第6話(1)早朝の遭遇
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「ふあ~あ」
福井の基地で天空が大きくあくびをする。
「ちょっと、天空……」
「うん?」
「うん?じゃないわよ。みっともないでしょ、そんな大きなあくびをして……」
雪が顔をしかめる。
「だって眠いんだもの」
「だってって……」
「いくらなんでも朝出るの早過ぎだって……」
「しょうがないでしょう」
「むしろさ、雪っぺ……」
「え?」
「僕が朝ちゃんと起きれたことを褒めて欲しいくらいだよ」
「何を馬鹿なことを……」
雪が呆れる。
「馬鹿かな?」
「子供じゃないのだからちゃんと起きられて当たり前でしょう」
「う~ん……」
天空がまぶたをこする。
「……一応褒めておこう」
二人の前を歩く葉が振り返って告げる。
「葉さん、あざ~す」
天空が軽く頭を下げる。
「佐々美さん……」
「十中八九遅刻するだろうと思っていたからな」
「……甘やかし過ぎでは?」
「わざわざ男子寮まで起こしに行く奴には言われたくないな」
葉が笑みを浮かべる。
「びっくりしたよ~基本立入禁止なのに入ってこようとするんだもん……」
天空が首をすくめる。
「あ、あれは念の為!」
「モーニングコールとかで良いじゃん~」
「そ、それでも念には念をよ!」
「まあ、そういうことにしておくか……」
葉が苦笑する。
「でもさ、他の基地ってなんだか新鮮だね~」
「そ、それはそうね!」
天空が話題を変えたことに雪は全力で乗っかる。
「まあ、そうそう来ることはないからな……」
葉が周囲をきょろきょろと見回す。
「どこも似たようなもんだと思っていたけど、造りが結構違うのが興味深いね~」
「確かにそうね」
雪が頷く。
「地域によって出現するイレギュラーの種類は微妙に異なるからな……」
「あ~我が富山県だったら悪機!」
「石川県だったら妖魔……」
「そして、この福井県の場合は巨獣だ。もちろん例外もあるが、概ねそんな感じの分布だな」
「……それが何か関係が?」
雪が尋ねる。
「迎撃の際に、要する武器が変わってくるだろう……」
「げ、迎撃? 基地でですか?」
「ああ、そうだ」
葉が頷く。
「そ、そんなケースは今まで無かったのでは?」
「これからも無いという保証は無いだろう」
「そ、それはそうですが……」
「準備はしておくに越したことはない」
「ふむ……」
「っていうか、そもそもイレギュラーってなんなの?」
天空が素朴な疑問を口にする。
「それが分かったら誰も苦労はしていない……」
「あ、そっか~」
葉の答えに天空が頷く。
「でも、不思議ですよね……これだけ研究していても、まだ詳細は分からないなんて……」
「本当に研究してるの~?」
「いや、それはしているでしょう」
雪が応える。
「じゃあ、なんでおんなじ穴から、違うのが飛び出してくんの?」
「そ、それは……」
「あいつらおんなじところから来てんの?」
「わ、わたしに聞かれても分かんないわよ」
天空の続け様の質問に雪が戸惑う。
「……その辺は、お前らの隊長が詳しいんじゃないか?」
「!」
三人が声のした方に目を向けると、三丸が立っていた。
「思ったより早い到着だな」
「し、失礼しました!」
葉に合わせ、雪と天空も敬礼する。三丸が手を左右に振る。
「ああ、いい、そういう堅苦しい挨拶は……」
「しかし……」
「お前らの隊長はどうした?」
「えっと……」
雪が鼻の頭をこする。
「乗り物酔いで休んでいます!」
「ちょ、ちょっと、天空!」
雪が慌てる。天空が首を捻る。
「どうかした?」
「もうちょっと、なんかこう、オブラートに包むというか……」
「正直に言った方が良いっしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「上官が乗り物酔いとは……仕方がないな……」
「集合時間ぎりぎりまで一服している人に仕方がないとか言われたくありませんよ……」
深海が現れる。
「おっ、来たか」
「来たかじゃないですよ。出迎えにも来ないで……」
「場所は指定しただろう?」
「指定場所と違う気がするのですが」
深海が周囲を見回す。
「ここがちょうど良いんだよ」
「ちょうど良い?」
「ああ……着いたか」
「ふああ~!」
「し、死ぬ……!」
陸人と竜がその近くでへたり込む。
「ちょうど朝のマラソンの時間が終わる頃あいだったからな……」
「マ、マラソン……この基地所属じゃなくて良かった~」
天空が胸をなで下ろす。
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