第8話 豪商共その2
「はい」
わたしが言った言葉に1番反応を示したのは1番手前にいる20代前半の若い青年だった。ここには30〜50代半ばの人々が集まる中彼は一際目立っていた。
「はい。どうぞ……ええっと……中井さ、殿」
事前に配られた参加者リストを頭の片隅に入れて呼び返した。
「その、紙袋は何に使うのでしょうか?」
「商品を運ぶためのものにございます」
「その、紙袋は何でできているのですか?」
「その名の通り紙にございます」
そういった途端あたりはざわつき出す。「紙、だと?」だの「そんなの壊れてしまうでは無いか」だの「そんなもの塵と一緒ではないか」だのという声が部屋中に溢れた。中には帰ろうとする者もいたが、わたしはこの国の大名の娘なのでそんなことは出来なかった。
「早まらないでください。確かに、これは紙で作りました。ですが、強度の面では安心してくだい。……信綱」
「……は。こちらに一貫(大体3kg)ほど詰めた石があります。これを今からこの、紙袋にひとつずつ入れていきます」
試しに先程の20代の若い青年に紙袋の手持ちの部分を持ってもらった。
ひとつ、ひとつ。
信綱が石を入れていく。
それも数を数えながら。
「99つ、100つ、101つ……」
まだまだ入れ続けられることに商人たちは釘付けになる。
「……200……あ、破れました。おおよそ199ぐらい……ですから最低でも一貫が入ることがこれで証明できたでしょう」
ビリッと破けた音がしたことを皮切りに信綱は入れるのを辞めた。
信綱の声を聞くと「おー」っとあたりはざわめき出した。反応は予想通りかな?
「見た目が美しいだけでなく、強度もあるとは……ぜひ我が商家に買わせてくだされ!」
「わたくしもにございまする!」
「我々も!」
次々と買いたいという声が聞こえた。
「かしこまりました。しかし、これだけの量を量産するのは骨が折れます。なので人手とお金を貸していただけると助かります。それとわたしは今後も新たな商品を生み出そうと試みております。その際には何卒ご贔屓にして頂けますでしょうか?」
さて、今回の本命は正直こっちだ。ダンボールに石鹸、そして紙袋を作るには時間はもちろんかかる。その時間の短縮のためには人手が必要だ。もちろん上杉家に人手が居ないという訳では無い。切り絵を切り取る際はお船やお苗にも手伝えて貰えたがそれには限度がある。
「かしこまりました。どのような人手が所望か聞いても?」
その気はあったのか豪商共は「かしこまった」といいわたしに平伏した。売る側だしそこら辺のことは心得ているのかもしれない。
「まず、この紙袋は切って貼ったものなので手先が器用なものか、女性の方が来ていただけると助かります。あと算術に優れたものがよろしいのですが……」
「わかりました。何人か集めて後日お伝え致しまする」
ひとまずは交渉は無事、成立したようだ。
しかし、本番はここからだ。ここからが正念場だ。
でも、ひとまず今日は一休みをしたいところだ。
「そうか。おつかれ。虎」
「あ、ありがとう。喜平次……」
わたしは部屋に戻る前に与六とともに喜平次の部屋を訪れた。今日のことを全部喜平次にいうと彼は優しい顔をしてわたしの頭を撫でてくれた。
「今日のことを御館様にお伝えしに行ってまいりますね」
「そうして貰えると助かる。与六」
与六が部屋を出ていくのを視線で追って目を閉じる。
疲れた……
失礼のないように礼儀に言葉遣いに気をつけながらさらに豪商共を説得しなければならなかった。
今夜はぐっすり眠れそうだ。
わたしの意識は目を閉じたまま途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます