第17話 不屈の闘志

 周囲を完全に囲む壁は高い。俺たちの力では登れない。おまけに隙間はない。だからすり抜けることも隠れることもできない。

 ここは収容所だ。おまけに俺たちには毛布も食料も与えられない。やつらには元々俺たちをいつまでも生かす気なんかないんだ。ただしばらくの間だけ生きていてくれればよい。そう考えている。

 俺にはそれが判っていた。


 決まった時間になると巨人たちはやってくる。

 この壁の中に上から手を差し込んで、俺たちの何人かを掴んで連れて行く。

 俺たちは奴らの食料、嗜好品、楽しみなんだ。

 仲間たちはもう諦めている。だが俺は諦めない。


 夜を待った。

 力なく積み重なった仲間を遠慮なく踏んで俺は上に登った。

 生きることを諦めた奴を踏むことに俺の良心は痛まない。

 ぐらぐらする不安定な足場だ。俺は苦労しながら登った。

 やがて壁に突き当たった。わずかに弾力がある奇妙な壁だ。だがそれでも俺の力では破れない。

 ジャンプして壁の上に手が届かないかと試してみた。

 駄目だ。全然届かない。

 その内に足を滑らせた。積み上がった仲間の体の上を転がり。派手に床に頭を打ち付けた。

 衝撃でくらくらする頭を両手で押さえながら横を見ると、仲間の死体がそこにあった。

 ここでの生活に耐えきれずに死んだ連中だ。床に触れた部分が緑色に腐り始めている。無理もない。だがそれでも死体を見ていると吐き気がした。できる限り死体から遠くに離れる。

 次の日、巨人は死体を拾い上げるとどこかに捨てた。彼らは死んだものを食わない。こういった生物に有りがちな習性だ。


 だんだん残りの仲間の数が減って来た。

 巨人が来ると全員が緊張するようになり、巨人の手が伸びてくると隣の仲間を押しやって自分だけが生き残ろうとするようになった。

 俺も例外ではない。情けない話だが友人を巨人の手に差し出して生き残った。

 そうこうしている内に残りは数人になった。

 また一人が死んで腐り、俺はといえば仲間を売って生き延びた。俺もひどく弱っていたが相手も弱っていたから、奴を巨人の手の方に押し出すのはさほど難しくはなかった。他よりも一瞬でも早く巨人が近づく足音に気づくこと。それこそが生き延びるための大事なコツだ。


 とうとう最後の一人になってしまった。空っぽの壁の中に俺ただ一人が残っている。

 もう生き残る方策はない。それだけの体力もない。巨人がやってくる。逃げる気力もない。

 大きな手が降りて来る。それは容赦なく俺を掴むと持ち上げ、こねくり回し、調べた。 それから巨人は俺をどこかに投げ込んだ。干からびてやせ細った俺を見て食欲が失せたらしい。

 こうして俺は逃げるチャンスを得た。どこかにきっと脱出する道があるに違いない。

 俺は諦めない。

 決して、諦めない。


 巨人は俺への関心を失うと、空になったミカン箱を畳んで隅に片付けた。

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