第6話 紙袋

 永禄13年10月ー



 ここ、上杉家の財政は佐渡島から採掘される金や銀、そして海運事業で大部分を補っていた。それが父・輝虎が戦を続けられる大きな大部分だが、それにも欠点がある。港を抑えられてしまえば収入の大部分を抑えられてしまう。それは上杉家にとっては痛手だ。それに金山も銀山も無限にあるとは言い難い。江戸時代になる頃にはその山ほどあった金は尽きてしまっている。これに関しては仕方がないがそれでは今ではなくてもこの後の上杉家の財政が心もとない。



「父上、折り入ってお話があります」



「どうしたのだ?虎に与六。お話とは一体なんだ?」



「ええ。実はお願いしに来たんです」



「……まあ、よかろう。なんだ。そのお願いは」



 わたしは出来上がった例のものを持って与六とともに父上の部屋を訪ねた。アポは事前にとっていたので父上は入ってきたわたしたちにとくに驚いた顔もせず家臣たちに見せるような威厳のある面持ちをした。緊張するが、ここで仰け反っていては仕方がない。



「この、わたしが作った紙袋を売ってみないかというお願いです」



「かみぶくろ……?それはなんだ?」



「えっと、買ったものや持ち運びたいものを入れるものです」



 わたしは父上に見せるように3つの違う柄の紙袋を置いた。1つは黒色ベースで切り絵の技術を用いた絵や文字が側面に白色で描かれている。2つは1つと同じく黒色ベースだが、絵や文字が金色で描かれているのだ。3つは1つと2つとは打って変わって白色ベースで絵や文字は黒色で描かれている。描いてある絵や文字は全て統一している。



「ふむ……なかなか綺麗だな。この絵と文字はどうやって?」



「紙を切って張りつけたんです」



「これは虎が?」



「原画はわたしと喜平次、与六と千代丸、信綱や義兄上殿、たまに姉上たちと伯母上にも手伝ってもらいました。切って貼り付けたのはわたしです」



 原画はあちらこちらからかき集めた絵を参考に伯母上や姉上たちの女性陣の意見も取り入れて、紙袋に興味を示した義兄上殿にも見てもらいながら作ったのだ。切り絵と貼り絵をかけたようなイラストだ。



「なるほど……しかし、売るとは?売るにしてもちゃんと売れる道筋はあるのか?」



「はい。そこの説明は与六が……与六」



「は。このカミブクロは商人共に売りつけるのが1番安定するかと」



 わたしが呼んだ与六は途端、わたしより少し前に出て頭を下げた。



「商人にか?」



「はい。虎姫様に聞きました。このカミブクロは高そうな売り物を包んで運ぶものだと。ならば、売り物をする商人ならば的確かと」



「ふむ……景綱、どう思う」



 父上の隣でじっと立ってわたしたちの動向を見ていた直江景綱に父上は声をかけた。彼は去年、わたしの側仕えとして仕えた信綱の義父で、同年にわたしの侍女として仕えたお船の実父である。直江景綱は軍事面でも優秀だが、内政・外政面でも優秀だった。それで父上はこの景綱を優遇し、自身の長尾家の通字である「景」を与えてしまうほどだ。確かに彼ならばこれが売れる新たな道筋を見出してくれるかもしれない。そんなわたしのほんの僅かな期待を胸に彼の言葉に耳を傾けた。



「そうですね……確かに与六殿の言う通りの用途であれば売れるかもですね。更に上杉家の身内や姫様自ら描かれたり考案したというのがこれに付加価値を付けるやもしれませぬ」



 付加価値。



 なるほど。



 わたしはそこまで深く考えていなかった。



 確かに上杉家の後継者や上杉家当主の娘や姉、姪などの案を発案したとなればそれ相当の付加価値が着くに違いない。むしろ無ければこの上杉家の威信に関わる。



「なので、普通の商人に売るのではなく豪商に売る方が得かと」



 景綱の意見も最もだと思い父上を見ると顎に手を当て、なにやら考える仕草をした。採用されるだろうか……



「ふむ。豪商と何かしらの取引をする必要はありそうだな……虎に与六、お主らが交渉してこい」



「へ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る