第3話(2)相撲しろ
「スリングショットが得意だというのは、以前から知っていましたが……」
「あれ? そうだっけ?」
基地内のベンチに腰かけながら花と陸人が話す。
「そうですよ、いつも事あるごとに、自慢気に披露しているじゃないですか」
「こ、事あるごとに……?」
花が首を傾げる。
「もしかして……」
「え?」
「自覚なかったのですか?」
「う、うん……」
陸人が頷く。
「それは……」
花が困惑気味の表情を浮かべる。
「あ、ちょっと痛い奴だと思ったでしょ⁉」
「いえ……」
「ん?」
「だいぶ痛いなと……」
「だ、だいぶ⁉」
「ええ」
「うわあ~ん!」
陸人が顔を両手で覆う。
「まあまあ、泣き真似はやめて下さい」
「泣き真似じゃないよ!」
「本当に泣いているのですか?」
「俺の涙腺の脆さ、舐めないでくれる⁉」
「そんなことで胸を張られても困りますが……」
「ガラスのハートでもあるんだから!」
陸人が自らの胸に手を当てる。
「……そっちに心臓があるのですか?」
「え? ああ、こっちか……」
陸人が手を右胸から左胸に移す。花はため息をつく。
「はあ……まあ、そんなことはともかく……陸人くんの射撃の腕前は確かですね……」
「そ、そうかな……」
「ええ、の〇太くんやウ〇ップを彷彿とさせます……」
「そ、それって悪口じゃない⁉」
陸人がまた涙目になる。
「悪口じゃありませんよ」
「そ、そう……?」
「ええ、ただ……」
「ただ?」
「〇び太くんも〇ソップもやる時はやりますが、陸人くんからはそういう雰囲気はあまり感じられないですね」
「え~ん!」
陸人が再び顔を覆う。
「思ったことを言ったまでですよ」
「も、もうちょっとオブラートに包んでよ!」
「それは無理な相談です」
「そ、そんな~!」
「こんなとこにいやがったか!」
「うん?」
陸人と花が視線を向けると、体格の良いツインテールの女性が仁王立ちしていた。
「志波田隊員……なにか御用ですか?」
「宇田川花隊員、お前には用はない! 氷刃隊員、お前に用がある!」
「ええ……?」
陸人が戸惑う。ツインテールが後ろを指し示す。
「お前と勝負だ! こいつが!」
「ええっ⁉」
ツインテールの後ろに立っていた、短髪で眼鏡の少年が驚く。顔立ちが花と似ている。
「な、なんで竜くんと俺が……」
「いいから勝負しろ! 相撲で!」
「す、相撲⁉ なんで⁉」
「男同士の勝負とくれば相撲と相場が決まっている!」
「は、初耳ですけど⁉」
「いいから! 何度も言わせるんじゃねえ!」
「あ、あの、蘭さん……やっぱりぼくには無理ですよ……」
眼鏡の少年がツインテールに話す。ツインテールが少年の肩をグイっと引き寄せる。
「しっかりしろ、お前はアタイが見込んだ男なのだから……」
「は、はあ……」
「まずはこの基地最弱とも言われる氷刃隊員を軽く捻って自信をつけろ……」
「聞き捨てなりませんね」
花が立ち上がり、自らより、やや大きいツインテールを見上げる。
「む?」
「竜みたいなヘタレが陸人くんに勝てるとでも?」
「ヘ、ヘタレ⁉」
「双子の兄に対して随分と辛辣じゃないか」
「兄ではなく弟です……だからこそ分かります」
「お前は知らんのかもしらねえが、こいつは最近それなりに鍛えてきているぜ?」
「なにごとも限界というものがあります」
「ふん……それなら試してみるか?」
「良いでしょう……」
「いけ、竜!」
「陸人くん!」
「か、勝手に盛り上がらないでくれない⁉」
陸人が戸惑いの声を上げる。ツインテールが大声で促す。
「早くしやがれ!」
「しょ、しょうがないなあ……」
「うう……」
「な、何をやっている、お前ら⁉」
ツインテールが慌てる。陸人と眼鏡の少年が上着を脱ぎ始めたからだ。
「え? 相撲だって言うから……」
「べ、別に服は脱がんでもいい!」
「勝手だな……ん⁉」
四つのアラーム音がほぼ同時に鳴る。その場にいた四人全員への連絡だ。
「……呼び出しですね」
端末を確認した花が呟く。陸人が首を傾げる。
「なんだろう?」
「とにかく行ってみるしかありませんね……」
ジャージから軍服に着替えた四人が呼び出し場所に急いで向かう。陸人が呟く。
「ここって……使われていない倉庫?」
「第一部隊所属、
「第二部隊所属、
「第二部隊所属、宇田川花!」
「第三部隊所属、氷刃陸人……以上四名、参りました」
「……入れ」
「失礼いたします!」
蘭を先頭に四人が倉庫の中に入る。
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