(休止)生々の大樹と果ての大空は想い焦がれる
片海 鏡
一章
第1話
世界を創造した星神より選ばれし人々が、神に在位する世界。
国家ゼネスマキアの中央に聳え立つ星神城の一角に設けられた服飾工房では、裁縫師達が神々の為に日々服を縫う。
「クォギア。ちょっといいか?」
「何ですか?」
マーメイドドレスに花の装飾を縫っていた男性に、山羊系獣人の工房長が声を掛ける。
年は20代後半に見える。すらりと背が高く、足が長くモデルのようにスタイルの良い。耳はやや尖り、色白で整った狐顔に、普段は線のように細い切れ長の青い瞳。背中まで伸ばした水色の艶やかな髪は前髪を含めて後ろへと一括りに纏めている。服は白のワイシャツに、伸縮性のあるスキニーの黒いスーツパンツを履いている。
裏方である裁縫師には勿体ない容姿ではあるが、額には痛々しい大きな火傷の跡が残っている。
「専属裁縫師が横領で逮捕されたのを知っているな?」
「あぁ、新聞の端に書いてあったような」
「おいおい。同業者の話くらいは、ちゃんと情報収集をしておけ」
「服のデザインならやっていますよ」
犯人は服飾の材料費を横領し懐に入れていた。裁縫師にとって信用問題に関わる内容だ。
その情報が世に出回ってからは、工房のその話で持ち切りだったと言うのに。
呆れる工房長だが、クォギアが衣類やその材料以外に疎いのはよく知っている。
「それで、だな。その神の専属裁縫師を探しているんだ。皆に訊いて回っているが、誰もやりたがらない。おまえにも一応声を掛けようと思ってな」
「皆が敬遠するって、どんな方ですか?」
神の専属になれるのは裁縫師とって名誉であるとされ、元専属である工房長は神達からの信頼が厚く、推薦して欲しいと願う同業者は少なくはない。クォギアは、工房長の弟子の1人として幼少時代から下積みの暦が長いが、まだ城の裁縫師として働き始めて2年しか経っていない。
神の専属への願望は強く持っていても、実力を示す機会がまだなかった。
「名前はディルギス。浄化を担う神だ」
神々が権能を振るう度に蓄積される淀み、そして人々から漏れ出す負の感情を払う存在。
浄化を担う神は総勢4柱いる。
「やります」
「そうか……え?」
断られると踏んでいた工房長は、驚いた。
「や、やるのか?」
「はい」
いつも服飾品の事しか頭にない彼が、迷いなくきっぱりと言った。
これでは言い返す言葉も見つからない。
「わかった。国神に伝えるとしよう。なに、すぐに返事が来るさ」
「ありがとうございます」
工房長は静かに微笑み、クォギアはドレスの制作を再開する。
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