第18話 転生
いつもの奴からメールが来たので気安く受けた。
金はまだ残っていたが仕事は受けた。金と言うものは稼げるときに稼いでおくのが良い。
こいつの情報は役に立つ。間違っていたことがない。
正体は知らないがあちらこちらに網を張って色々な情報を集めて来る。
連絡はメールだけだ。声すら聞いたことがない。慎重な奴だ。
俺はこいつの情報は信用しているが、こいつ自体は信用していない。こちらは顔も声も知らないのだから、いつでもこちらを切り捨てることができる。
まあそれはこちらも同じだ。伝えてあるこちらの情報はすべて偽物だからだ。俺はこいつをいつでも捨てて別人になることができる。
そもそも闇バイトをやる連中なんて、みんなこんなものだろ?
ドアの鍵は手前から三番目の鉢植えの下だ。もちろんこっそりと作られた合い鍵だ。
今回のバイトは時間制限がついている。明日の昼になれば今日ターゲットが銀行から下してきた三百万円はどこかに消えてしまう。
深夜十二時にはもうターゲットは寝ているはずだ。ドアをそっと開いて体を滑り込ませる。相手は部屋の中なので、玄関の電灯はつけても大丈夫だが敢えて点けずにおく。窓の外、カーテン越しに街の灯が射しこむ。それだけで十分だ。
廊下を忍び足で歩き、目的の部屋の前に着く。勢いよく襖を開き、飛び込んだ。手にしたバールを振り下ろす。
強く叩き過ぎた。
布団の中の相手の頭が派手に割れて、周囲に脳漿と血が飛び散った。
失敗だ。お陰でお気に入りの服が台無しになってしまった。部屋に入る前に全裸になっておけば後でシャワーを浴びるだけで済んだのに。
まあ済んだことは仕方がない。手早く指定された所を探る。
ソファーには左右にジッパーがついていてそこが開くようになっている。そこから三百万円を回収する。その内の半分を分け、後で言われた私書箱に送る。これをやらないと次からの仕事は来なくなる。
人一人殺して百五十万円。割の良い仕事に俺は満足した。ここまでに二時間使ったから時給は七十五万円。こんな仕事はちょっと他にはない。
少しばかり焦っていたのは認める。人目を避けて横断歩道を走り抜けるときに、迫って来るトラックとの目測を見誤ってしまった。
衝突された瞬間に背骨がぼきぼきと音を立てて折れるのが聞こえた。そこから先は暗黒・・のはずだった。
気がつくと光の渦の中に立っていた。
人間を遥かに越える大きさの人影が目の間に聳えていた。
そいつは言った。
「君は転生することになった。そこで君には転生特典が与えられる。いわゆるチートと言うヤツだな」
そいつはそこで含み笑いをした。
「この中から五つの能力を選びなさい」
まるでどこかのアニメのような展開だ。トラックに撥ねられて神様にあってチートを貰って転生なんて話が本当にあるとは思わなかった。
大きな巻物に書かれた百近い能力のリストが俺の前に提示された。
「選択するしないに関わらず、時間がくれば君は自動的に転生される」
そう聞いてはおちおち選んではいられない。
ざっとリストに目を通す。
『不老不死』という文字が目に飛び込んできた。まずはこれだ。俺はそれを指さした。
「ひとつ」人影は言った。「お前は今や不老不死だ」
次は『対戦無敵』だ。
「ふたつ。如何なる敵もお前の相手にはならない」
次の選択はちょっと恥ずかしい。『恋愛無双』つまり異性にモテるだ。
「これでみっつ。どんな女性もお前に惚れる」
残りは『財産無限』と『永久健康』にした。
「これで五つ。では転生の儀を始める」
人影の周囲の光が強くなった。
俺は転生した。
溶岩だ。俺は溶岩の中にいた。見渡す限り溶岩の海だ。
全身が炎を上げる。皮膚が焼け落ち、焦げた肉が剥がれ落ち、骨が剥き出しになったところで、また再生した。そこでまた溶岩に触れ、激痛と共にそれが繰り返される。
俺は悲鳴を上げた。
『不老不死』が俺を死なせない。
『対戦無敵』は無意味だ。一人で勝手に焼けているのだから。
『恋愛無双』これもここにいるのは俺一人なのだから意味がない。
『財産無限』そんなもの何の役に立つ。
『永久健康』そうだ。また焼かれるために再生する。
頭の中に笑い声がした。あの人影の声だ。
「ようこそ地獄へ。今度の生は長くなりそうだな。ゆっくりしていきたまえ」
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