第12話(4)陸海空の共闘

「くっ……」


「これでおしまいだ……」


 夜塚たちが水仙に迫る。


「ま、待て……!」


「待たない」


「待つわけがないだろう……」


 夜塚が即答し、三丸が呆れ気味に呟く。


「これ以上は無駄な抵抗ですよ」


 深海が告げる。


「ど、どうするつもりだ……?」


「身柄を確保し、今回のことを上層部に報告・諮問し、しかるべき処分が下されるのを待つ……まあ、大体、そういった流れでしょうね……」


 水仙の問いに対し、深海が淡々と答える。


「ふふふっ……」


「なんだ、何がおかしい?」


 笑う水仙に対して三丸が首を傾げる。


「いや、抵抗した場合はどうなるのかな?」


「さっきも梅太郎……夜塚隊長が言ったように討伐対象として討伐させてもらう」


「出来るかな?」


「出来るさ。はっきり言って貴女の戦闘能力ではもはや我々にとって話にならん」


「お世話になった先輩じゃないの?」


「そういった温情をかけるほど甘くはない後輩だということは知っているほどだ……」


「ふふっ、ふふふっ……」


 水仙が俯いて再び笑い出す。


「……とうとうおかしくなったか?」


 三丸が訝しげに首を捻る。


「……ああ、とってもおかしいねえ……隊長殿たちの詰めの甘さがさ……」


「なんだと?」


「来い!」


 水仙が顔を上げて、叫ぶと、まだ一体残っていた、大海たちと対峙していた巨大な影が方向転換し、水仙の方に勢いよく飛んでくる。深海が驚く。


「なっ……⁉」


 巨大な影が水仙と融合する。巨大な影が水仙の声で喋る。


「はははっ! 討伐対象だと気が付いたまでは良かったけどねえ、梅太郎!」


「自身がイレギュラーと化すか……なるほど、勘が鋭いとはこういうことだったか……」


 夜塚が渋い表情を浮かべる。


「さあ! ここからが本番だよ!」


 水仙が声を上げる。


「威勢の良いのは結構だが、さっきも言った通りだ!」


 三丸が飛び上がる。


「おっ?」


「絶対的な戦闘能力の差がある!」


「それはどうかな!」


「ぬおっ⁉」


 水仙が三丸を殴り飛ばす。三丸が地面に激しく打ち付けられる。


「み、三丸隊長!」


「それなりに訓練は受けているさ……さらにイレギュラーの力がプラスされて、戦闘能力の差は皆無と言っていい……いや、むしろあたしの方が凌駕しているかもね?」


「くっ……」


「ならば!」


「そうはさせないよ……!」


「! ぐっ……な、なにを……」


 深海が自らの側頭部を抑えてうずくまる。


「電脳戦で、この中にある戦闘機の計器類などをいじろうとしたんだろう? だからちょっとばかりお返しをね……」


「お、お返し……?」


「アンタの脳内に処理しきれないほどの情報を流し込んでやった」


「そ、そんなことが……?」


 水仙の言葉に深海が戸惑う。


「ははっ、出来るんだな、これが。アンタの様な奴との戦いも想定しておいたからね……」


 水仙が笑い声を交えながら語る。


「……」


「おっと、そうはさせないよ!」


「なっ……⁉」


 印を結ぼうとした夜塚の眼前に迫った水仙が夜塚を殴りつける。夜塚は吹っ飛ばされる。


「陰陽術は確かに厄介だが、印を結ばせなければ済むだけのこと……イレギュラーのスピードなら、抜け目ないアンタを出し抜くことだって可能さ……」


「ぐっ……」


「まあ、こちらもまだ完全というわけじゃないんだが……さっきのツインアタックやトリニティアタックの連発で力を消耗してしまったアンタたちも万全じゃないね……奥の手を出すのが少しばかり早かったね……」


