第一章 36 「二人の武装JK」

宿を出て数時間。

ダンドルンの領事館に戻ってきた二人を待っていたのは、すごく上機嫌のルドルフだった。


「リア殿、無事で何より‼︎心配したぞ‼︎」

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。それと救出にご尽力頂いたと聞いております。改めて感謝を」

平伏するリアにルドルフは気にするなと笑う。

「感謝はアカリにしたまえ。こいつ、相当に怒り狂っておったぞ?」

「…ルドルフ様ぁ?」

「ハッハハ‼︎良いではないか。してアカリよ、あの男はどうなったのだ?」

「殺したよ。死体も放置してある」

「あい分かった。あとはこちらで対処しよう」

任せておけと胸を叩くルドルフに、アカリは頼もしさを感じる。

出逢いというのは大切なものである。

「あ、そうだ。傷って魔法で治らない?」

「む、怪我をしたのか?」

「リアがね。その…鞭で背中をだいぶ酷くやられてるんだ」

「それは一大事ではないか‼︎直ぐに治癒術士を手配せよ‼︎」

「そ、そんな、大丈夫ですからっ」

血相を変えて侍従に命じるルドルフをリアが慌てて止めようとする。

「何を言っている、女の肌に傷が残っては一大事だ。それに鞭打ちなど罪人への刑罰。リア殿が受けた所業を少しでも癒してやりたい俺のお節介よ」

「うう…本当に何から何まで…ありがとうございます」

涙を浮かべ感謝を示すリアの肩をルドルフは叩き笑う。

「うむ、今はとにかく休まれよ」

こうしてリアの療養を兼ねて暫くはにお世話になる事になった二人だった。



この世界の治療魔法は人体の自然治癒能力を魔力で急速に促すもので、言うなれば治療に特化した補助魔法というべきものらしい。なので病気や、自然治癒の不可能な欠損といった重症には対応できない。

