第二章 05「因縁ある国」

「私が最後に彼女を見たのは、彼女が奴隷商に引き渡される姿でした。拘束だけでなく口枷と目隠しをされて木箱に入れられる彼女の姿はあまりにも痛々しくて…今でも鮮明に憶えています…」


涙ながらにユリアが語った過去の話に、リアは言葉を失った。

山賊団のあまりに惨たらしい所業。かつて生まれ育った村が盗賊に襲われた際、アカリに救われなかったらと思うと、自分の事のように恐怖する。

一方でリアには別の気掛かりがあった。

「…アカリ…?」

先程から言葉を発さずにユリアの話を聴いているアカリを恐る恐る見る。

「⁉︎」

リアは思わず息を呑んだ。

その怒りを口にする事は無いが、修羅の形相とはまさにそれ。アカリの怒りと殺気が滲み出ているのだ。

当然だろうとリアは首を振る。かつての仲間が理不尽に蹂躙され、行方不明となっている状況で怒りを感じて当然だ。

だが、アカリは例え危機的な状況でも冷静さを失わないのもリアは知っている。今この場で騒いだ所でリサリサを救う手立ては無いのも解って、どうしたら良いのか思考を巡らせているのだろう。

だからこそ、だ。


「…アカリ、辛いよね」

リアはアカリの手に自分の手を重ねる。

「リサリサさんを探そう。“私と”アカリで助け出そう」

例えそれが出過ぎた真似だとしても、リアは言葉にしないといけない。

冷静で強くて、そして優しいアカリがアカリのままでいるために、リアは彼女の代わりに言葉に出して寄り添う…私はアカリの恋人なんだから、と。


対してアカリは、リアの言葉に一瞬だけ驚いた様な表情を見せる。が、直ぐに軽い深呼吸をすると表情を柔めて彼女の手にもう一つの手を重ねた。

「…ああ、“俺達で”助けよう」

その様子に安堵したリアは微笑んで静かに頷く。


「…それで、ユリアさん。リサリサが誰に売られたのか手掛かりは無いかな?」

リサリサを助けるにも、何処に行ったのか手掛かり無しでは難しい。少しでも情報が無いかと、先ずはユリアに尋ねることにする。

「そうですね…名前までは分かりませんが、リサリサさんを買っていったのはフライザーの奴隷商人です。この盗賊団と取引していた商人は何人かいるのですが、容姿が整った女性の買い付けはいつも同じ商人でした」

アカリは眉間に皺を寄せて記憶を辿る。

フライザー。そう、以前にリアを誘拐したヤクト・ユージンの出身国だ。

「盗賊がリサリサさんが高値で売れたと話しているのを聞いたので間違いないかと」

「またあの国か…」

アカリは不機嫌そうに呟く。

「フライザーって、どう行くんだ?」

「んー、確かあの国には王都から北に向かう街道からしか行けないはず。フェルロンとフライザーってあまり仲が良くないのよ」

曰く、帝国の軍門に降ったフェルロン王国をフライザー王国は誇り無き卑怯者と見下しているらしい。

その為、新たな街道整備も碌に行われず、両国の建国以前からある一本の旧街道だけが結んでいるとの事だ。

「何にせよ、ユリアさん達を王都まで護送してからだな」

「そうね」

「お手間をおかけして申し訳ありません」

深々と頭を下げるユリアに気にしないで欲しいと言い、アカリはすっかり冷めたスープを飲み干すのだった。


〜〜〜〜〜〜


更新の間が空いてしまいごめなさい!

また少し書き貯められたのでアップします!

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