第14話
朝から昼へと向かう町は、夜とは違った表情を見せている。
商品を出荷する為に動き出す荷馬車。新聞売りが声を張り上げながら呼び込みを行い、花束を持った花屋が急いだ様子で通りを走っていく。
クォギアは、別館へ買った品を運ぶために荷馬車と御者を日雇いし、最初の店へと着いた。
「ようこそ、いらっしゃいました」
日用品を取り扱う道具屋へと入ると、店主と思しき人の良さそうな中年の女性が深々と頭を下げる。
町を行きかう一般人が買いに来るような店だ。客が入店すれば軽く挨拶するだけで、店主であっても目線を合わせない人もいる。しかしクォギアを一目見ると、まるで位の高い人を相手するように丁寧に挨拶をした。
珍しい髪色も相まってクォギアが神殿に勤めている人だと、情報が既に回っているようだ。
「何かお探しでしょうか?」
「店内にあるモノで事足りますので、大丈夫です」
店主は少し不思議そうな顔をする。
店内には、箒や木製のバケツと洗い桶、安価な食器類、花瓶や壺、ヤカンや鍋、果物ナイフ、包丁、少量であるが帽子や服等も売っている。
私物を買うにしても、神殿に勤める程の高貴な人向けの洗練された品々が並んでいるわけではない。
「大量に買いますので、勘定お願いします」
「は、はい」
大量と言われ、ますます店主は分からなくなるが、紙とペンを取り出し、買う品が何なのか聞く体制になる。
「箒とモップを6本ずつ、雑巾を20枚、バケツを8個と洗い桶を大小3個ずつ、食器とカトラリーを3セット、ヤカン3個、鍋を各種2個ずつ、果物ナイフと包丁を各種2本ずつ、壺を5個、花瓶を4個、鋏と鎌と鍬を3本ずつ、スコップとシャベル3本ずつ……とりあえず、これだけお願いします」
一通り品を見た後、クォギアは指折り数えながら言っていく。
店主はそれに合わせて紙に書いて行くが、困惑する。神殿や使用人の住む建物に全く物がない、と思えるほどの買い込みようだ。
「今店にあるだけで、揃いはしますが……どうして、こんなに日用品を?」
「ディルギス様が不浄と淀みの浄化に集中している最中、下々の者が罪を犯したのはご存じかと思います。彼らが仕事を放棄した為、長年道具類が放置されまして……どれも傷みが激しいので一掃し、新たに買う事になりました」
本当は日用品すら全く無いのだが、町の人々の罪悪感を減らすため、ほんの少し嘘を交えてクォギアは答える。
「あら、そうだったのですね! 考えもなく聞いてしまい、すいません」
「いえいえ。こんなに買い込めば、誰だって気になりますよ」
突然ドレスを大量に注文されたらと考えれば、クォギアにも店主の心境が理解できた。
店主から金額が提示され、クォギアはカードを取り出した。カウンターに置かれた手の平ほどの大きさの金属板へカードをかざすと、グリフォンの目が一瞬光を放った。
これで払った金額の情報が、カードの管理者である国立の銀行へと送られる。
店主とクォギアは荷馬車へと買った商品を乗せた。
「それじゃ、失礼します」
「またお越しください」
クォギアは荷馬車に乗り、次の店へと向かう。
各店の店主と軽く話しながら、神殿と別館の現状についてあえて別々の情報を小出しに流す。共通でありながら別々の最新情報は、会話の話題を構成しやすい。店主たちは、互いの情報を共有し合い、それは客にまで伝わっていく。
ディルギスや浄化の神に付きまとう噂が、徐々に薄まる筈だ。
「おまえが、神殿勤めになった奴?」
次は手芸店へ向かおう、と荷馬車に乗ろうとしたクォギアに、若い男が声を掛けてくる。
厄介事だと即座に分かった。反応すれば何が起きるのかも、想像がつく。
だが、無視をしては戦う力が無いと見なされ、噂を膨張されかねない。
「そうですが、何か?」
クォギアは、荷馬車の御者にそのまま待つよう手で支持を送りつつ、二十代の若者3人に問いかける。
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