 水仙が淡々と語る。


「奥の手はまだある……!」


「なに……?」


 水仙が声のした方に視線を向けると、そこには大海と天空、陸人が立っていた。


「まだ私たちがいます!」


 大海がそう言って剣を構える。


「はっ! そういえばまだアンタらが残っていたか……」


「そうです!」


「あまり期待の持てない奥の手だね……」


「な、なにを……!」


「だって、そうだろう? アンタらがさっさとこの影を始末しておけば、あたしとの融合は無かったんだ……より強力になったあたし……この巨大な影に勝てる道理がどこにある?」


 水仙が大海に問いかける。


「……」


「おや? 返す言葉もないのかい?」


「……攻めあぐねたのはまぎれもない事実です」


「はははっ、案外素直だね~」


 大海の返答に水仙が笑う。陸人が口を開く。


「ト、トリニティアタックが上手く発動しなくて……」


「へえ、ブレスレットの不調か……? ここに来て運が無いね~まあ、それはあれだ……」


「あ、あれ?」


「君たちが“持っていない”っていうことだよ」


「も、持っていない⁉」


 陸人が涙目になる。天空が笑みを浮かべながら話す。


「それをまだ判断するのは早いんじゃない? 影のオバさん」


「オ、オバさん⁉」


「あれ? 違った? じゃあ、カバさん」


「略すな! 大体、あたしはまだそんな年齢じゃない!」


「そんな姿になっちゃあよく分からないよ~」


「生意気な……これはお仕置きが必要なようだね……」


「こっちも隊長たちの借りを返させてもらうよ……」


 天空が珍しく真剣な声色で呟く。


「色々と試すとするか……」


 巨大な影が大海たちに向き直る。大海が首を捻る。


「……試すだと?」


「こういうことさ!」


「……!」


 巨大な影が巨大なワニと化す。


「形状が変わった⁉」


「へえ、そういうことが出来るのか……」


 驚く陸人の横で天空が頷く。


「ふん!」


「うおっと!」


 巨大なワニが前傾姿勢になり、鋭い爪を振るう。天空たち三人が後方に飛んでなんとかその攻撃をかわす。水仙の笑い声が漏れる。


「ははっ、そっちに飛んでかわすと思ったよ!」


「なにっ⁉」


「……ふん!」


「どわあっ⁉」


「うおおっ⁉」


 巨大なワニが尻尾を振る。その尻尾の攻撃を受けて、大海と天空が横に吹っ飛ばされる。


「大海くん! 天空くん! ふ、二人とも、大丈夫⁉」


「う、受け身を取ったのでなんとか……」


「ってか、陸人っち、よく今のをかわしたね?」


 天空が陸人に問う。陸人が恥ずかしそうに鼻の頭をポリポリと掻きながら答える。


「い、いや、最初に爪の攻撃をかわした時点で、足がもつれてバランスを崩しちゃって、尻尾がたまたまその上を通過しただけというか……」


「……持っているじゃん♪」


「え?」


「大海っぴ、ここは陸人っちに乗ってみるのが吉だと思うよ?」


「私も同感です。氷刃隊員、指示をお願いします!」


 立ち上がった大海が剣を構えて陸人に指示を仰ぐ。


「ええっ⁉ そ、そうだな……大海くん、相手を引き付けて!」


「了解!」


 大海が巨大なワニの前に躍り出る。巨大なワニがそれに反応する。


「ふふっ、不用意に前に出て! まずはアンタから餌食にしてやる!」


 巨大なワニが大きな口を開く。陸人が声を上げる。


「天空くん、上あごを抑え込んで!」


「よっしゃあ!」


「な、なに⁉ う、動けん⁉」


「ワニは口を抑えられると身動き出来ない、噛む力に対して口を開く力が弱いから……!」


「!」


