第8話 探検
「おばうえ、せいあねうえ、ももあねうえ〜!」
「あらあら、今日も元気ね。虎。でも、廊下は走るものではありませぬよ」
「ごめんなさい」
廊下を走ってきたわたしをもう齢40だと言うのにしっかりと受け止めて出迎えてくれたのは伯母上だった。
「虎、叔父上の見送り、終わったの?」
「うん。ついさっきちちうえはでていきました」
「それなら暇なんじゃない?虎」
「いえ、ももあねうえ。わたし、これからやしきたんけんするんです。そのまえにあいさつだけでもしにきたんです」
「お
お苗とはわたしの乳母である。年齢はまだ20と若いがもう二人を産んでいる立派な母だ。まだわたしが乳飲み子であった際や今みたいに活発に動き回っているわたしを転ばないように補助したりしている。今は父上の見送りのために置いてきた。
「うん。ちよまるといっしよにいるのです。それにきへいじにいいっていわれたのです」
「喜平次がいいって言ったのなら構わないわね」
「虎、わたくしも行ってもいいかしら?」
「せいあねうえも?」
「ええ。わたくしもやってみたいもの。ね?いいかしら。母上」
まさか清姉上が来るとは思ってはいなかった。
「清ならそういうと思っていたわ。ええ。仕事の邪魔さえしなければいいわ。千代丸、2人を任せたわよ」
「わかってますよ。母上」
「了解しました。仙洞院さま」
伯母上も頷いてくれたので清姉上と千代丸とともに一緒に向かうことにした。
ーーーーーーーー
「ここは……」
「ここは台所のようですね」
千代丸の案内の元まずは台所に来てみた。いい匂いがしたからつられたとかそういう訳では断じて無い。
「いい匂いがするわ」
「何を作ってるんですかね……」
台所には何人もの女中がいた。わたしたちが台所に入ろうとするとこちらが入ってきたことに気がついた女中たちの中の1人がこちらに向かってきた。
「もしかして、虎姫様に清姫様にございますか?」
「ええ。そうよ」
「すみませぬ!かようなところに来させてしまって……!」
清姉上が彼女に返事をすると慌てふためいて平伏した。
「いいの。わたしたちがかってにきただけにすぎない。あやまるならわたしたちのほうだよ。だから、かおをあげて」
「はい……」
「それであなたは?」
「わたくしはここの台所長を務めているお
お豆と名乗った彼女は怯えながら顔を上げた。
「楽にしても良いのですよ」
「いえ、そういうわけには……」
「そんなにおびえないで。わたしたちはただあそびにきただけなのよ。あなたたちのしごとをじゃまするきはないの。それにここにはせいあねうえとわたしとちよまるしかいない。とがめるひとはだれもいないよ。もし、いたとしてもかばってあげるから」
わたしがそういうと少し安心した顔をして優しげな顔をした。
「姫様方がそういうのなら……あの、ところで何用なのですか?」
「ここからいい香りしたから寄ってみたのよ。何を作っているのかしら?」
「ああ、来月はここ、越後でも桜が咲きます。なので桜を主調にしたお菓子でも作ろうとしていたんです」
「おかし?」
台所を覗き込むと赤飯ぐらいの色合いに染められたお米があった。なにこれ。すごい。
「これってどうやってつくったの?」
「ああ、桜の色を再現しようと赤飯にしてみたんです」
「でも、赤飯って甘くないわよね」
「ええ。なので困っているんです。今年初めて挑戦してみたので失敗するのは分かっていたんですけどこう考えると悲しいですかね」
「ぴんく、じゃなかった。さくらいろにそめられるのってないの?」
「んーあればいいんですけど……」
桜モチーフのお菓子と言えばわたしは桜餅を思い浮かべる。桜餅がいつ出来たかは分からないが、作り方なら知っている。ちなみに前提として桜餅は
「さくらがかいかすればなんとかなるけど……」
「虎姫様?」
「ん?ちよまるどうかしたの?」
「いえ。なんでもございませぬが、姫様にしては珍しく難しいことを考えているなって思いまして」
「そう?しんぱいさせたならごめんね」
食といえば父上のお酒事情だ。わたしと伯母上が一緒に画策して泣きながらやめてと言っているのでわたしと伯母上の前ではお酒は控えるようにはなったが、出陣していたりするとわたしも伯母上も何も言えないだろう。あとで文でも
わたしたちはその後も複数箇所回ったあとまだ明るかったので伯母上達のところで双六をしたり、そして与六や喜平次と合流をしたので将棋をしたり、与六と千代丸が稽古したり、勉強したりしているところを見ていた。
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