第6話 秘密組織

 俺はある国の諜報員だった。

 ひょんなことから俺たちは知ってはならない秘密を知ってしまった。

 この世界はある巨大な組織に裏から支配されている。彼らはどこかの国なんていう小さな存在ではない。すべての国を超越した超法規的組織だった。

 もちろん俺たちはそんなことが知りたかったわけじゃない。彼らのことを知ったのは、ほんのちょっとしたアクシデントというものだ。

 困ったことに相手もまた秘密が漏れたことを知った。そういうわけですぐに追手がかかった。

 もちろん逃げたよ。敵は世界に跨る巨大秘密組織だ。その構成員はどこにでも居る。たかが一国の諜報員が正面から喧嘩しても勝てるわけがないからな。

 俺たちはみんなバラバラになって逃げた。一年に一度密かに行う連絡だけが唯一の繋がりだ。


 夜は奴らの縄張りだ。だが昼だからと言って安全ではない。

 だから俺たちは常に変装して出歩いた。

 監視の目がきつくなってきたと感じたら居を移した。棒を投げランダムに行き先を決める。別に転居は苦にならない。これには長い間の諜報員生活が役に立った。幸い隠し口座に金はある。


 数年が経過した。かっての仲間の何人かとはすでに連絡が取れない。

 恐らくは彼らの仲間にされてしまったのだろう。恐ろしいことに奴らは人間を襲って仲間にすることができるのだ。

 追われていた仲間が今は追う側に加わっている可能性もある。それを考えると悲しみに胸が苦しくて堪らない。

 外国に移住することも考えたが諦めた。どの国にも奴らの手先はいる。外人に混ざれば逆に目立ってすぐに見つかってしまう。


 買い物に出た際に他の買い物客と揉めて被っていたフードを引きはがされたのは俺のミスだ。そのときたまたま傍に奴らが居たのは俺の不運だ。

 気づかれていませんようにと祈りながら、俺は隠れ家に戻り戦いの準備をした。

 銃に爆発物。だがこんなものが奴らに通用するのだろうか。

 ああ、神様。せめて十字架がやつらに効きさえすれば何とかなるのに。


 言ったはずだな。夜は奴らの縄張りだって。

 日が落ちると奴らが襲ってきた。暗闇の中に無数に光る眼。そして鋭い白い牙。

 奴らは群れでやって来た。その中にかっての仲間の面影を残すヤツを見つけて、俺の絶望はさらに深まった。


 俺は頑張ったが、無駄だった。立てこもっている部屋が電気を切られて真っ暗になった時点で勝負の行方は決まった。

 闇の中では人間はやつらに絶対に敵わない。


 柔らかな肉球の衝撃を頬に受け、俺の意識は遠のいていった。


 人類を影から操る巨大秘密組織。

 ヌコ・ニャンコ・ネットワーク。通称NNN。

 この世の人間のすべては彼らに仕えるためだけに存在する。



 そういうわけで今の俺は猫をやっている。

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