第20話

「お久しぶりです。酒の神ベル―ニャの第一配下トトルゥです」

「息災の様で何よりだ。ベル―ニャはどうしている?」

「相変わらず、飲んでいらっしゃいます」


 ディルギスとトトルゥは軽く挨拶をする。見知った仲と言った様子で、雰囲気も和やかだ。

 冷遇、不遇なんて言葉は2人の間には見受けられない。

 退室しようとしたクォギアだったが、ディルギスに止められ、彼と一緒にソファへと座っている。


「今回お持ちしたのは、毎年恒例の行事と神々の誕生祭の日程が記された予定表です。神が個別に開催する会などに関しては、書かれていません。特に、うちの酒の神は頻繁に宴会開きますので」


 礼儀正しい様に見えて、どこか雑なトトルゥに内心驚きつつ、クォギアは軽く目を通した。

 カレンダーのような卓上式とスケジュール帳形式の冊子だ。祭りなどの催しだけでなく、その準備期間や悪天候で延期された際の予定日も大まかに記されている。

 催し物に付き物となる酒を関する神なだけに、かなりしっかりとした予定が組まれている。


「不参加であっても、祭りとなればどの区画も人の波に変化があり、物流の遅延や窃盗などの事件が多発する恐れがあるので、参考にしてください」

「わかりました」


 祭りとなれば、商品の入荷状況や店の予定も普段と変わって来る。浮足立ち、酔った人々が殴り合いや公共の者を破壊するなんて話をよく耳にするので、必要な情報だとクォギアは納得をする。


「それで……ディルギス様は、いつ頃集会に参加されますか? 連絡が来てからと言うもの、うちの神もいつ復帰されるのか気になっている御様子でした」


 にこにこと話すトトルゥに、クォギアは疑問を持つ。


「……すいません。一つ伺っても宜しいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「確かなものではありませんが、ディルギス様が神から不遇を受けていると噂を耳にしました。横領の件やここの建物の状況からも、何かと被害を受けているように思えます。神々はどうして、騒ぎになるまで助力をしなかったのですか?」


 間が開いた。

 ディルギスはそれを止めず、トトルゥは目を見開き、心底驚いている様子だ。直ぐに我に返った様子で、大きく首を振る。


「不遇なんて、とんでもない! 隣国の不浄と淀みを浄化のため、一人背負っていただいているのですから、ありえません。むしろ、頭が上がらなくらいです」


 言い切りながらも、どう答えれば良いか彼女は迷っている。


「そのぉ……他の神は分かりませんが、うちの神はディルギス様の言った通りに静観していました」


「ディルギス様の言った通り……?」


 意外な証言に、クォギアはディルギスを見る。


「あぁ、17年前に、こちらへ帰国した際に言った」


 平然と言うディルギスに、クォギアは驚いて目を丸くする。


「え、えーと。表に出るまでは、関わってくるな、と仰ったそうです。私はその場にいなかったので聞いていませんが、うちの神がそれを愚痴って飲んでました。不老の存在ですし、今は平気で静観してますね」


 国が成り立つうえで、無くてはならない浄化の力。関りを一時的に断っていた理由は不明だが、頭の上がらない神々はディルギスの言う通り、時期が来るまで静観していた。

 それを〈ビルジュ様が訴えても後回し〉とメリンはクォギアに伝えた。

 ディルギスが隣国の不浄と淀みを背負った17年間。その間に神となったビルジュに、国神すら静観している実態について、伝わっていないとは考え難い。


「噂が出た時は、国神様が責任を取ると言って、沈静化させたと聞きます」


 ディルギスはそんな事、一言も言っていない。そう思ったクォギアだが、自分が〈他の神は何をやっていたのか〉と質問していなかった事に気づいた。自分の知っている内容と類似点があり、先に聞いたメリンの話を信じてしまい、神はディルギスを蔑ろにしていると思い込んでしまっていた。


「クォギアさん……大丈夫ですか?」


「いえ、その、情報収集が足りないと言うか……自分は裁縫師なので、神々の周辺は何も知らないと思いまして……こんな事を聞いてしまい、申し訳ありません」


 我に返ったクォギアは苦笑をする。


「いえいえ、お気になさらず。ディルギス様のお傍に居るなら、知っておいた方が良いですからね。それに、神に関する情報が少ないのは当然です。配下は軒並み口が堅い方ばかりですし、私もこの場にディルギス様がいらっしゃらなかったら、言わないでしょうし」


 トトルゥはにっこりと笑顔を返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る