいなくなるとわたしの遊び相手がいなくなるじゃん。え?喜平次が遊んでくれるの?出陣近いのに?いいの?やった!



 数日後ー



「さむいなかごくろう。ちよまる」



 目の前にいるまだ歳は5つも行かないであろう男の子こそが千代丸である。幼い彼一人の身で来させるのはさすがに可哀想なので繁長に頼んで連れてきてもらった。ここからは子供同士で話し合いたいので父上や繁長は別室で待機してもらうことにした。喜平次は元服済みだが、一応こちら側でいてもらっている。与六も隣の部屋に控えている。



 突然父親とともに登城してきた千代丸は緊張していた。わたしや喜平次があなたを側仕えとして雇いたいと言った。



「それがしを、姫様の側仕えに、ですか?」



「うん。ダメ、かな?それにあなたがわたしにつかえるということはあなたのかぞくとはなればなれになるということ。あなたがまいにちかよっているてらにさえいけない。べんきょうはこちらでおしえるけどね。それはともかくちよまるはさびしいおもいをするかもしれない。それでもいいというのならわたしにやとわれてほしいんだけど」



 1番の懸念点はここだ。繁長に聞いたところ彼はまだ4つで手習いを始めた頃だそうだ。もし、わたしの側仕えとして来るとしたらそんな高頻度でうちには帰れない。だって城に住まなければならない。わたしはまだ与六しか側仕えが居ないのでまだいいがこれから増えるというのならまとめ役だって必要になる。というか千代丸が雇われた時点で父上の何人かの家臣たちはわたしに必死で自分の息子を側仕えにしようと類推してくるだろう。そうなると管理が大変になるのはわたしだ。千代丸を雇ったあとはしばらくの間は誰も雇わないつもりだが、そうなると差別だなどと文句言われるといろいろと面倒だ。こういう時は与六にズバッと断ってもらうつもりだ。



「……かしこまりました。それがし、姫様に是非仕えさせて頂きたいです」



 そう言って千代丸は平伏した。



「ほんと?」



「はい」



「かぞくとながいあいだあえないかもなのに?」



「もちろんそれも覚悟の上です」



 ……なるほど。ここまで覚悟があるのなら雇ってもいいかもしれない。なんというか戦国時代の子供って現代の子供よりも大人っぽい気がする。最初っから運命背負わされているみたいな。



「ふーん……ねね、やとってみてもいいんじゃないの?きへいじ」



「まあ、それが虎の意向なら構わないよ」



「ありがたき幸せでございます」



「ひとくちにやとうといってもあなたはまだこどもでおしえてもらうものがたくさんある」



 わたしもまだ子供だけど。



「だからあなたにきょういくがかりをつけるよ。ね?よろく」



 わたしが与六を傍に控えさせていた理由は千代丸がもしうなずけば彼の教育係にさせるつもりだ。



「……虎姫様が数日前にそれがしを千代丸に合わせた理由はこれですか」



「え?!与六!?なんでここに?!」



「いちおうよろくのこうしんになるんだし、なかよくしとくことにはいいでしょ?」



「はぁ……。一応知っていると思うがもう一度名乗っておこう。それがしは樋口兼豊が息、与六だ。そして今ここにいる景勝様兼虎姫様の側仕えである。お主の教育係となるが容赦はせぬぞ」



「かしこまりました!」



 そのまた数日後千代丸がわたしに仕えにくるのはまた別の話である。

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