第二章 01 「エルフスナイパー」
フェルロン王国の王都から二十キロ程離れた山間部。
木陰に身を隠しているのは戦闘装備のアカリだ。いつもの制服姿に武装JKらしくプレキャリ、ヘッドセットを身に付けている。
その彼女が双眼鏡で見ているのは山肌に設けられた山賊の砦である。丸太などの木材で造られた砦はなかなか堅牢そうに見えた。
「山賊とは聞いてたけど…ちょっとした軍団の要塞だねありゃ」
アカリは手元にある一枚の羊皮紙を見る。
そこに書かれているのは、近年この地域で猛威を振るう山賊達の討伐依頼だ。
話によると山賊は神出鬼没、商隊や乗合馬車を襲っては男は皆殺し。女、子供は荷物と共に攫って行く悪行を重ねているらしい。
今まで山賊に襲われて無事な者は居らず、その正体も分からずじまいだったという。
「ま、一人捕まえられれば本拠地を吐かせるのは簡単だったけどね」
旅のついでと、一週間前にクワトリルという街の傭兵組合で依頼書を受け取り、王都に向かうという商隊を囮に。その商隊を襲ってきた山賊集団を返り討ちにして、生け捕りにした一人を拷問し、本拠地を聞き出したのだった。
「んで、どう?リア。砦の中は見える?」
アカリは無線越しに“相棒”に語りかける。
『うん。外周に櫓が四つあってそれぞれに一人づつ。下には建物が…えっと小さいのが六並んでて、その先にでかいのが三つ。あと…そのでかいのの裏側に…壁は無いんだけど檻が並んでる建物が…酷い…中に女の人が何人も閉じ込められてるよ』
無線越しのリアの声が震える。
彼女は自分が酷い目に遭ったからか、こういった光景に人一倍怒りを覚える節がある。
「落ち着いていこうリア。今は役割をこなす事に集中」
『…うん、ごめん』
「櫓の四人以外は?」
『えっと…手前の小屋の前で二人が馬を手入れしてる。あとは外には居ないかな』
アカリはリアの報告を頭の中で反芻し、作戦行動のシミュレーションを考える。
「外に出ている敵は門の前の一人を含めて七。リア、まずは門。次が門が視界に入る手前二棟の櫓。俺が門に張り付いたら残りの櫓ね。中の二人は俺が潰す」
『分かった』
リアの回答を受けてアカリは小銃を構えてそっと門に近づく。
「リア、状況開始」
『うん』
無線からリアの声がするのと同時、目の前の門番の頭が音も無く吹き飛び倒れる。
更に続けて門の左右にある櫓に居た二人の盗賊も小さな音を立てて姿が見えなくなった。
「ナイスキル」
四ヶ月前にダンドルンを発った後、アカリはリアに銃を使った基本的な戦闘訓練を施しながら王都プラドを目指して旅をしていた。
そんな中で、リアが意外な才能を持っている事が分かったのだ。それが長距離狙撃である。
エルフが持つ先天的な能力に風読みという感覚がある。聞くところによるとこれはエルフの目に備わる機能として、空気中に漂う魔力を見る事ができるというものらしい。
普段は感じる程度らしいが、意識を集中すると光の粒子のように見えるという。この機能で風の動きを読む事でエルフ族は弓を得意としているそうだ。
銃による狙撃でもこれが相当に役に立つ。
軍の狙撃手にはスポッターと呼ばれる観測手が行動を共にし、目標までの距離や気象条件を観測、補佐する。
リアはこの役割を目の機能が補足してくれるので、ワンマンでも狙撃能力が異様に高かったという訳だ。
以来、リアは狙撃手としてアカリの行動をバックアップする役割を果たしていた。
アカリが居る位置とはかなり離れた山の崖。砦を見晴らす位置に陣取ったリアはスコープ越しにアカリを見る。彼女は予定通り門まで移動している最中だ。
「順調…かな」
アカリの状況を確認した後、リアは次の標的に視線を移す。
彼女の銃はアカリからプレゼントされたG28E2という七・六ニミリ弾を使用するセミオート狙撃銃である。
リアは意識を集中させ空気中の魔素粒子の流れから風を読む。
「少し風が強い…でも右に補正すれば…」
風が弱まった瞬間、リアの指が引き金を弾く。
消音器の付いた銃口から弾丸が射出され、標的の盗賊が倒れた。
「命中…次っ」
直ぐさまリアは次の標的へと切り替え、これを迅速に処理した。
「アカリ、櫓の目標は排除したわ。気付かれた様子は…」
地上の様子を見渡し、櫓の異変に気付いた者が居ないか確認する。
「…無し…よかったぁ」
『上出来』
アカリの様子を見ると、彼女がこちらに向かってサムズアップしているのが見えた。
『んじゃ、突入するからバックアップよろしく!』
「うん、任せて!」
アカリに信頼され、必要とされている…それが彼女が銃を手に取った理由。
「…アカリに相応しいパートナーになる。だから…」
シアは再びスコープを覗き、敵に備えた。
「アカリには指一本触れさせないわよ」
美しき狙撃手は今日も引き金を引く。
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お待たせしました!第二章本編スタートです!
更新スピードはのんびりになるとは思いますが、引き続きよろしくお願いします!
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