第4話(3)立山連峰付近にて

「到着しました」


「ありがとうございます」


 深海が自分たちを運んできてくれた車のドライバーに礼を言う。


「ご武運を!」


「ど~も♪」


 車を降りた夜塚が呑気な返事を返す。深海が空中に開いた黒い穴を見つめる。


「ゲートが完全に開いていますね……」


「間もなくご登場だね……」


「!」


 ゲートから、黒いヘリコプターのような影が数体と、黒い木のような影が、それぞれ数体飛び出してくる。通信が入る。


「パターン黄、悪機です! さらにパターン赤、妖魔です!」


「こ、これは……」


「同時に出てくるとはなかなかレアなケースだね……」


 夜塚が呟く。深海が通信先に尋ねる。


「危険度は?」


「いずれもCです!」


「そうですか……」


「それなら彼らに任せてみてもいいかな……」


 夜塚が顎をさすりながら頷く。深海が否定する。


「それは駄目です」


「何故だい?」


 夜塚が首を傾げる。


「レアなケースだと自分で言ったでしょう、彼らに任せるには経験が不足しています」


「何事も最初は初めてさ」


 夜塚が両手を広げる。


「それはそうですが……」


「それに互いの県では、珍しいイレギュラーが出てきた。この機会を逃す手はないよ」


 夜塚が影を指差す。


「ふむ……」


 深海が腕を組む。


「そんなに考えている時間は無いよ」


「……はい」


「了承したということでいいね?」


「経験を積ませるということは極めて大切ではありますね」


「オッケー♪ それじゃあ、まずは石川の第四部隊諸君!」


「は、はい!」


 夜塚の声に大海が応える。


「あのヘリコプターを任せよう」


「了解です!」


「まずはアタシが!」


 月が飛び上がる。ヘリコプターと同じくらいの高さまでに達する。


「~~♪」


「な、なんて跳躍力⁉」


 口笛を鳴らす天空の横で雪が驚く。


「はっ!」


「ブッ⁉」


 月が次々と矢を放ち、ヘリコプターの影を霧消させていく。


「やるな、月ちゃん! オイラも負けてられねえ! うおりゃあ!」


「ブブッ⁉」


 慶が槍を投げつけて、ヘリコプターの影を霧消させる。槍はブーメランのような軌道を描いて、慶の手元に戻る。


「槍が戻ってきた! な、なんて槍投げなの!」


「むしろ投げやりな戦い方だ……」


 驚く雪の横で葉が腕を組んでムスっとする。


「まだ残っているわ!」


「私がやります! 古前田隊員!」


「おっしゃあ!」


 慶が槍を地面に思い切り叩きつける。槍が大きくしなる。


「はっと!」


「行けえっ!」


 槍の柄に乗った大海が、しなりの反動を利用して高く飛び上がる。


「『飛翔剣』!」


「ブブブッ⁉」


 大海の振るった剣を食らい、ヘリコプターの影が霧消する。


「! やるねえ……」


「見事な太刀筋だな」


 天空と葉が素直に感心する。


「うにゃ⁉」


 月が着地をミスする。夜塚が満足そうに頷く。


「良いねえ♪ 着地ミスと技のネーミングが減点対象だけど」


「え⁉ 私も⁉」


 大海が驚く。深海が口を開く。


「では、富山の第四部隊……妖魔はこちらが担当しましょう……」


「了解です! 掛けまくも畏き……恐み恐み申す!」


「バッ⁉」


 葉が唱えると、木の影は燃えて霧消する。


「あれは……火の魔法⁉」


「はっ、そんなハイカラなもんじゃねえよ……」


 大海の言葉を聞いた慶が笑う。


「わたしが続きます!」


「ババッ⁉」


 雪が手をかざすと、木の影が急速に枯れて霧消する。月が驚く。


「ど、どういうこと⁉」


「ヒーリング魔法の応用だね、許容量以上の栄養分を注ぎ込んでキャパオーバーさせたんだ。回復専門かと思ったら、どうしてなかなか戦えるねえ……」


「かわいい顔して、結構エグいことするな……」


 夜塚の説明に慶が顔をしかめる。


「さて、一番太い木は僕がいただいちゃおうかな?」


 天空が腕を振り回す。雪が声を上げる。


「かな?じゃなくて、アンタもちゃんと戦いなさいよ!」


「ああ、分かっている……って!」


「バババッ⁉」


 天空の放った強烈な拳が太い木の影を貫いて霧消する。


「……『拳』!」


 天空が渾身のドヤ顔を雪に向ける。


「こっちを見るな! せめて技を放つ前に言いなさいよ!」


「影響を受けやすい奴だな……」


 雪が騒ぐ横で葉が頭を抑える。


「す、凄い……!」


「ネーミングについてはセンス以前の問題ね……」


 驚く大海の横で、月が苦笑する。


「……まあまあといったところですね」


「あれでまあまあ? 厳しいねえ、破竹は……」


 夜塚が首をすくめる。


「評価を甘くしても何も良いことはありません……ん⁉」


 深海が視線を向けると、残っていた木の影と、後から現れたヘリコプターの影、それぞれ数体が不穏な動きを見せる。

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