第7話(4)三県の会議
♢
「準備はいいかな?」
長い黒髪を後ろで丸くまとめ、おでこを出した黒縁眼鏡が特徴的な女性がパソコンのモニターに語りかける。モニターには三つのリモート画面が表示されている。
「良いです……」
三丸が頷く。
「あ、夜塚隊長がまだです……」
深海が呟く。
「……まさか、サボりってことはないだろうね?」
女性が笑みを浮かべる。口元は笑っているが、目は笑っていない。
「それは無い……とも言い切れませんね」
三丸が顎をさする。
「いや、さすがにリモートは繋いでいるようですから……トイレですかね?」
深海が首を傾げる。
「優雅にバスタイムだったりしてね」
「無いとも言い切れませんね」
女性の言葉に三丸が同調する。
「あ~モニターを水没させたかもしれませんね……」
深海が腕を組みながら呟く。
「いやいや、リモート画面の調子がおかしかっただけですって……」
夜塚が画面上に現れる。
「む、服を着ているな……」
「お風呂ではなかったようだね」
「あのね、レディ二人の前でみだりに裸になったりしませんよ……」
夜塚が後頭部をポリポリと掻く。
「貴様ならやりかねん」
「あのね、人のことをなんだと思っているの……?」
「自信過剰なナルシスト」
「マイペースな暴君」
「自分勝手なクソ野郎」
「お~3人揃って悪口だ~……ちょっと泣いてきていい?」
「そんな時間は無いよ」
「あ~はい……」
「それでは第四部隊の会議を始める。進行はあたし、
水仙と名乗った女性が黒いタートルネックに羽織った白衣のずれを直しながら呟く。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……」
「よろしくどうぞ~」
三丸たちがそれぞれ敬礼をする。水仙も敬礼を返してから口を開く。
「前もって伝えておいたけど、今回はあたしが開発に携わった『ツインアタック』の成果に関してです。もちろん報告は受けているけど、あらためて評価を伺おう……まずは三丸隊長」
「はっ、先日の東尋坊での合同訓練ですが……福井隊と富山隊で行いました。まずは志波田隊員と雷電隊員による『天空鬼翔』ですが……かなりの破壊力を計測しました。防御の堅い相手には極めて有効かと……」
「ふむ……しかし、金棒並みって、どういう拳をしているんだか、雷電隊員は……」
「超のつく頑丈さを誇ります。天性のものかと」
水仙の呟きに深海が応える。三丸が続ける。
「次に宇田川花隊員、宇田川竜隊員と佐々美隊員による『神之双眼』……単純に距離が離れた相手だけでなく、得体の知れない相手などにも有効ではないかと考えます」
「なるほど……深海隊長はどう思う?」
「科学的、非科学的、両面の要素をもったアプローチは実に興味深いです」
深海が冷静に答える。
「最後に氷刃隊員と宙山隊員による『魔法射撃』……今回は銃弾に追尾性を持たせていましたが、今後も色々と試す価値はあるかと」
「夜塚隊長は何かアイディアはあるかな?」
「パッと思い付いたのは、銃弾を透明にするとかですかね~」
「ほう……」
「まあ、イレギュラー相手に効果があるかと聞かれると分からないですけど」
夜塚が両手を広げる。
「いや、わりと良いアイディアだとは思う……深海隊長としてはどうかね?」
「まずは宙山隊員の魔法のバリエーションと相談だと思います……」
「それもそうか……では引き続き、深海隊長から報告を……」
「はい……先日の立山連峰で、富山隊と石川隊で合同訓練を行いました」
「期せずしてツインアタックの初陣となった時だね」
「ええ、ますは宙山隊員と疾風隊員による『魔法剣士』が空のイレギュラーを撃破しました」
「飛ぶ斬撃とはまったく興味深いね……夜塚隊長はどう見る?」
「疾風隊員が近接戦闘以外にも戦える可能性が広がったのは良い感じですね」
「うん……深海隊長、続けてちょうだい」
「はい、佐々美隊員と古前田隊員による『神速豪槍』ですが……かなりのリーチです。今後の訓練次第では、もっと伸ばせるかと思われます」
「長距離攻撃ね……」
「それももちろんだけど、他にもバリエーションが期待出来ると思いますよ。なんてたって、神様仏様のお力添えがありますから♪」
夜塚が笑顔を浮かべる。
「バリエーションが増えるの?」
「恐らく。まあ、それも今後の訓練次第ですけどね。まずはあの二人にもっとコミュニケーションを取らせないといけないかなと思いますが」
「やはり、そういうメンタル面の影響も出てくるか……」
水仙が腕を組んで頷く。
「最後に、雷電隊員と星野隊員による『天空覇者』ですが、星野隊員のアシストが必須という点を鑑みれば、極めて有効だとは言い切れませんが……」
「三丸隊長はどう思う?」
「高く飛べるのは良いと思います。滞空時間を伸ばすなど工夫の余地もあるかと」
「そうか……それでは夜塚隊長から報告を……」
「は~い。手取川で石川隊と福井隊で合同訓練を行いました。まずは星野隊員と氷刃隊員による『射撃雨霰』です。空中からの連続射撃は実に効果的でした」
「こちらも滞空時間を伸ばすなどすれば、使い道は増やせるかと思います」
三丸が夜塚の言葉を補足する。水仙が眼鏡のフレームを触りながら呟く。
「星野隊員も弓で射撃出来れば面白そうだね……」
「それも訓練次第で可能になると思います。次に、古前田隊員と志波田隊員による『鬼仏双撃』です。こちらは言ってしまえば力任せなですが、突破口を開く際は最適かと……」
「こちらもなかなかの破壊力を計測しているね」
水仙が資料を確認しながら頷く。夜塚が続ける。
「最後に、疾風隊員と宇田川花隊員、宇田川竜隊員による『索敵之剣』ですが……姿をとらえにくいイレギュラーなどには有効だと考えています」
「深海隊長はどう考えているかな?」
「宇田川姉弟は後方からの支援に適していると考えておりますので、あまり前線に出すのはどうかとも思いますが……」
「味方の戦力を引き出すことが出来る。これも使い方次第だ」
深海に対し、三丸が反応する。水仙がやや間を置いて、口を開く。
「……まあ、大体三人の考えることは分かったよ。ツインアタックは今後も積極的に使わせていくとしよう。そういう方針で指導に当たってちょうだい。OK?」
「了解しました」
「りょ、了解です」
「了解で~す」
水仙に対し、三人の隊長がそれぞれ返事をする。水仙が笑顔で告げる。
「それじゃあ、今日のリモート会議は終わりにします。ご苦労様でした」
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