第4話 猫の国

 どうやら俺は死んだらしい。

 どこまでも続く白くフワフワしたこの地面は雲の上と思えた。

 横には真っ白な翼を見せびらかす天使がいた。

「目が覚めたか。さて君は自分が行く天国を選ばねばならない」

 天使は説明を始めた。

「ここは天国の待合室のようなものだ。天国には様々なものがあり、ここにはそれらへつながる橋が繋がっている。君はその内の一つを選んで渡ることができる。ただし一度渡れば戻ることはできない」


 どういうことだ?

 俺の疑問が籠った視線に気づくと、天使は説明を続けた。


「橋の向こうの様子をこちら側から知ることはできない。すまないな。神様の方針で、天国に入る前にある種の運試しをすることになっているんだ。つまり意思と運の問題なんだ」

 返事を待たずに天使は歩きだした。それに連れて周囲の景色も動く。俺がそれに逆らうことはできない。


 最初の橋についた。

 その橋の前には無数の猫が屯していた。体を舐めている子に顔を洗う子。香箱座りをして目を閉じている子。ヒゲと耳と尻尾の林だ。

 猫の国に繋がる橋だ。俺は直感した。そして俺は猫が大好きだ。たくさんの猫に囲まれた死後の暮らし。まさに天国そのものだ。

「ここがいい。ここにした」

 天使が驚いたような顔をした。

「ここでいいのか?」

「うん、ここがいい。決めた」

「分かった。人の好みは様々だからな。止めはしない。さあ、心して橋を渡るがよい」

 俺は天使の気が変わる前にと慌てて橋を渡った。


 長い橋だったように思う。ようやく橋の終わりが見えたとき、俺は自分の間違いに気が付いた。

 猫たちは橋を渡るためにあそこで待っていたんじゃない。橋の向こうから大好物の匂いがするから集まっていたんだ。


 無数のネズミが俺を出迎えた。

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