今後……
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「……では、夜塚隊長は水仙一子がまだ生きているとお考えなのですね?」
リモートで行われている会議で深海が問う。
「ああ、あれで終わりだとはボクにはどうしても思えないからね……」
モニター画面越しに夜塚が頷く。
「それについてはワタシも同意見だな……」
三丸も首を縦に振る。深海が尋ねる。
「三丸隊長も何か引っかかることがあるのですか?」
「奴はまだ完全ではない……などと言っていただろう。あれはいわゆる完全体の姿というのも残しているということではないか?」
「そういえば確かにそんなようなことも言っていましたね……」
深海が腕を組んで頷く。夜塚が口を開く。
「逆の可能性も考えてみたんだけど……融合出来るなら分離だって出来るはずじゃない?」
「なるほど、疾風隊員たちのトリニティアタックを食らう直前に影と分離したと……」
「そういうこと……どうかな?」
「……まあ、まったく無い話ではないでしょうね……」
深海がさらに頷く。
「死体が見つかってないというのも気にかかるな……」
「そう。あのイレギュラーと一緒に霧消したとはどうしても考えにくい。人間なんだから普通は何らかの痕跡があってもいいはずなんだよ」
三丸の呟きに夜塚が反応する。深海がやや間をあけてから話す。
「……今後も水仙一子が暗躍する可能性はあるということですね?」
「杞憂に終われば良いんだけど、その辺も十分に考慮しておいた方が良いと思うね」
深海の問いに対し、夜塚が苦笑交じりに答える。三丸が尋ねる。
「水仙の研究データから何か分かったのか?」
「残念ながらほとんど消されてしまっていましたが……どうやらゲートの仕組みに関する謎の解明にある程度はたどり着いていたみたいですね……」
「何? ゲートの仕組みについて解明したというのか?」
三丸が驚く。深海が静かに手を左右に振る。
「もちろん、まだまだ仮説の域を出ていませんが……ゲートというものは時空や次元を超えた別の世界と繋がっているという類の結論に達したようですね……そして、こちらからも向こうの世界に行けるのではないかという趣旨のことも書き残していましたね……」
「……ゲートの持つ魔力のようなものに憑りつかれてしまったのかな。それとも……」
「それとも……なんでしょうか?」
「いいや、今はやめておこう……それじゃあ、ちょっと出張なんで、この辺で失礼するよ」
夜塚がリモート会議から抜ける。隊長三人は現在それぞれ多忙を極めている。
♢
「それそれ! どうしたどうした! そんなもんか!」
蘭が竹刀を片手に自転車を漕ぎながら、グラウンドを走る竜を激しく追い立てる。
「はあ、はあ、はあ……ぼ、ぼくは分析担当なので、ここまで体力を付けなくても……」
「ツインアタックやトリニティアタックでそれなりに消耗するだろう? 体力を付けておくに越したことは無えんだよ! ほれほれ、後たったの百周だ!」
「そ、それはたったとは言わないですよ……鬼だ、鬼がいる……」
「あ~あ、大変だな、代われるもんならばオイラが代わってやりてえよ……」
窓から外を眺めていた慶が苦笑交じりに呟く。慶の前に座る葉がキッと睨みをきかせる。
「貴様は体力だけは十二分に有り余っているだろうが。いいからさっさと手を動かせ……」
「いや、だからって、なんで写経なんだよ⁉」
「忍耐力や集中力を高めるためだ……貴様が補う必要がある点だからな。目標一千万字だ」
「い、一千万字……なんだか悟りを開いてしまいそうだぜ……」
葉に促されながら、慶は渋々と筆を執る。別室では女子三人がテーブルを囲んでいる。
「……それでどうなのよ? 雪ちゃん?」
「どうなのよとは?」
雪が月に問い返す。月が笑う。
「またまた~分かっている癖に~」
「月ちゃんは顔を合わせるたびにそういう話ね……」
「そりゃあ、女子が集まれば自然とそういう話になるものでしょうよ」
月が悪戯っぽく笑みを浮かべる。雪がため息まじりに淡々と呟く。
