第一章 29 「行動」
アンネが渡してきたのはダンドルン周辺の地図であり、街から離れた一箇所に赤字で印が付けられていた。
「リア殿を連れ去った馬車は、ダンドルン東門を出たのは分かっています。東門からは国境まで村落はありませんので誘拐犯の行く先は限られる。ダンドルン郊外の廃棄された砦、リア殿が囚われているのは恐らくそこです」
「…ふーん」
アカリは地図を畳みスカートのポケットにしまう。
「砦の見取り図とかある?」
「いえ、なにぶん百年前の戦乱時に打ち棄てられたものですので。まあ一般的な前線防衛の為の砦ですので大きくはありませんし、内部構造は至ってシンプルかと」
「分かった、ありがとうアンネさん」
アカリは一言礼を言うと、踵を返す。
「もう行くのか?」
「うん。あの男の目的は多分金じゃなくて、俺だと思う。リアをダシに俺を屈服させたいとかそんなんじゃないかな」
「然もありなん。下劣な事よ」
「そうなると、私が奴に接触するまではリアは無事…と思いたいけど、こういう小物の糞野郎が考える事って時々斜め上いくじゃん?NTR展開とかになったら最悪だからさ」
「ネト…られ?」
小首を傾げるアンネ。
「恋人とかを寝取られる展開。行方不明になった相手と再会したらもう手遅れだったっていう物語とかだよ」
「ああ…それはまた気分の悪くなる話ですね」
「ヤクトとか言う奴、リアにも色目使ってたしね…あの娘は絶対に傷付けさせないよ」
そう言いながら、アカリは準備をすべく自室へと向かうのだった。
アンネから受け取った地図を頼りに、領事館から借り受けた馬を走らせる。
既にアカリは装備を整えており、タクティカルな完全武装の美少女女子高生が馬に跨っているという摩訶不思議な出立ちだ。
- なんかアフガンのグリーンベレーみたいだなぁ。この状況じゃなきゃ楽しいんだろうけど…
三十分程走ったところでとある小さな村に着く。
ここは目的地の廃砦に一番近い村らしく、馬を預けるべく立ち寄った。
最初近くの森に繋いでおけば良いと思っていたが、出立前に打ち合わせたアンネさんから「馬が魔物に襲われるからやめた方がいいです」と言われたのだ。
村の入口にあった門を潜ると、こちらに気付いた一人の男が寄ってきた。
「あんれま、こりゃまたえらい別嬪さんが来たもんだ。村に何用ですだ?」
「馬を夜まで預かって欲しいんだ」
アカリはにっこりと微笑み、用件を伝える。
「へえへえ、それでしたら村の宿屋「ミケル亭」にご案内しますだ」
そう言って男は先導して歩き始める。
「それにしても…お嬢様、えらい変テコな格好ですのう…」
男の奇異な目で見られるが、異世界で武装JKなる日本のニッチなジャンルの良さを理解されるはずも無いと割り切る。
「ここがミケル亭ですだ。おーいミケルさん、お客様だあ!」
案内されたのは村の中心部にある小さな宿屋だった。
「はいはい、お客さんね!」
威勢のいい声と共に現れたのは、恰幅の良い女将さんである。
「って、お貴族様かい⁉︎」
「この方が馬を預けたいそうだあ」
アカリを貴族の令嬢だと勘違いしているようだが、いちいち訂正するのも億劫なのでスルーする。
「宿泊でなくて申し訳ないけど、しばらく馬を預かって欲しい。駄賃はこれでいい?」
そう言って銀貨を一枚女将さんに手渡す。
「っへ⁉︎こんなに、ちょっと申し訳ないですよ‼︎」
「いいんだ。大切な馬だから頼むよ」
- 借り物だしね
「そりゃ勿論ですよ‼︎お任せ下さいまし」
そう言って女将さんは馬の手綱を引いて厩へと向かう。
「おじさんも案内ありがと」
アカリが適当に銅貨数枚を握らせると、案内した男は何度もお辞儀をしながら去っていった。
「…さてと」
アカリは村を出て暫く道を廃砦に向かって歩く。
廃砦は最早ほとんど使われなくなった旧街道沿いにあるらしい。だからこそ、ヤクト達が隠れ拠点として利用しているのだろう。人が寄り付かないのはアカリにとっても好都合ではあるが。
「あれか…」
道の先、五百メートル程の森の中に建つ砦が見えると、アカリは直ぐに道を逸れて草むらに身を隠した。
バックパックを下ろし、中から四枚ローターの小型ドローンを取り出す。
プレキャリの胸元に取り付けているスマホ型端末の電源を入れるとドローンとのリンクアプリを起動させる。
「色々突っ込んであって助かったな」
ドローンを起動し離陸させると端末にカメラ映像が転送され始める。
「まあ現代装備はこの世界じゃチートだよね」
ドローンからの映像には砦の様子が鮮明に映り込む。
「入口に見張りが二人…中の敷地には三人か。中までは分からないけど、砦の上には人影無し。奴のハーレムパーティーに男は居なかったから雇われの用心棒ってとこかな」
アカリはドローンを自律モードに切り替えて砦を監視できる位置で対空させると行動を開始した。
「リア…今行くかんな」
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