また、治療術士に見えない体内の傷は、術士がそれを認識できないことから的確な術式が組めず、これまた対応が難しいという。

逆にいえば、術士が目視できる外傷は概ね治療可能という訳だ。

という訳でルドルフの手配した治癒術士曰く、リアが背中に負った傷は数日で跡形もなく治せるという。

調べると鞭打ちはこの世界では罪人への刑罰か、奴隷への折檻が主たるものらしい。

確かに背中にその傷があったら、公衆浴場へ行くのも憚れてしまうだろう。


「で?その鞭打ちを自分からお願いする変態が此処に居る訳だけど、なんか言い訳は?」


スッパーン


「んおお‼︎…ハァハァ…この痛み、俺には褒美よ!それにお前に付けられる傷は勲章の様なものだハッハハッ『スッパーン』ハアアアン‼︎」

「それ、即答されると恥ずかしいんだけど?」

何故かダブルバイセップスで鞭打たれて喘ぐルドルフに、アカリはジト目を向ける。

ユージンの件で便宜を図った見返りにルドルフが要求もといおねだりしてきたのが、例によってアカリとのSMプレイであった。

という事で、今はルドルフへの御褒美タイムである。

「フッフッフ…その蔑む様な瞳…イイッ‼︎」

「あーもー四つん這い‼︎」

「んオッ‼︎応っ‼︎」

脹脛に一本鞭を振るって命じると、ルドルフは機敏に体勢を変える。


- 鞭捌きが上達してる自分が哀しい…


「そういえばさ、あのあと砦を調べたんでしょ?」

四つん這いになったルドルフのムキムキの背中をローファーで踏み付ける。

「ぉおおおう、調べた。あの男と傭兵共の死体は回収したぞ。それと大量の麻薬も地下倉庫から見つかってな。奴め、麻薬密売に手を染めていた様だ」

「ふうん…」


- あのミオって女、逃げたのか


「あいつのハーレムパーティーはどうなったん?」

「うむ、奴のパーティーハウスを衛兵隊が立入ったが、既に逃げお失せた後だったそうだ」

「そっか」

パーティーメンバーに事態を伝えて逃したのはミオだろう。

女冒険者達もおそらく麻薬漬けにされた被害者であろうし、彼女達をこれから待っているのは禁断症状の地獄だ。


「ところでアカリ。お前に渡したい物があるのだが」

「? なーに?」

踏んでいた脚をどけると、ルドルフが平然と立ち上がり普段の威風堂々振る舞いでデスクへと向かう…全裸で。


「お前に助けられた礼だ」

彼がアカリに渡したのは高級感のある木箱だ。中には金色に輝くブローチが二つ納められていた。ブローチには剣を持ったグリフォンの紋章が掘り込まれている。

「これは?」

「それはお前達が我がバレンリア公爵家の客卿である証だ。我が国の敵対国家でもない限り、帝国貴族と同等の権利を受けられる。どの国にも属さないお前には一番良い身分証になると思ってな。御守りとして持っていくがいい」

「…いいの?俺としては願ったり叶ったりだけど」

これが破格の待遇だと分かる。だからこそ、ルドルフの真意を確かめたくもあった。

「良い。俺の命はお前が救ってくれた。その大恩に報いるには少ないくらいだよ。…それに」

ルドルフはアカリの前に跪き、その足に口付けをする。

「俺はお前に惚れた。お前との繋がりを持ちたいという俺の我儘でもある」

そのあまりにストレートな言葉にアカリは不覚にも顔を赤めてしまう。

「…俺は同性好きだし、リアが好きだよ?」

「応、知っているぞ?」

「それなのに?」

「当然だ。俺がお前に尽くしたいだけだ」

アカリは恥ずかしさからルドルフから目を逸らし俯く。

「…全裸の変態のくせに…変な奴…」

本当に不思議な気分だった。彼に対して恋愛感情など持ち合わせてはいないはず。だが、何処かむず痒い気持ちを感じ、嬉しく思う自分がいるのだ。

「…あー…えーっと…」

アカリはルドルフを見下ろし、微笑みを浮かべた。

「…あ、ありがと。嬉しいよ」

その日、アカリはいつも以上にルドルフを激しく攻め、彼は歓喜の雄叫びを上げた。

ルドルフの満面の笑みが妙に腹立たしくてついイジメ過ぎたと彼女は後に語るのだった。




なんだかんだで一ヵ月近くを過ごしたダンドルンの街に別れを告げる日がやってきた。

既にルドルフやお世話になった領事館の面子に挨拶を済ませた二人は、ダンドルンの城門に居る。

ちなみにルドルフは、必ず帝国に来て欲しいと名残惜しげに伝え、一頭の立派な軍馬を譲ってくれた。


晴天の下、アカリは息を深く吸い込む。

紺のブレザー、ダークグレーを基調としたチェックのスカートに紺パープルのロイヤルクレスト柄のタイをルーズに締め制服姿。アカリ的な女子高生の正装としているお気に入りの着こなしだ。

「う〜ん、旅立ち日和だね」

「そうね」

隣に立つリアを見る。

この日、彼女はアカリと全く同じ出立ちをしていた。

違いと言えば、生脚を見せるのが恥ずかしいという意見から採用した薄めのタイツ位だ。

「…なによ?」

「うん、リアめっちゃ可愛い」

「ッ〜〜⁉︎」

顔を茹蛸の様に真っ赤に染めて俯くリア。

旅立ちに際してリアに銃火器の訓練を行う事にしたアカリ。それならこれからはお揃いの格好をしようと制服を渡していたのだ。

今日はそのお披露目である。

「…あ、ありがとう」

か細い声で恥ずかしげに応えるリアを思わず抱きしめる。

「ちょっとアカリ⁉︎往来じゃ恥ずかしいんだけど⁉︎」

言葉とは裏腹に身を委ね、軽く口付けを交わす二人。

「お揃い、だね?」

「…うん」

彼女を離すと、アカリは軍馬に跨がり手を差し伸べる。

「じゃ、行こっか」


異世界から来た武装JK美少女と異世界で生まれた武装JKエルフ。

二人のバイオレンスな旅の第二幕が、こうして幕を開けた。



〜〜〜〜〜〜〜〜


第一章完結です!

書き切りましたね、ふう…

初めての投稿、連載でしたが、皆様いかがでしたか?

感想とか嬉しいのでお気軽にどうぞ!


第二章執筆中でございます。

ある程度書いたらまた投稿していきますので、よろしくお願いします!


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