「別に……いつも通りよ、あいつは超のつくマイペース野郎だから……」
「あらら~そうか~う~ん、難しいわね~」
「雪さん……恋に効く魔法があれば良いのにな……と思っていますね?」
「花ちゃん、別にそういうロマンティックなことは思っていないわよ……」
「ええ? 思っていないのですか?」
花が意外そうな表情をする。雪が戸惑う。
「そんな意外そうにされるのが意外だわ……それで月ちゃんはどうなの?」
「いやあ、あの朴念仁はね~本当に、まったくどうしようもないっていうか……」
月がテーブルに頬杖を突き、ムスっとする。花が笑みを浮かべる。
「ああいうストイックなところは良いなと思いますが……」
「ストイック過ぎるのも考えものなのよ~。その点、花ちゃんが羨ましいわ~」
「ええ? ワ、ワタクシが羨ましいのですか?」
「そうね、ちゃんと尻に敷いているからね……見習いたいところだわ……」
「このご時世どうなのでしょう……というか、そのように見られていたのですね……」
どこか羨望の眼差しで見てくる月と雪に花は眼鏡の縁を触りながら困惑する。
♢
「ぶえっくっしょん⁉」
ある場所にいる天空が盛大にくしゃみをする。側に立っていた陸人が驚く。
「うわっ……は、はい、ティッシュ……」
「おお、サンキュー、陸人っち……う~ん、誰かが僕の噂でもしているのかな……?」
「季節の変わり目ですから、風邪でもひいたのではないでしょうか?」
「大海っぴ、冷静なことを言うね……」
「……まあ、天空に限って、それはあり得えないかもしれないですね」
「……どういう意味? なんか、最近よそよそしさと遠慮が同時に無くなってきたね?」
「……パターン黒、影です……危険度はCです」
通信機から女性の冷静な声が聞こえてくる。天空が首を傾げる。
「う~ん、これは各地のリーダー三人がわざわざ集まる必要は無かったんじゃ?」
天空の視線の先の空間には黒い大きなゲートが開いており、そこから黒く小さな影が現れた。影は地上に降り立った後、しばらくよちよち歩きのような動きをしていたが、急に大きい四足歩行の獣のようになる。通信の声がやや緊張したものになる。
「危険度がBに上昇……!」
「陸人、頼みます。君の射撃は良い牽制になりますので」
「えっ! お、俺? ……わ、分かった……よっと!」
陸人の射撃が獣と化した黒い影の頭部を中心に射抜く。黒い影は動かなくなる。
「全弾命中……相変わらず正確な射撃ですね。これで動かなくなりましたね……」
「……うん……だけど、そう簡単にはいかないようだよ……」
陸人が指し示すと、影が姿を変化させて、獣よりは小さめな人型の姿に変化する。
「それならば、僕が! おらおらおらっ! もう一つおまけにそらっ!」
天空が影の胸部を何度も殴りつけて、最後には強烈な回し蹴りをお見舞いする。吹っ飛ばされた黒い影は再び動かなくなる。大海が苦笑交じりに呟く。
「頭部がダメならば胸部……見事な判断です。指示をしてからにして欲しかったですが」
「めんごめんご、ついつい楽しくなっちゃってさ……うんっ⁉」
黒い影が形状を化物のように変化させ、大海たちに迫ってくる。
「はあああっ!」
大海が刀で影を斬り捨てる。影が霧消する。天空が感心しながら頷く。
「そうか、単純に首を刎ねれば良かったんだね。それにしても見事な剣さばきだね」
「私は満足しておりません、これからもまだまだ精進あるのみです!」
「……珍しい影と遭遇したことも含めて、こうして三人で集まったのは良かったと思うよ」
「これからは各々隊長代理となるわけですから、より一層気を引き締めていきましょう!」
陸人の言葉に頷いた大海が力強く宣言する。
~第1章完~
※(23年12月16日現在)
これで第1章が終了になります。次章以降の構想もあるので、再開の際はまたよろしくお願いします。
【第1章完】ゲートバスターズー北陸戦線ー 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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