第二章 06「路行けば盗賊」
翌朝、山賊団の砦を出発したアカリ達。
一日休んだとはいえ、山賊達の元で疲弊し切った女性達との下山では進む速度も遅くなる。そうなれば自ずとリスクは高くなる訳で、気の抜けない帰路となった。
「まあ、順調に行くとは思ってなかったけどさぁ…」
「…うん、私も思ってはいなかった」
溜め息混じりにアカリとリアは互いを見合う。
「…あれ、襲われてるよね?」
「襲われてるね」
一行が進んでいる山道の、距離にすると一キロ程先に道を塞ぐように停車している馬車が三台あった。そしてその周りでは護衛なのだろう、騎士達と盗賊が戦っている様子だ。
「ん〜…なんだろ、このデジャヴ」
「アカリ、どうする?盗賊の方が押してるっぽいけど…」
護衛が問題なく盗賊を追い払えるなら、このまま様子を見たいところだ。だが、それも叶いそうもない。
「なんでこの世界の盗賊って騎士より強いんだよ…」
次々に倒れていく騎士達。
最早、立っているのは馬車を守っている一人の女騎士だけという有様だ。
「あーもー…ユリアさん達はそこの草陰に身を隠して待機!俺が突っ込むから、リアは反対の木陰から援護!」
そう言ってアカリは騎馬で駆け出す。
「やっぱ、そうなるよね…ユリアさん、馬をそっちの木に繋ぐのお願いします!」
「え、ええ」
リアは素早く馬から降りて伏せると馬をユリアに託し、木陰に向かう。
「あ、アカリさんは大丈夫なのですか?」
馬を木に繋いだユリアが心配そうに訊ねてくる。
リアが見るとユリアの背後にいる女性達も一様に不安そうにしていた。
ー そりゃそうよね、普通は女だけで盗賊に立ち向かうなんて考えられないか
一昔前なら、自分も不安に駆られていただろう。
リアは自重気味に笑うと、ユリアに微笑む。
「大丈夫、アカリは強いから。心配しないでユリアさんも早く隠れて」
そう言うと、リアは木陰に伏せて狙撃銃を構えた。
女騎士シンディ・グランダは満身創痍で襲撃者に対峙していた。
外交使節としてフェルロン王国に赴いた主人の護衛として馬車に同行していたところ、突然の襲撃に遭ったのだ。
「くそっ…奇襲とはいえ、盗賊相手にこの為体とは…」
既に自分以外の護衛は全滅、シンディ自身も利腕を負傷していた。
対して盗賊共は数人殺害したが大多数は健在だ。
シンディは視線を背後の馬車に移すと、中では主人が怯え震える姿が見える。
- お嬢様だけでも逃がせないものか…?
主人の命を救うべく脳内でシミュレーションをするが、どう足掻いても良い結果は導けない。
そんなシンディの心境を察してか盗賊共の嘲笑が聞こえてくる。
「女騎士さんよぅ、いい加減諦めてくんねーかな?アンタが死んだら、馬車の中のお嬢さんがどうなるか考えてみろよ?」
「…どういう事だ?」
「どうせ自分の命を投げうってでも〜とか考えてんだろう?んでも残念ながらアンタが死ねばお嬢さんは捕まって慰め者になるだけだ。別に俺達はそれでも構わねえ」
「き、貴様‼︎」
「話を聞けや。せっかく頭の硬い騎士さんにご主人様を救える方法を教えてやるって言ってんだ」
ニタニタといやらしい笑みを浮かべる盗賊の親玉は構わず続ける。
「アンタが捨てる命の使い方だよ。簡単だ、アンタが俺達の性奴隷になればいい。それと引き換えにご主人様の貞操を守る。良い取引だろ?」
「なっ…⁉︎ふざけた事を…‼︎」
「その馬車の中の嬢ちゃんは貴族様だろ?身代金で稼げれば充分だ。それに身代金目当てなら傷物にしない方が高値になる。…ただなあ、戦利品なしってのも勝者としては釈然としねえ。だから代わりにアンタが俺達を満足させてくれって話だ」
真面目な性格のシンディにとって盗賊が言う事はあまりに衝撃的だった。
主人の為に命を投げ出す、それは美徳だと思っていた。しかし、戦いで命を失う事は覚悟していても、まさか盗賊達に身体を許す事で主人を救うなど考えもしなかった。
シンディの動揺を見透かした盗賊は、畳み掛ける様に決定的な一言を放つ。
「まあ、アンタの主人への忠誠より自分のプライドの方が大切ってなら、このまま戦って死んどけ。お嬢さんの価値が下がっても俺達の股間はスッキリできる」
