第7話 豪商共

「姫様、与六殿、準備が整いました」



「ありがとう。景綱」



「助かります。直江殿」



 父上に借りた景綱を見下ろしながらここ数週間の出来事を思い返した。



「へ?豪商にわたしたちが?」



 父上がまさかわたしに表に立ってやりなさいと言ってくるとは思ってもみなかったことなのでわたしから飛び出したのは素っ頓狂な叫び声だった。



「ああ。商人との取次はワシがやっておく。だが、交渉は虎と与六がやるんだ」



「ですが、わたしたちは承認の交渉だなんてやったことがありません」



「虎姫様の言い分も最もです。御館様になにかお考えがあるのですか?」



 非常に面倒なことになった。いや、これは逆に高貴なのかもしれない。豪商との繋がりが出来ればこの後わたしが作り出すものが自由に売り出すことが出来るかもしれない。それに作るための費用も工面(投資)して貰えるかもしれない。



「与六の読み通り考えはある。景綱は貸す。だから必ずやお主らで豪商らを説得してこい」



「……かしこまりました」



 結局わたし自らが出向くこととなったが利点も大きいため父上のその言葉に従うことした。やはり世の中、長いものに巻かれろである(違う)。



 商人と交渉することとなったと聞いた伯母上は大慌てでわたしと与六に礼儀を仕込んだ。「失礼のないように」「言葉遣いには気をつけるように」と何度も耳にタコができるほど言われたため一通りはできるようになった。また、この話を聞いた喜平次と義兄上殿にも商人との交渉の仕方を教えてもらった。おかげで今日は結構自信ありきだ。まあ、練習でやるのと実践でやるのはかなり違うけど、これもいい経験になるかもしれない。わたしはそうでありたいと心の中で願って景綱に開けてもらった襖を与六と共に通り過ぎた。



 わたしが部屋に入ってきた途端部屋にいた人たちはザワザワと騒ぎ出した。まあ、普通は姫とか女の人は奥に引っ込んでいるものだ。それに自分で言うのもなんだけど、父・輝虎はわたし・虎を溺愛している。だからこそ奥に引っ込んでいるものだと思われていたのかもしれない。いや、それは無いか。よく父上が喜平次か側仕えたちの馬に乗せられて街に赴くからまじまじとわたしの顔を見たのを初めてだからという話なのかもしれない。どちらにしろ驚かれていることには間違えなかった。



 わたしは作法通り上座に座った。その隣には与六、反対側には景綱も座った。



「こほん」



 誰の咳き込みだっただろうかその咳き込みが聞こえた途端シーンっと部屋は静まり返った。



「え、えっと……皆さん、ここまでの御足労おかけ致しました。集まって頂きありがとうございます。この度はわたくし、虎の我儘を聞いて頂きたく存じます。……与六」



「は。姫様がお作りになられたこの紙袋を買って貰えないかというものにございまする」



 与六は景綱に視線を送って景綱は控えのものに持ってこさせた紙袋を豪商共に見せつけるように置いた。豪商共は「おー」や「素晴らしい」、「ふむ」などといった声を上げた。反応は上々だろうか。



 本当はわたしだけでは作ってはいないが、そういった方が付加価値が上がるという景綱の教えだった。



「質問があるものはおりますか?あれば挙手をお願い致します」

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