第1話 足利義輝
そもそもこの日本の各地で戦乱の世が訪れたのは室町幕府が一番の原因だった。
延元元年(1336年)8月11日に足利尊氏が征夷大将軍に任命されたことにより京に成立されたのが足利幕府だった。
3代目義満の時に南北朝が統一し、室町幕府は最盛期を迎えた。が、
永禄8年(1565年)5月10日ー
「義輝様!一大事に存じます!!三好三人衆がおよそ1万の兵を率いて、ここ、二条御所に向かって攻めてきています!」
「なんだと!?」
義輝様と呼ばれた彼こそが第13代目足利義輝である。天文5年(1536年)3月31日に生まれた。幼名は
そして天文15年(1546年)の時に元服した菊幢丸は朝廷から諱として義藤の名前を与えられた。同年に義藤は父、義晴から家督が譲られ、わずか11歳で第13代将軍となった。
父が天文19年(1550年)に死去したあとも細川晴元や三好長慶との争いは続いた。だが、そんな三好長慶も永禄7年(1564年)に死去。三好家の主要人物が次々と亡くなっていったので三好家は衰運にあっていった。三好家で台頭してきた三好三人衆や松永久秀とその息子の久通は三好家の政治を牛耳るようになっていく。傀儡将軍を擁立したい三好氏としてはこの足利義輝が邪魔者になっていた。そこで三好三人衆は足利義栄を新将軍として擁立し始めた。
永禄8年(1565年)に1度義輝は命の危機を感じて二条御所を出たが、近臣らに説得され戻っている。この時、近臣らに反対されても無理を通せば良かった。などと義輝は心の中で後悔の念を思った。
「藤孝、お主はこれからどうするんだ?」
「どうする……とは?」
「三好軍は1万の兵ですぐに迫っておる。ここ、二条御所にいる手勢は今から集めたところでせいぜい数百が限界だ。こんな戦、勝ち目などなかろう」
この時義輝にも脱出するという考えもあったが近臣たちに反対されるのは目に見えている。
「……それがしは義輝様と共に……」
「ならん」
「な!なにゆえでございまするか?!」
「興福寺には我が弟がおる。ここでワシが討ち取られるならば……わかるな?」
義輝の死を意味したが同時に室町幕府の危機も意味した。藤孝とてここに義輝を残すことは見殺しになる。だが、その弟を助けなければ幕臣として意味をなさない。藤孝が頭を必死にフル回転させた。
「藤孝、悩むことも多かろうが、わしはここで藤孝が言っても構わぬ。むしろわしの刀の腕がどれくらいか藤孝以外にようやく試せるのだからな」
足利義輝は剣豪将軍としても知られており、塚原卜伝の弟子として秘剣「一之太刀」を授けていた。その腕前は確かでそのため人々からは「剣豪将軍」と呼ばれていた。藤孝もこの技を受け継いでいてよく義輝の練習相手となっていた。ただ、自分の実力を知りたくなった義輝は度々探していた。だから今の言葉も理に適っているが、これは藤孝を逃がすための建前である。義輝とは長い付き合いになる藤孝は知っていた。だが、これも我が主と幕府の為ならばと藤孝は平伏した。
「かしこまりました」
しばらく間を置いた後藤孝は屋敷を出ていった。
一方義輝は藤孝の背中が見えなくなったのを見て深くため息をついた。
「……はぁ……志半ばで死ぬのか……やはり世の中上手くいかないか……仕方があらん」
とうとう三好軍が二条御所に攻め込んできた。
「ふん!わしの手にかかれば大したことござらん」
義輝は薙刀を片手に奮戦。持っていた薙刀が折れてもまた新しい刀を腰から引き抜き太刀打ちをする。その姿はまさに剣豪将軍そのものだった。
だが、いくら臨戦しても多勢に無勢。
どこからだろうか火の匂いがした。
「ふっ。おもしろい」
死を目前にしてふっと笑みを浮かべた義輝に畏怖した者がいた。
「さあ、かかってこい。……ただし、命が惜しければな」
義輝は目の前にいる何人もの三好兵を切り捨てる。
刀や自身に生臭い血の匂いが鼻につく。だが、それも悪くない。
「義輝、覚悟ォ!!」
誰の声だっただろうか。いや、それは誰にも分からぬだろう。
三好軍も義輝のこの抵抗の有様に段々と苛立っていた。とうとうその苛立ちは頂点に達した三好軍は障子で義輝を四方で囲み、挟み撃ち。
槍や薙刀に腹部、胸元、腕などを突き刺された義輝は「とうとう最期か」だなんて死に間際なのにも関わらず呑気なことを考えていた。その後義輝は絶命。
永禄8年(1565年)5月10日。足利義輝死去。享年30歳。
幕府再興のために一生を捧げ続けた男。
幕府再興。
それが彼の夢であり宿命であった彼が費やした日々に報われる日はいつになるのだろうか?
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※足利義輝の戦闘シーンは大河ドラマ「麒麟が来る」をちょっとだけ参考にしました。
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