「っぐ…」
敬愛する主人と我が身、一時でも迷った罪悪感がシンディの心を壊していく。
「…絶対だ…お嬢様には絶対に手を出すな…」
「ぐひひひ…言葉遣いがなってねぇなぁ…なあ?」
「そうだそうだ‼︎頼み方ってもんがあるわな?そのデカい胸に栄養吸われて、脳が足りねぇのか?」
勝ち誇った盗賊達は口々にシンディを罵る。
「とりあえず武器を捨てて服を脱げや」
「全裸‼︎全裸で土下座だな‼︎」
「脱〜げ、脱〜げ‼︎」
「……」
決心していても本能では拒絶しているのだろう。恐怖と恥辱に手の震えが止まらなかった。
ロングコート、皮の胸当て、上着と一枚一枚が地面に落ちていき、やがて最後に残った下着を脱いだ瞬間、自然とシンディの頬を涙がつたった。
命じられた通り、全裸で土下座になったシンディは嗚咽混じりに嘆願する。
「…どうか…私の身体と引き換えに…お嬢様をお救いください…お、お願いしま…ぅあ…ぁぁ」
「ヒャハハ‼︎上出来だ、騎士さんよ。アンタが俺達をしっかり満足させてりゃ約束は守ってやる」
盗賊は土下座するシンディの頭を踏みつけ、高らかに笑った。
- これで…お嬢様は…
「よし、馬車のお嬢ちゃんを引きずり出せ!丁重にな‼︎」
「へい!」
盗賊が馬車に近づいたその時だった。馬の蹄の音が近付いてくる。
「ッ⁉︎お頭‼︎馬がこっちに来る‼︎」
「ああん?タイミング悪りぃな…面倒だ、ブッ殺せ!」
親玉の命令で一人の盗賊が近付く馬を射ろうと弓を構える。
が、彼が矢を放つ事は無かった。
「は?」
親玉が目にしたのは頭から血を吹き出しながら倒れる子分の姿だ。
「何…が…?」
理解できない事態に親玉は立ち尽くすしかなかった。
馬が嘶きと共に止まり、馬上のアカリは瞬時にアサルトライフルを構えた。
弓でこちらを狙おうとしていた盗賊は、既にリアの狙撃で無力化されている。
- 残りは七人
一人は裸で土下座をしている女騎士を踏みつけたままこちらを見ている。
- 人質を取られたら面倒だし、なんかムカつくからお前からだ
そう瞬時に判断する。
ダットサイトの照準マーカーが、唖然とした表情でいる親玉の額に合わさった瞬間、アカリの指がトリガーを引いた。
五・五六ミリの弾丸を頭部に受けた親玉は、弾かれる様に後ろ向きに倒れていく。そしてアカリは流れる様に照準を馬車に向かっていた男に合わせ、これも射殺。
立て続けに仲間が死んでいく様に、盗賊達もこれがアカリの攻撃によるものだとようやく理解し、応戦しようと剣を構えだすが、距離を取った立ち位置にいるアカリの脅威ではない。彼等は抵抗らしい抵抗をせぬまま排除されていった。
こっそり逃げようとした最後の一人が腹部を撃たれて倒れる。
「リア、聞こえる?片付いたから、ユリアさん達を連れてきていいよ。一応ゆっくり来て」
『分かったわ』
後方にいるリアに無線で指示を伝えると、アカリはまだ息のある盗賊に近寄っていく。
「おい…お前らは、この先の砦を根城にしていた山賊団の仲間?」
「ぐふっ…ち、違う…」
「そ。なら用はないな」
アカリは冷たく言い放ち、盗賊の頭部を撃った。
リサリサを奴隷商人に売った山賊団の残党なら、売り先を知っているかと考えたが違うらしい。
「…さてと、お姉さん」
「…」
アカリは生き残った女騎士を見る。
彼女は状況が理解出来ていないのか、正座で座ったまま無言で固まっていた。
「お姉さん、大丈夫?」
「…えっ…」
肩を叩かれて、ようやく自分が呼ばれていることに気付いた様だ。
「あ、ああ…私は…助かった…のか?」
「うん。盗賊は皆殺しにしたから、もう大丈夫だよ」
アカリは地面に落ちていたロングコートを拾うと、彼女の肩にかけてやる。
「…す、すまない…助かった…」
ようやく立ち上がった女騎士は、すぐさま後方の馬車に駆け寄る。
「お、お嬢様…‼︎もう大丈夫です‼︎」
扉を開けると、そこには大粒の涙を流しながら震える少女の姿があった。
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