 陸人の正確な射撃が巨大なワニの眼などを撃ち抜く。


「おのれ!」


 巨大なワニが戦闘機の形に変化して飛び上がる。


「お、おいおい!」


「空を飛んだ⁉」


 天空と大海が面食らう。


「あれほどデカい的なら動いていても当てられる!」


「おおっ、頼もしいぜ、陸人っち!」


「舐めるなよ!」


 戦闘機が巧みな旋回飛行で陸人の射撃を華麗にかわす。


「あ、あれ……? お、おかしいな……?」


 陸人が首を捻る。


「『持っている』タイム終了のお知らせかな……」


「ひ、酷くないっ⁉」


 陸人が涙目で天空の呟きに反応する。


「食らえ!」


 戦闘機が大海たちに向かって銃撃を行う。


「なんの!」


「なっ……⁉」


 銃弾の雨霰を大海が次々と斬って捨ててみせる。水仙の唖然とした声が漏れる。


「神業だな! 大海っぴ!」


「雷電隊員、お褒めに預かり光栄です。しかし、さすがにいつまでも続きません……」


「ならば!」


 陸人の正確な射撃が銃口を射抜いた。水仙が愕然とする。


「じゅ、銃口がお釈迦に⁉ な、なんて精度の射撃……!」


「よし! これで汚名挽回だね!」


「……汚名は返上するものですよ」


「うっ……」


 大海の冷静な指摘に陸人は顔を赤らめる。天空が笑う。


「はははっ! いまいち決まらないな~陸人っち! そらっ!」


 天空が地面を殴り、砕け飛んだいくつかの土塊を利用して、戦闘機と同じ高度に達する。


「な、なんだと⁉ つ、土塊を足場代わりに……! ど、どんな離れ業だ!」


「やってみたら出来た♪」


「そ、そんな馬鹿な⁉」


「うおりゃあ!」


「‼」


 天空の繰り出した拳と蹴りが戦闘機にことごとく命中する。


「お、おのれ!」


 戦闘機が鬼の姿に変化する。


「今度は鬼か!」


 地上に着地した天空がすぐさま向き直る。


「むん!」


 鬼が金棒を振り回す。陸人が呟く。


「ふ、風圧だけでも飛ばされてしまいそうだ……」


「ふふっ、段々と馴染んできたわ!」


 水仙が声を上げる。


「名実ともに鬼ババアってことだね♪」


「だ、誰が鬼ババアだ!」


 天空の言葉に水仙が怒り、金棒を高々と振りかざす。陸人が慌てる。


「て、天空くん、煽ってどうすんのさ⁉」


「いや、むしろありがたい……!」


「ええっ⁉」


 陸人が大海の呟きに耳を疑う。鬼が金棒を振り下ろす。


「むうん!」


「はあっ!」


「⁉」


 大海が振るった剣が鬼の体に大きな傷をつける。鬼が金棒を落とす。


「上段の構えを取ってくれた。闇雲に金棒を振り回されるよりは後の先……カウンターを取りやすくなりました……」


「……うん、狙い通りだね」


「ぜ、絶対嘘だ!」


 天空に陸人が突っ込みを入れる。


「お、おのれ! 調子に乗るなよ!」


 水仙が咆哮する。巨大な影が勢威を増す。大海が左腕をかざす。


「ならばこれです! 雷電隊員、氷刃隊員!」


 大海の声に応じ、天空たちも腕をかざす。三人を同じ色の光が包む。陸人が驚く。


「! こ、ここにきてトリニティアタックが発動した⁉」


「よっしゃ! この思い浮かんだ感じで行こうか!」


 大海と天空が突っ込み、陸人がそれに合わせて銃弾を放つ。大海たちの体と銃弾を眩い光が包み込み、大きな光の塊になる。大海が叫ぶ。


「うおおおおっ! 『真剣拳波』‼」


「ば、馬鹿なあああ⁉」


 水仙の叫び声と共に巨大な影が霧消する。ゲートも閉じる。能登半島での戦いは終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る