第12話(2)両手に華、もとい、花と雪
♢
「十時の方向から敵が接近!」
花が周囲に告げる。
「き、来た!」
巨大な影が迫ってきたことに竜が怯える。
「怯えている暇があったら分析をしなさい!」
花が竜を叱りつける。
「う、うん……!」
「どうなのよ⁉」
「そ、そんなにすぐに分析は出来ないよ!」
「一刻を争うのよ!」
「分かっているよ!」
花と竜が言い合う。月が声を上げる。
「あ~もう! 姉弟ケンカは後でいくらでも出来るから!」
「! し、失礼……」
「ご、ごめんなさい……」
花と竜が揃って頭を下げる。月が慌てる。
「い、いや、分かれば良いんだけど……」
「……それで? どうなのでしょうか?」
やや間を置いてから雪が冷静に尋ねる。
「ああ、分かりましたよ、ある程度ですけど……」
「構いません。それでも充分です」
雪が頷く。
「あれは!」
竜が巨大な影を指差す。
「あれは……」
「鬼の影と、戦闘機の影、そして、巨大なワニの影が融合した影です!」
「……」
「………」
「…………」
「あ、あれ?」
花と月と雪が黙り込む。竜が首を傾げる。
「そんなことはとっくに分かっているのよ!」
花が声を上げる。
「ええっ⁉」
竜が驚く。
「こっちがええっ⁉よ! そんな分かりきったことを……!」
「い、いや、確認! 確認だから!」
「呑気に確認している場合⁉」
「いやいや、確認は大事でしょうが!」
竜が言い返す。
「オッケー、確認は済んだわ。それで?」
月が尋ねる。
「あの影は戦闘機としての特色が色濃く出ています」
「そうなの?」
「ええ」
竜が頷く。月が首を傾げる。
「そうは見えないけど……うわっ⁉」
月が驚く。戦闘機のように翼を広げ、空を舞い、巨大な影が銃撃をしてきたからである。
「こ、これは……!」
花が戸惑う。雪が声をかける。
「皆さん、わたしの近くに来てください!」
「えっ……」
「早く!」
「う、うん!」
「はあっ!」
雪が両手を掲げる。銃撃を跳ね返す。月が再び驚く。
「! 銃撃を防いだ⁉」
「ええ、魔法で防護壁を築きました!」
「す、すごいわね……魔法万能過ぎる……」
「とはいえ、万全ではありません! いつまでも耐えられるわけでは……!」
「あら、そうなの?」
「そうです!」
「それは参ったわね……」
「今の内に対策を練らなければ……!」
花が竜に視線を向ける。
「う、うん……!」
竜が頷く。雪が顔をしかめる。
「……銃撃が激しくなってきました。これ以上は厳しいかも……」
「……分かった、これで行きましょう! 皆さん……」
「……やっぱそれしかないわよね……」
龍の説明を受けた月が苦笑する。
「……今です! 宙山隊員! 防護壁を解除してください!」
「分かりました!」
花の言葉に従い、雪が両手を下ろすと、防護壁が消える。竜が続けて指示を出す。
「宙山隊員! 影に向かって、風の魔法を放ってください!」
「ええ、分かりました!」
「!」
雪が強風を吹かせ、巨大な影の銃口のような部分がひしゃげる。花が頷く。
「よし、『魔之分析』、上手く行ったわ! 次は星野隊員!」
「ええ、カメラも付けたわ!」
「結構! ……今です! 飛んでください!」
「それっ!」
花の指示に従い、月が高く舞い上がる。月の付けているカメラの映像を花と竜が確認する。
「……どう⁉」
「……今向いている方向に矢を射ってください!」
「了解!」
「‼」
月の射った数本の矢が巨大な影を射抜く。巨大な影の飛行が少しふらつく。
「おおっ! 翼の辺りと、機体の重心がかかる部分を一気に射抜いた! お見事!」
「『空之双眼』も上手く行ったわね!」
竜と花が揃ってガッツポーズを取る。
「グオオオア……」
「それでもまだ飛んでいる! あれ⁉ アタシもまだ飛んでいる⁉」
月が不思議そうに周囲を見回す。花が声をかける。
「星野隊員、さっき打ち合わせたばかりでしょう! 宙山隊員の魔力補助によって滞空時間を伸ばしているんですよ!」
「あ、そ、そうか、忘れていた……『魔法跳躍』か……」
月が恥ずかしそうに後頭部を掻く。花が今度は雪に遠慮がちに声をかける。
「宙山隊員、負担をかけることになりますが……」
「大丈夫です!」
「それではお願いします!」
「星野隊員、矢を放ってください!」
「ええ……それっ!」
「⁉」
月の放った矢は不可思議な軌道を描いて巨大な影を射抜く。巨大な影は飛行を続ける。
「くっ! 宙山隊員の追尾魔法を矢に込めて、エンジン部分を射抜いたのに……!」
花が空を見上げながら地団駄を踏む。
「……ただ、飛行はよろめいている、効いていないわけではないみたいだよ」
竜が冷静に分析する。花が感心する。
「ここにきて落ち着いているわね……」
「変に感心しないでよ。そりゃあ少しくらいは落ち着いてくるさ」
「グオオオアア……」
巨大な影が上空を旋回する。雪が首を傾げる。
「攻撃手段を模索している……?」
「よっと! あ、珍しく着地が上手くいったわ……」
月が呟く。その近くで花が竜に問う。
「何か対策はない?」
「……これしかないかな」
竜が左腕に付けたブレスレットをかざす。
「トリニティアタックね……」
花が頷く。月がまた苦笑する。
「これはまた……ぶっつけ本番ね……」
「よし……三人とも聞いてください……これで行きましょう!」
竜が三人に声をかける。花が雪に問う。
「宙山隊員、大丈夫でしょうか?」
「ええ、問題ありません」
雪が首を縦に振る。竜が頷く。
「よし、タイミングは花ちゃんが見計らって……あ、あれ⁉」
「今です!」
「それっ!」
月が雪と花を抱えて空高く飛ぶ。竜が驚く。
「い、いや、花ちゃん⁉ そこはぼくが一緒に飛ぶところで……!」
「竜の癖に両手に華とか生意気過ぎるのよ!」
「この場合、両手が塞がっているのはアタシだけどね……」
花が声を上げる横で、月がまたまた苦笑する。
「男性が混ざるよりは、女性二人の方がやはり幾分軽いですね……」
滞空時間を長くする魔法を使っている雪が笑みを浮かべる。
「エンジンが駄目なら、こちらはどう⁉」
花が銃でコックピットあたりを射抜く。巨大な影は霧消する。雪が声をかける。
「お見事です!」
「陸人くんほどじゃないけど、射撃はそれなりに訓練しているので……」
「『跳花雪月』……上手く行った、コックピットが弱点って見抜いたのぼくだけど……」
上空を見上げる竜がやや不満げな表情を浮かべながらもとりあえず頷く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます