第10話(2)敦賀湾付近にて
「……隊長、見ねえな?」
「会議に出かけています」
蘭の問いに花が答える。
「聞いてねえぞ?」
「聞いてないからです」
「あん?」
「ちゃんとおっしゃっていました。貴女がきちんと聞いていないからです」
「ちっ……」
蘭が舌打ちする。竜が話題を変えようとする。
「い、一体どこに行ったんだろうね?」
「それも秘密だそうよ」
「ふ、ふ~ん……」
「会議なんて今時リモートでも充分だろうに」
「対面を要するほど重要なものなのでしょう」
蘭の言葉に花が応える。
「重要ねえ……」
蘭が顎をさする。
「……」
陸人が部屋の片隅で端末をじっと眺める。
「……陸人くん、さっきから何を見ているの?」
花が歩み寄って尋ねる。
「え? い、いや、なんでもないよ!」
陸人が端末を慌てて隠す。
「なんで隠すのよ……?」
「エロい動画でも見てたんじゃねえのか?」
蘭が笑う。
「み、見てないですよ!」
「陸人くん……」
「み、見てないって!」
睨んでくる花に陸人は否定する。
「陸人くん、ぼくの端末で課金は止めてくれよ!」
「だ、だからそういうのは見てないって!」
陸人が竜に対して声を上げる。蘭が苦笑する。
「いくら待機中でヒマを持て余しているからってよ……」
「い、いや、そういうのは普通自室で一人の時見るでしょ⁉ あ……」
陸人が「しまった」というように口元を抑える。
「……やましいことが無いなら見せなさい」
花が目を細めながら端末を要求する。
「はい……」
陸人が端末を差し出す。花がそれに表示されている画面を見る。
「これは……」
「変な動画じゃないでしょう?」
「何故これを?」
「隊長に言われて……」
「隊長に?」
花が首を傾げる。
「うん、イメージを膨らませておけって……」
「イメージを?」
「恐らくぶっつけ本番になるだろうからってさ……!」
陸人たちのアラームが鳴る。部屋に三丸が入ってくる。
「今戻った……」
「隊長!」
「……知っての通り、福井基地の他の隊はみんな出張っている。今動けるのはこの隊だけだ。出動するぞ!」
「了解!」
三丸の号令で陸人たちが出動する。
「……さて、敦賀湾に来たが……あれがゲートか」
現場に到着した三丸がゲートの存在を確認する。
「まもなくイレギュラーが出現します!」
通信が入る。その言葉通り、大型トカゲのような影が出てくる。三丸が目を細める。
「あれは……」
「パターン青、巨獣です!」
「確認した。討伐に当たる……!」
通信に応えた三丸が陸人たちの方に向き直る。
「隊長、あれは……!」
花が指を差す。
「ああ、黒部ダムで見かけたやつと同種のやつだろう」
「ということは……⁉」
「そういう事態もあり得るな……とにかく今は連中の討伐だ。宇田川竜隊員、分析を急げ」
「は、はい! 数が多いですが、動きはそれほど速くありません! 一体ずつ確実に討伐していくべきかと!」
「うむ……志波田隊員、氷刃隊員!」
「はっ!」
「は、はい!」
「氷刃隊員が銃撃で足止めを! 止まったやつから志波田が順に叩け!」
「りょ、了解しました!」
陸人が正確な射撃で大型トカゲの影の動きを次々と止める。
「よっしゃあ!」
蘭が飛び込み、金棒を振るって、影をどんどんと叩いて霧消させる。
「よし、いいぞ!」
「新たにゲート開放反応確認!」
「む!」
「やはり……」
付近に二つのゲートが開き、バイクの影と火の玉の影が現れる。
「パターン黄、悪機です!」
「パターン赤、妖魔です!」
「数が多い!」
花が声を上げる。
「落ち着いて対応しろ!」
「そ、それにしても!」
「こ、この数は……」
「大型トカゲの影も増えてきています!」
三丸の指示に花と陸人と竜が戸惑う。
「……大丈夫だ、手は打ってある」
「え?」
「現着しました……」
「来たよ~」
「ふむ……」
「‼」
陸人たちが視線を向けると、深海率いる富山隊と夜塚率いる石川隊が駆け付けていた。
「は、速い⁉」
「臨時の合同訓練を呼び掛けておいたのが功を奏したな……」
驚く竜の横で、三丸が満足気に頷く。
「へへっ! こいつは盛り上がってきたな!」
「三丸隊長! 号令を!」
蘭が笑い、花は指示を仰ぐ。
「ああ、三隊合同任務だ!」
三丸が声を上げる。石川隊、富山隊、福井隊の三隊、再びの揃い踏みである。
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