第5話(2)それぞれ自己紹介

「……こちらです」


 大海が旧会議室に案内する。


「うむ、失礼する」


 三丸が中に入る。


「お~松っちゃんじゃないの」


 椅子に座っていた夜塚が手を振る。


「……その呼び方はやめろ」


 三丸が顔をしかめる。


「え~松ちゃんは松ちゃんじゃない~?」


「いいからやめろ」


「え~」


「梅太郎……」


「梅太郎って言わないでよ!」


「梅太郎は梅太郎だろう」


「やめてよ!」


「これで分かっただろう。自分がされて嫌なことは人にするな」


「うん……」


 夜塚が頷く。


「はあ……ガキか、貴様は……」


 三丸がため息交じりで呟く。


「ところで松……三丸隊長、何の用?」


「……本気で言っているのか?」


「えっと……疾風隊員、なにか聞いている?」


 夜塚が大海に尋ねる。大海は首を振る。


「いえ、なにも……」


「そっか」


「そっかじゃない……!」


 三丸が夜塚に顔をグイっと近づける。夜塚が戸惑う。


「ち、近いよ……」


「貴様、何も言ってないな」


「え?」


「というか、忘れているな……」


「忘れている?」


「今日は合同訓練の日だろうが!」


「ああ~」


 夜塚は両手をポンと叩く。


「……まさか本気で忘れていたとはな。出迎えもない時点でそんな予感はしていたが……」


「いや~」


 夜塚が自らの後頭部を抑える。


「褒めてないぞ」


「照れてないよ」


「多少は申し訳ないと思っているのか?」


「多少は」


「全面的に申し訳ないと思え」


「ごめんなさい……!」


 夜塚が頭を下げる。


「ふん、謝っただけマシか……」


「それで、福井の連中は?」


「せっかくだから基地内を見学させている。さきほど連絡を入れたから間もなく来るだろう……言っているそばから来たな」


 福井の第四部隊のメンバーが旧会議室に入ってくる。大海たちと向かい合うように並ぶ。


「それじゃあ、本日は合同訓練ということで……まずはお互いに自己紹介しようか。ボクは夜塚梅太郎。一応石川の第四部隊の隊長だ。よろしくね。そして……」


「疾風大海です!」


 大海がビシっと敬礼をする。


「ううっ、怖そう……」


「あの程度の威嚇でビビらないの、陸人くん……」


 陸人と花が囁き合う。敬礼を解いた大海が二人に話しかける。


「あの……」


「はい?」


「私は元々こういう顔立ちです。威嚇の意図はありません」


「あ、あら、おほほ、これは失礼!」


 花が口元を抑えて笑う。


「星野月です!」


「か、かわいい……痛っ!」


 竜の足を蘭が踏みつける。


「鼻の下伸ばしてんじゃねえよ、竜……」


「す、すみません……」


「古前田慶です」


「こ、怖そう……」


「ビビり過ぎよ、陸人くん」


「だって、スキンヘッドだよ? バリバリ気合入っているよ?」


「坊主の家系だからだよ……」


「き、聞こえていた!」


「これは重ね重ね失礼!」


 花が頭を下げる。


「それではこちらの番だな、ワタシは三丸松。福井の第四部隊の隊長だ。よろしく頼む」


 三丸が一応敬礼した後、隊員たちを促す。


「あ、つ、氷刃陸人です……」


「今にも泣き出しそうだぜ……」


「というか泣いていますよ」


 慶の小声での呟きに月が反応する。


「宇田川花です! よろしく!」


「こっちは元気が良いな。強気な眼鏡っ娘というのもポイント高い……」


「それをアタシに言ってどうリアクションしろと?」


 月が冷ややかな視線を慶に向ける。


「う、宇田川竜です。よ、よろしくお願いします……」


「双子でいらっしゃいますか」


「ええ、ちなみにワタクシが姉です」


 大海の問いに花が答える。


「お、弟です……」


「弟くんは気弱そうだな……」


 慶が竜の様子を見て呟く。


「アタイが志波田蘭だ! よろしくな!」


「ツインテール娘ですよ……」


 月が慶に囁く。


「ルックスやスタイルは悪かねえが、一人称がアタイって言うのがな……」


「オイラもどうかと思いますけどね……」


「え? なんだって?」


「なんでもありませんよ」


 月が首を左右に首を振る。夜塚がポンと両手を合わせる。


「自己紹介も終わったところで、親睦を深めるためにレクリエーションでも……」


「子供の遊びじゃないんだ、さっさと訓練ポイントに行くぞ……」


 三丸が夜塚をギロっと睨む。


「わ、分かっているよ。それじゃあ、早速出発しようか」


「一服したらな……」


「マ、マイペースだな……人のこと言えないけど」


 喫煙所に向かう三丸の背中を夜塚が苦笑いで見つめる。

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