第一章 06 「異世界での出逢い」

少女の家だという村外れの一軒家。

他の家と同じく藁葺きの屋根を持つ小ぢんまりとした家の中は、盗賊に荒らされて家財が散乱していた。


「…えっと、ごめんなさい。散らかっているけど、休んでください」

「…気にしない」

居た堪れない気持ちだが、彼女の誠意に応えて堂々とした態度を示し、椅子に腰掛けた。

「…改めて、この度は私を救ってくださり有難うございました」

少女は立ったまま深々と頭を下げて感謝を伝えて来た。

「私はリア。助けて頂いて村人を弔いまでしてもらったのに、名前も名乗らず失礼しました」

「いいよ、そんな状況じゃなかっただろうし。俺はゆう…アカリ。アカリ・カーディナルだよ」

一瞬、異世界転生前のリアルネームを言いそうになるが、自分が今は美少女だというのに日本の男の名前というのも変だろうとキャラネームで言い直す。

「カーディナル様ですね」

「いや、アカリでいいよ。あと、敬語じゃなくてオーケー」

「で、でもそれでは失礼じゃ…」

アカリは苦笑した。

「むしろこっちがお願いしたいんだ。年齢も大して変わらないだろうし…まあ、なんだ?俺が苦手なだけだけど」


正直言えば、異世界で初めて出会った相手である。アカリとしては、そんな相手に急によそよそしくされるのも何となく嫌だったのだ。

「そう…なのね。分かったわ、アカリさん」

そう言って微笑むエルフ少女改めリア。

アカリは改めて彼女を観察した。

年齢は十代半ば、透き通る様な銀髪の髪は肩くらいのセミロングで身長は百六十センチは無さそうだ。村娘ということもあってか化粧っ気は無いが、それがより一層エルフらしい美貌を際立たせていた。

オタク男子であったアカリは例に漏れずエルフ大好きであったし、リアの容姿はドストライクゾーンである。


-うんむ、好みだ。って俺、今同性じゃん…


悲しいかな心は男で恋愛対象は女性である。

つまり性の不一致状態なアカリにとって、今後の恋愛は茨の道であるのだ。


-おお神よ‼︎何故この様な試練を与えたもう…


などと物思いに耽るアカリを他所に、リアが何やら麻袋をテーブルに二つ置いた。

「それで報酬なんだけど、これでどうかな」

それは盗賊達が村人から奪った金銭を回収して詰めた袋だった。中身はほとんど銀貨であったが、数枚の金貨も含まれている。

「…」

「正直、命を救って貰った挙句、仇討ちまでしてもらった対価としては少ないとは思うの。でも、私も生きていかないといけないし…これで納得して欲しいの!」

どうもアカリの無言を報酬に不満があると捉えられてしまったようだ。

「足りないなんて思ってないよ。それよりこれ、村の金でしょ?勝手に渡していいの?」

「いいのよ。もう持ち主は生きていないし、村も滅んじゃった…村からの最後の感謝だと思って受け取って欲しいの」

アカリは納得して頷く。

「…そういう事なら受け取るわ。ありがとう」

アカリは麻袋を受け取ると、バックパックにしまう。その様子を眺めていたリアが不思議そうに尋ねてきた。

「それにしても…アカリさんって不思議な人よね」

「ん?俺?」

「そう。すっごい美人で可愛いのに、自分のこと俺って言って男の人みたいな喋り方だし、雰囲気も大人びてるっていうか…」

少し顔を赤めたリアが恥ずかしげにする。

「なんて言えばいいんだろ…男の人よりカッコイイ…?」


カッコイイ

カッコイイカッコイイ…イイ…イイ


アカリの脳内をリアの言葉が大音量で反芻していく。

それはもう人生で一番の衝撃的な言葉だった。生まれてこの方、一度も言われたことが無い賞賛の言葉はアカリの心を揺さぶった。しかも美少女エルフに言われた事が、よりアカリを興奮させる。


- …前言撤回。神よ‼︎この姿で転生させてくれて感謝致します


非常に現金な思考の持ち主である。

「ありがと」

アカリはリアにとても良い笑顔を向けた。

リアはそんな彼女に思っていた疑問を投げかける。

「ところでアカリさんは旅人だよね?何か見た事ない可愛い服だけど、何処から来たの?…それにさっきも聞いたけどあの黒い鉄の武器といい、やっぱり魔術師なの?」

「んー…」

この娘は信用しても良いだろう、というのがここまで接した感想である。アカリは意を決して応える。

「…実は俺ね、此処が何処だか、どうして此処に居るのか分からないんだよ」

「え?」

思いもしない回答に、リアは目を見開いた。

「これから話す事は突拍子もなさ過ぎて信じられないかもしれない。ただ、何か知っている事があったら教えて欲しいんだよね」

アカリは真剣な表情でリアに尋ねる。


「リア…異世界転生って分かる?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


この後、キリが良くなさすぎて今回は短め!


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