第5話(3)手取川付近にて
「……着いたな、ここが訓練ポイントか……」
「ああ、そうだよ」
三丸の呟きに夜塚が答える。
「……あれはなんという川だ?」
三丸が川を指差す。
「手取川だよ」
「知らんな」
夜塚の答えに三丸が首を振る。
「嘘、結構有名だよ?」
「知らん」
「え~一級河川だよ?」
「……あまり河川の等級を意識はせんだろう……」
「そうかい?」
「そうだ」
「かつては石川と呼ばれていて、県名の由来にもなったんだよ?」
「そういう豆知識を披露されてもな……」
三丸が後頭部を掻く。
「軍神と魔王が戦った場所だよ」
「ああ、あれがあの川か」
三丸が頷く。
「そこでピンとくる? 戦史オタクだね~」
夜塚が笑みを浮かべる。
「別にオタクではない……」
「オタクだよ」
「戦いに身を置いている以上は当然の知識だろう」
「それ以前の問題のような気がするけどね……」
「まあ、それはどうでもいい……」
「どうでもいいって。自分から振っておいて……」
夜塚が唇を尖らせる。
「あの川を挟んで訓練するか?」
「訓練内容に関してはボクらに一任されているけど……」
「せっかくだから地形を活かした訓練をすべきだと思うが?」
「まあ、それも良いかもね……」
「同意ととって良いな?」
「ああ、良いよ」
夜塚が頷く。
「では、我々福井側が、対岸に移動する……」
「え? 良いの?」
「とりあえずはそういう陣形を取ろう」
「川の真ん中にゲートが出現したと仮定して?」
「そういうことだ……」
「了解」
三丸率いる福井の部隊が、石川の部隊の対岸に移動する。
「……移動が完了した」
「オッケー、確認したよ」
夜塚が対岸に向かって右手の親指を突き上げる。
「では……むっ⁉」
「おっ⁉」
川の真ん中に黒いゲートが現れる。
「これは……」
「仮定が現実になるとはね……」
夜塚が苦笑する。そこに通信が入る。
「パターン赤、妖魔です! 危険度はC!」
傘に足が生えた、いわゆる『唐傘お化け』の影が多数現れ、空中をふわふわと浮遊する。
「個々の危険度はそれほど高く無さそうだが……数が多いのが厄介だね」
「どうする?」
三丸が問う。夜塚が対岸に向かって手を大きく振る。
「こっちで問題ないよ」
「任せる」
「任された! 星野隊員!」
「はい!」
空高く舞い上がった月が弓矢で唐傘お化けたちを次々と射抜いていく。
「な、なんて跳躍力!」
「それもそうだけど、あの正確な射撃だ……空中でも体がほとんどぶれていない……」
驚く花の横で竜が冷静に分析する。
「古前田隊員!」
「おっしゃあ!」
「!」
慶が投げた槍が唐傘お化け数体をまとめて射抜く。
「ほおっ、槍投げの選手にもなれそうだな……」
「や、槍はどうやって回収するんですかね?」
陸人が蘭に尋ねる。
「よく見ろ、ちゃんと紐が付いている」
「ああ、銛みたいなものか……」
蘭が指差した先を見て、陸人が頷く。
「疾風隊員!」
「はっ! 『河川斬』!」
「‼」
大海が剣を振るい、川の水が勢いよく降りかかった為、唐傘お化けの数体が霧消する。
「水を飛ばして、傘を濡らしたのか……」
「地形を活かした上手い戦い方ね、ネーミングセンスは上手くないけど……」
竜の分析に花が頷く。
「ふむ、なかなかやるようだな……ん⁉」
三丸のもとに通信が入る。
「新たな反応! パターン青、巨獣です! 危険度はC!」
「……」
三丸たちが周囲を見回すが、影が見えない。
「宇田川花隊員! 探索を!」
「はっ! ……川の中です!」
「なるほど! そこに潜んでいたか! 宇田川竜隊員! 分析を!」
「は、はい! ……水上に引きずり出すのがベストかと!」
「そうなるな! 志波田隊員!」
「はい!」
「地形が多少変わっても構わん! 自慢の金棒を使え!」
「よっしゃあ!」
「⁉」
蘭が金棒で地面を思い切り叩きつける。川から、古代魚のような影が数体飛び出してくる。
「シーラカンスか? まあいい、氷刃隊員! 狙い撃て!」
「りょ、了解です!」
「! ‼ ⁉」
陸人が飛び出した古代魚の影を正確に射抜く。
「さながら探索・分析班と、打撃・射撃班ってところか……役割分担が出来ている上に、連携もしっかりと取れているね……」
夜塚が感心する。そこに大海が声をかける。
「よ、夜塚隊長!」
「うん? あれは……」
夜塚が視線を向けると、残っていた唐傘お化けの影と、後から現れた古代魚の影、それぞれ数体が不穏な動きを見せる。
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