第11話(3)能登半島にて

「……さて、はるばる能登半島の先端あたりまで来たけど……あれがゲートだね」


 現場に到着した夜塚がゲートの存在を確認する。


「まもなくイレギュラーが出現します!」


 通信が入る。夜塚が応える。


「了解……」


「なんだかいつもより禍々しいような……」


 月がゲートを見て呟く。


「星野隊員」


「あ、す、すみません、適当なことを言って……!」


 月が頭を下げる。


「いや、君の感覚は恐らく正しい……」


「え?」


 人間より一回り大きい影が何体か出てくる。夜塚が目を細める。


「む、あれは……」


「パターン赤、妖魔です!」


「危険度は?」


「! Aです!」


 通信手の驚いた声が伝わる。


「エ、Aだと⁉」


 慶も驚く。


「確認した。速やかに討伐に当たる……!」


 通信に応えた夜塚が大海たちの方に向き直る。


「隊長、あれは……!」


 大海が影を指差す。


「ああ、金棒のようなものを持っている……」


「ということは……⁉」


「鬼の影だろうね……」


「お、鬼……⁉」


「そうだ」


「そ、それってかなり強いのでは……」


「強いね、それも数体だ」


 月の言葉に夜塚が肩をすくめる。


「そ、そうですよね、危険度Aですものね……」


 月が納得する。大海が問う。


「我々だけで大丈夫でしょうか?」


「あいにく石川基地の他の部隊は別のイレギュラー討伐に出払っている……」


 夜塚が自らの側頭部の髪をわしゃわしゃとする。


「それでは待機中の……」


「まあ、待ちたまえ、それはあくまで最終手段だ」


「え?」


「情けないことを言う様ですが、オイラたちでは手に余りますよ」


 慶が首を傾げながら両手を広げる。夜塚が笑みを浮かべる。


「己の力量をきちんと把握しているのはむしろ立派だよ……」


「お褒めに預かり光栄です……しかし、どうするんです?」


「……一人忘れているよ?」


「ん?」


「え……?」


「はい?」


 慶と大海と月が揃って首を傾げる。


「おいおい! 本当に忘れないでくれよ! ボクがいるでしょ⁉」


 夜塚が自身を指差す。


「あ、ああ……」


 大海が戸惑い気味に頷く。


「グウ……」


「鬼どもがこちらに向かっているぜ!」


 慶が声を上げる。


「グウ!」


「うおっ!」


 鬼の影が一体金棒のようなものを思い切り地面に叩きつける。地面は激しく揺れ、大きな地割れが起こる。慶が驚き、月が声を上げる。


「一体でもあの力……!」


「やるな……!」


 大海が顔を一層厳しくさせる。


「まあ、そう慌てることはないさ……ふん!」


「グウ⁉」


 夜塚が印を結ぶと、火の玉が鬼の影たちに向かって飛び、鬼の影たちが持っている金棒のようなものが次々と溶解させる。


「火克金か!」


「そういうこと……!」


 慶の言葉に夜塚が頷く。


「グウウ……」


 鬼の影たちは戸惑った様子を見せる。


「ふふっ、得物が無くなって戸惑っているようだね……」


 夜塚が笑う。


「グウウウ!」


「それでもこっちに向かってきていますよ!」


 月が鬼の影たちを指差して声を上げる。


「ならば……ふん!」


「グウウ⁉」


 夜塚が印を結ぶと、水が地面にかかり、地面から木がいくつも生えて、鬼の影たちの足を絡み取ってしまう。月が呟く。


「水生木……」


「そう。これで満足に動けないだろう……古前田隊員! 星野隊員!」


「おっしゃあ!」


「はい!」


 慶が鬼の影たちに槍を突き刺していき、月が矢を放つ。正確な突きと射撃によって、心の臓あたりを貫かれた鬼の影たちは次々と霧消していく。夜塚が頷く。


「よし、いいよ、二人とも!」


「グウウウ‼」


「むっ⁉」


「何体かが木を強引に引きちぎりました!」


「そう簡単にはいかないか……」


 月の報告を聞き、夜塚が苦笑する。


「私が!」


「いや待て、疾風隊員! 単身突入は危険だ!」


「し、しかし!」


「手を貸そう……」


 夜塚がブレスレットを着けた手首を見せる。


「そ、それは⁉」


「手を掲げて!」


「は、はい!」


 それぞれ手を掲げた大海と夜塚が同じ色に包まれる。


「よし! 任せたよ!」


「はい‼ うおおっ!」


「グウウウ⁉」


 大海が振るった剣から炎が噴き出し、その炎に包まれた鬼の影たちが霧消していく。


「『陰陽之剣』……効果ありだね」


 夜塚が笑みを浮かべる。


「大海の剣に火の属性を持たせたのですね……でも、どうして?」


「良い質問だねえ、星野隊員」


 夜塚が月の方に向き直る。


「は、はあ……」


「金棒を持っているのは、いわゆる赤鬼だ――もっとも影だから黒鬼にしか見えないけれど――赤鬼とは渇望を意味すると言われている」


「渇望……渇き?」


「そう、渇きとは真逆とも言える火がもっとも効くだろうと思ってね」


「なるほど……」


 月が顎に手を当てながら頷く。


「さてと……大体片付いたかな?」


 夜塚が周囲を見回す。


「新たにゲート開放反応確認!」


 新たに通信が入る。


「む!」


 付近に二つのゲートが開き、戦闘機の影と巨大なワニの影がそれぞれ何体か現れる。


「パターン黄、悪機です!」


「パターン青、巨獣です!」


「こ、これはまた数が多いぜ……」


 慶が戸惑う。


「仕方ないね……最終手段といくか……と思ったら、もう来ていたようだね」


「え……?」


 夜塚の呟きに月が首を捻る。


「現着しました……」


「来たぞ……」


「ふむ……」


「‼」


 大海たちが視線を向けると、深海率いる富山隊と三丸率いる福井隊が駆け付けていた。


「は、速い⁉」


「そりゃあこの為に待機させていたようなものだからね……」


 驚く月の横で、夜塚が満足気に頷く。


「へへっ! こいつはまた盛り上がってきたな!」


「夜塚隊長! 号令をお願いします!」


 慶が笑い、大海は指示を仰ぐ。


「ああ、三隊合同任務だ!」


 三丸が声を上げる。石川隊、富山隊、福井隊の三隊、三度の揃い踏みである。

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