第22話 肩こり
俺の肩は凝る。もの凄く凝る。死ぬほど・・凝る。
それはもう尋常じゃないほど凝る。
小学生の頃からもう肩凝りで苦しんでいた。
もちろんあらゆる手段を試した。
長風呂をして筋肉を解す。体はふやけたけど凝りは解けなかった。
肩叩きを使う。じきにガラスのコーラ瓶で肩を叩くようになった。それでも効かない。
家の柱に肩をゴリゴリと押しつける。それでも効かない。
肩凝りに効くという体操もやったがもちろん効かない。そんなものが効くレベルは当の昔に過ぎている。
長じて指圧に通うようになった。
強圧をしてくれるマッサージ師を見つけたので毎週通うようにした。
これは上手くいった。少しだけだが凝りが解れるようになったのだ。問題はただ一つ。じきにマッサージ師の指が壊れたことだ。店には閉店の札がかかり、俺は唯一の拠り所を失った。
日がな一日、頭が重い。常に凝った肩が苦痛を訴える。
ついに鉄棒を肩に押し当ててぐりぐりと押さえつけるようになった。
それが原因と言うわけではないがますます凝りはひどくなった。
渋谷での拳銃乱射事件を覚えているだろうか?
警察官が襲われて拳銃が奪われて乱射された事件だ。そのときに俺はそこにいた。
発射された弾丸は俺の肩に命中し、そこで止まった。
血まみれになりながら病院に運ばれた俺は弾丸が肩の筋肉に弾かれていたことを聞かされた。銃弾で破れた皮膚から血が流れはしたがそれだけだ。これには医者も目を剥いていた。
肩凝りもここまで極まれりだ。
ついに肩凝りの苦痛に堪えられなくなり俺は決心した。出刃包丁を肩に突き刺したのだ。想像通りに包丁は肩の筋肉で止まり、俺は用意していた金槌で包丁の柄を叩いた。
折れた包丁の刃が床に転がったとき俺は絶望した。俺の肩凝りは鋼鉄よりも強いのだと。
病院のベッドで道路工事の音を聴いていると、ついふらふらと病室を抜け出してしまった。自分がおかしな行動を取っていることは理解していたが止まらなかった。
そこまで肩凝りは俺に取り憑き追い込んでいたのだ。
アスファルトを削岩機で砕いている所に行き、その前に横たわった。
「やってくれ」
一言だけ言うと相手は悲鳴を上げた。
「何を言っているんだ。あんたは!」
「だから肩だ。そいつで俺の肩をドドドドドとやってくれ」
「誰か来てくれ!」
周囲から工事の作業者が集まって来たので俺は逃げ出した。
だが肩凝りだけはどこまでも俺の肩にべっとりと張り憑いている。
もう一瞬たりとも耐えられない。
俺は喚きながら車道に飛び出した。
荷物を満載した10トントラックが爆走して来たのはその時だ。
避ける間もなく俺は撥ね飛ばされた。
金属のフレームが俺の肩に容赦なくめり込む。
生まれて初めて肩凝りが解れるのが分かった。あれほど硬かった肩が柔らかくなり汚れた血が固まった筋肉から絞り出されていく。
目の前の壁へ激突する残りわずかな時間、俺はただひたすらにその至福の時を過ごした。
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